クボタ技報 No.56 2024年 1月
クボタは2022年に新研究開発拠点「グローバル技術研究所」を開所しました。これまでに開所したタイ・北米・欧州の拠点に加え、中国・インドを含めた世界6極で、グローバル研究開発体制を構築していきます。そしてこれからも地域に密着する研究開発拠点が有機的に結びつき、各国・地域の社会課題解決を迅速に解決できる体制の構築を進め、「豊かな社会と自然の循環にコミットする“命を支えるプラットフォーマー”」をめざしてイノベーションの創出に取り組んでいきます。今回のクボタ技報56号ではグローバル研究開発の事例として、タイで農作業の効率向上に貢献するIoTドローン、欧州でのTIM (Tractor Implement Management) による肥料の最適散布、北米の研究開発拠点などを紹介しています。ぜひご一読いただければ幸いです。

機械部門

欧州市場向けコンパクト電動トラクタLXe-261の開発トラクタ技術第一部
欧州では大気汚染対策やカーボンニュートラル対応として、各地で内燃機関への規制が強まりつつあり、その規制に対応した製品の開発が求められている。欧州市場でのカーボンニュートラルへの取組みに対応するべく、クボタ初の電動トラクタであるコンパクト電動トラクタ”LXe-261”を開発した。本稿では、電動トラクタの開発に当たり、直面したフレーム強度に関する課題や高電圧ハーネスの取回しといった課題に焦点をあて紹介する。
- 電動トラクタ
- 電動機器
- 強度解析
- 関連するSDGs
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国内向け直進アシスト機能付きレクシアトラクタの開発トラクタ技術第二部/機械研究開発第一部機械研究開発第四部/機械研究開発第六部
日本国内では農業従事者の高齢化に伴い離農者が増加し、担い手農家や法人への農地集約と規模拡大が加速している。担い手農家や法人は効率的で安定的な農業経営が求められ、クボタは生産の効率化と省力化、作業の軽労化を支援するためスマート農業の開発を推進している。クボタは既に自動運転(アグリロボ)トラクタを販売しているが、GPS農機のファームパイロットシリーズにおいて、スマート農業の入門機種として直進アシスト機能付きトラクタであるレクシアGSを開発した。
- スマート農業
- 自動操舵
- GNSS
- 電子制御
- 関連するSDGs
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欧州市場向け電動ゼロターンモアZeシリーズの開発ターフ技術部/機械研究開発第二部
2024年、クボタは欧州市場向け電動ゼロターンモアZeシリーズ (Ze-481/Ze-421) の上市を予定している。Zeシリーズは、欧州の自治体やコントラクタなどプロ市場向けに開発されたクボタ初のリチウムイオン電池駆動式乗用芝刈機である。プロの求める一日作業を可能とするため、交換式のバッテリパック機構を備え、走行と芝刈作業のために複数のモータ、インバータを搭載している。地球環境の保全に貢献し、これらを実現するために新たに開発したメカ構造、車両制御技術、バッテリパック及び電動化システム開発技術について紹介する。
- 電動化
- リチウムイオン電池
- モータ・インバータ
- 協調制御
- 関連するSDGs
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自脱型7条刈コンバインDR7130の開発収穫機技術部
近年、日本国内では、農家の高齢化や後継者不足によって増加する休耕地を、担い手農家へ集約する動きが続いている。結果、担い手農家一戸当たりの圃場面積が拡大しており、作業能率の向上が不可欠となっている。また、担い手農家は経営効率化の為、補助金が交付される飼料米などの新規需要米の作付けを増やしているが、これらの品種は長稈などの刈取作業が難しい特性を持っている。こうした状況に対応する為、クボタでは「取回しの良さ」と「作物搬送性能」を兼ね備えた、新しいコンセプトの自脱型7条刈コンバイン「DR7130」の開発を行った。本稿では、そのコンセプトを達成する為に行った開発技術について紹介する。
- コンバイン
- 高能力
- 取回し性
- 高作業能率
- 関連するSDGs
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自動運転機能付き田植機NW8SAの開発移植機技術部/機械研究開発第三部機械研究開発第六部/機械研究開発第一部
クボタは2016年に直進キープ機能付き田植機(以下「GS田植機」という。)を市場に投入し評価されている。しかし、田植え作業に慣れていない人は、直進キープ機能だけでは圃場全面を美しく植え付けることは難しい。そこで、本開発のコンセプトは、「田植え作業に慣れていない人でも簡単にストレスなく圃場全面をキレイに植えられること」として、自動運転機能付き田植機の開発に取り組んだ。本稿では、自動運転に適した作業ルート、圃場外周部の倣い走行技術、自動運転特有の技術について紹介する。
