水インフラを支え、人々の生活を守る要となるバルブ
バルブ
水だけではなくさまざまな流体をコントロールするバルブ。私たちのもとに水を届ける水道インフラとしての役割はもちろん、災害時には水を遮断し、破損した水道管からの漏水を防ぐという大きな役目も担っています。創業以来、多種多様なユーザーニーズに応えるバルブを世に送り出し続けてきたクボタは、これまでになかった2,600mmの大口径かつ1.3MPaの高い水圧に耐えうるバタフライ弁という難度の高いバルブを公共事業向けに製作。長年培ってきた経験と技術力の掛け合わせによって、制御の要としてのバルブの新たな可能性を切り開きます。
地下深くから遠くへ水を届けるため、高い水圧に対応する必要性
高度経済成長期に建設された日本の水道インフラの多くは、40~60年の耐用年数を超えてきており、水道設備の更新が急務となっています。ところが、更新を担う水道事業体は、給水人口の減少に伴う水道料金収入の減少といった財政面の課題や、水道事業体そのものの人材不足にも悩まされており、更新は思うように進んでいません。
そこで費用の負担を抑え、人材不足に対処するために、一部の自治体では区域を越えて水道施設を集約し、そこから市町村の境を越えてより広域へ送水する動きも出てきています。
また、都市化が進んだ地域では地下鉄やガス管、光ファイバー、大雨による浸水防止に寄与する雨水管など地下利用が進んでおり、新たに水道管路を設置するとなると、地下40mを超える深さに埋設しなければならないケースがあります。
このような水道事業体が抱える課題を踏まえると、地下深くからより遠方へ水を届けるために、ポンプで高い圧力をかけて送水する必要が出てきています。それに伴い、水道管やバルブは高い水圧に耐えうる仕様を満たすことが求められているのです。
多種多様なバルブを製作し続けてきたからこそニーズに寄り添える
水道利用者のもとに水が届くまでには、水源からダムを経て川に流れる水を引き入れ、浄水場を通過し、送水管、配水管、給水管へ至る長い過程があります。バルブは、この一連の過程の随所に設置されており、水道利用者が問題なく安心して水道を使えるよう、水の流れを遮断したり、水の圧力を制御したりしているのです。
近代水道において主に活用されてきたのは、弁体(流体を遮断、制御するために可動する部分)が上下に動いて水の流れを遮断する「仕切弁」というバルブ。現在では小口径の水道にこそ仕切弁が使われていますが、中口径以上は中心にある弁体が90°回転することで水の流れを遮断・制御する「バタフライ弁」が主流です。
今回クボタが公共事業向けに設計・製作したのは、2,600mmという大口径かつ1.3MPa*の高い水圧に耐えうるバタフライ弁です。バタフライ弁は仕切弁に比べてコンパクトかつ軽量で運搬性が高く、据え付け工事も容易であるという特徴があります。しかし、クボタが製作することになったバタフライ弁は、従来品とは異なる仕様を要していました。
- 1MPaは、約100mの水柱が上がる水圧。5階の建物に水を送るためには0.30〜0.35MPaの水圧が必要とされている。水道分野では通常、0.75MPaの強度と止水性が求められる。
一般的に、口径1,500mm以下のサイズが多い公共事業向けのバタフライ弁は、量産が可能な鋳鉄製(溶けた鉄を鋳型に流し入れる手法)で作られています。一方、発電所や製鉄会社などの民間企業向けの口径の大きいバタフライ弁は一点物が多く、鋼板製(鉄板を切断し、曲げ、溶接する手法)で作られています。今回製造するバタフライ弁は2,600mmと口径が大きく、重量を抑える必要があるため、公共事業向けでありながら、鋳鉄製よりも軽量化できる鋼板製の仕様となっています。
加えて、水道に使用されるバルブには寸法や材質、圧力などが定められた日本水道協会の規格が適用されますが、今回のバタフライ弁は口径2,600mmかつ1.3MPaの高い水圧という規格外の仕様でした。つまり、これまでにないバルブの製作に取り掛かることとなったのです。
これまでになかったバタフライ弁を生み出す掛け算の力
1897年よりバルブを作り続けてきたクボタは、公共事業向けから電力、鉄鋼、石油化学、ガスといった各産業に合わせてカスタマイズされた民間企業向けまで、さまざまな製品を開発・製造しています。そのため、公共事業向けの納入実績とそれによって培ってきた信頼性及び、民間企業向けの異なる仕様を持つ一点物の製造ノウハウが積み重ねられています。
受注前に製造の可否を判断する先行設計では、まず弁箱(配管と接続されるボディ)や弁体の寸法や強度などの基準を設定。この時に拠りどころとなったのが、過去に製造したバルブの実績でした。2,600mmに近い口径の実績を基に、複数の部門を越えて経験豊富な社員たちが、水道管との接合部分の強度や厚み、剛性などを、多面的に協議しながら定めていったのです。
詳細設計では先行設計から受け継いだ図面をベースに、鋼板同士の溶接サイズや形状を最終決定したほか、高い水圧に耐えるために弁棒(弁体を90°回転させる軸)などの部品に使う材質を選定。さらに詳細図面は、設計部門だけでなく組立部門や機械加工部門、溶接部門などが部門の垣根を越えて綿密なやり取りを重ねながら作成していきました。
今回挑戦することとなったバタフライ弁は口径2,600mmという大きさ、かつ1.3MPaの高い水圧という仕様でしたが、それらに加えて流れやすさも追求する必要がありました。
大口径の仕様に合わせて単にバルブを大きくすると、重量が増え、据え付けや運搬がしにくく、コストがかさんで価格が高くなります。そのため、仕様を満たしながらできる限りコンパクトな形状にするべく、解析や強度計算が重要となりました。その礎となったのが、先人たちが積み重ねてきたバルブの製造実績です。過去の実績を基にしたシミュレーションにより、水が流れやすく、かつ高い強度をもつ形状を導き出しました。
バタフライ弁は、わずかな水漏れも許されないため、水圧による変形量などに応じた細かい調整作業を行います。そのベースとなるのが民間企業向け製品のバルブメンテナンスで長年蓄積された、部品の消耗度合いや、錆・汚れといった使用環境ごとのバルブの状態などの情報、過去の製造時の反省点、それらを活かした調整のノウハウです。今回のバタフライ弁では、その培ってきたノウハウに基づいて水漏れを防ぐためにゴムシート部の締め付けを適切に調整し、品質を確保しながら組み立てていきました。
組み立て後は、実際に使用される現場よりも厳しい条件下での水漏れ試験をクリア。各工程で過去の実績やノウハウ、長年培ってきた技術力が掛け合わされて、これまでにない2,600mmの大口径かつ1.3MPaという高い水圧に対応するバタフライ弁が完成したのです。
IoT化でバルブは新たなステージへ
水分野において、バルブは次のステージとして「流れのセンシング」の役割を担うことが期待されています。
例えば、バルブから水道管内の圧力や水の濁り、塩素濃度、臭気といった情報を、設置した通信端末によって外部へ発信することで、水道事業体がいつでも管路内の状態監視ができるようになります。それだけなく、有事の際には、それらの情報が水道事業体のもとにいち早く届いて、早期の復旧対応につながることが見込まれています。
すでに民間企業向けのバルブにおいて、AI分析により故障を未然に防ぐ予知保全が実現しているなど、バルブの機能拡張は着々と進んでいます。これからもクボタは、市場や分野の垣根を越えてインフラや産業を支えるバルブを追求し続けます。