- 乗用田植機
- 自動運転
- 作業ルート
- 倣い走行
- 関連するSDGs
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電子制御小型ディーゼルエンジンD902-Kの開発エンジン技術第一部
NSMシリーズは、独自の燃焼方式E-TVCSをブラッシュアップすることで高出力密度と高い環境性能を両立し、搭載製品の競争力強化に貢献している。近年では、排出ガス規制の強化に加えて、CO2低減のニーズが高まっている。この低エミッション化、低CO2化の両立を実現するため、燃料噴射方式を現行のメカ式から電子制御式へ一新する。また、電子制御式に最適な燃焼室形状を設計することで新燃焼方式TVCRを確立し、それを搭載したD902-Kを開発した。本稿では、このTVCRに最適な燃焼室形状の開発と、現行機同等の搭載互換性を堅持したアプローチについて述べる。
- D902
- IDI燃焼
- TVCR
- 小径シリンダボア
- 体格小型化
- 電子制御化
- 関連するSDGs
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3tミニバックホー U-30/35-6αシリーズの油圧システム開発建設機械基礎技術部/建設機械技術第一部
3-3.5tクラスミニバックホーはクボタ建設機械の主力製品であり、世界中に出荷されている。中でも国内向けU-30/35シリーズは主力機種であるが、排出ガス規制対応によるエンジン出力低下の影響から作業能力向上を求める声が出ていた。また近年、環境問題への対応から省エネ化が求められている。さらに現場における未熟なオペレータの増加から、操作性を向上することも求められている。U-30/35-6αシリーズでは、これらの課題を解決すべく、油圧システムの新規開発を行った。1ポンプロードセンシングシステムに旋回優先回路を新たに追加することで、作業能力向上、省エネ化、操作性向上を同時に達成した。
- ミニバックホー
- ロードセンシング
- 旋回優先回路
- 関連するSDGs
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国内向けSLシリーズトラクタ用畑作ロータリの開発農業ソリューション技術部
近年、国内では米価低迷による稲作離れが進んでいる。また、加工・業務用野菜や輸入生鮮野菜の国産化を求める声も大きくなっており、野菜の作付面積拡大と増産を努力目標に据えた国の施策も追い風となって、国内農機市場は稲作用から畑作用へと遷移している。畑作用農業機械の更なる高性能化及び高効率化が望まれる現状を踏まえ、「逆転専用ロータリ」と「超砕土成形ロータリ」を開発した。これらロータリは麦・大豆・野菜の優れた播種床作りをわずか一工程で行うことができるため、畑作作業の高効率化に寄与する。そして、市場に存在していた従来製品では過大なロータリ重量が原因で不向きとされていた、SLシリーズトラクタでの安定作業を実現させた。
- 畑作
- ロータリ
- SLシリーズトラクタ
- 逆転耕うん
- うね立て
- 関連するSDGs
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散布ドローン及びK-iDrone (Kubota IoT Intelligence Drone) の開発KUBOTA Research and Development Asia Co.,Ltd
農業用散布ドローンは近年、農産業において重要な役割を果たしつつあり、タイ市場においては、販売台数が急速に伸びている。このドローンは、単体でも機能するが、IoTデバイスでもあるために、アプリケーションにより機能を拡張することが可能である。KRDAは、ドローンから取得したデータによって、ユーザの作業効率と、ドローン操作支援を最大化するために、高度なアルゴリズムと分析モジュールを活用したクラウドベースのIoTプラットフォームであるK-iDroneを開発した。このK-iDroneにより、当社のタイ及びASEAN地域における散布ドローン事業は、他社に対して高い競争力を生み出すことができ、更なる販売拡大が期待できる。
- 農業用散布ドローン
- IoTデバイス
- クラウドベース
- アプリケーション
- 作業効率
- 関連するSDGs
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TIMリアトップリンケージとTIMスプレッダインプルメントの開発Kubota Research and Development Europe S.A.S.
肥料は作物の生育を左右する重要な要素で、散布精度を高めることで収量を高めることに繋がる。また肥料を無駄に撒くことがなければ投入コストの削減に繋がり、作物から得られる収益を最大にするだけでなく、SDGsの観点から環境への影響を最小限に抑えることができ、肥料を最適かつ正確に散布する技術が強く望まれている。クボタは肥料の最適散布を実現するために、トラクタとスプレッダとのTIM技術 (Tractor Implement Management) による自動姿勢制御を開発した。リアトップリンケージ制御によりスプレッダ散布傾斜を調整する独自の新しい TIMアプリケーションである。この開発により、最適なスプレッダ制御アルゴリズムと連携して、肥料消費量と作物の収量の最適化を可能にした。
- TIM
- トップリンケージ制御
- 傾き制御
- 自動散布
- ピッチ制御
- ヒッチ制御
- 関連するSDGs
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コーン向け部分施肥技術PUDAMAの開発Kverneland Group Soest GmbH
サステナビリティの観点から多くの国で肥料の使用を制限する法律が有り、これにより農家の収量が減少する可能性がある。この課題克服のため農家は高収量と収入を保証する高価な機械が必要になる。Pudamaはコーンの種まきに使用する部分施肥システムで、種の真下に正確に施肥を行う。これにより発芽後の根が簡単に肥料へアクセス可能となり、施肥量を25%減らすことが可能になる。Pudamaは3年間の圃場試験で効果を証明した。ヨーロッパのある農家の条件下では機械の寿命間で€40000の節約が可能なだけでなく、肥料の削減により化石燃料の使用を減らし、また肥料の地下水への流亡による汚染リスクを減少させる。PudamaはSoestのOptima精密播種機と互換性があり、市場シェアと売上を増やす重要な製品である。
- 高速播種
- 部分施肥
- 陽圧構造
- 減肥
- 関連するSDGs
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水・環境部門

水道管路状態監視用機器「ウォーターパイプコム」の開発パイプネットワーク技術部/パイプシステム品質保証部水環境研究開発第二部
現在、多くの水道事業体が、計画、工事、維持管理等に関する各種業務の効率化に取り組んでいる。これらの業務の中から特に管路の維持管理業務に着目し、水道事業体へのヒアリング等で課題の抽出と対策の検討を行った。その結果、管内の状態把握が課題の一つとなっており、水理(流向・流速、水圧)、水質(残留塩素濃度、濁度、水温)等の管内情報の見える化を図ることができれば、維持管理業務の効率化につながることがわかった。これを実現するためには、できるだけ多くの地点で水道管路の管内情報を測定しデータを一元管理することが必要である。そのため、水道管路で多く使用されている弁類の有効活用を検討し、水道用ソフトシール仕切弁にセンシング機能を内蔵した機器(製品名:ウォーターパイプコム)及びそれに関連する通信機器の開発を行った。
- 状態監視
- 多点測定
- ソフトシール仕切弁
- センサ設置部
- センサメンテナンス工法
- 流向・流速センサ
- 通信端末
- 関連するSDGs
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MBR用ロータリーパネルフィルターの開発水循環プラント設計部/膜システム部水循環プラント技術部
膜分離活性汚泥法 (MBR:Membrane Bio-Reactor) は省スペースで高度な処理水が得られるが、安定運転のためには適切な前処理が重要である。しかし既存の前処理技術として国内下水で多く使われている1mmバースクリーンは、し渣が多い下水に対しては除去能力が不十分であり、し渣が膜分離装置に付着し機能を低下させるケースがある。そこでクボタではし渣除去率が高く省スペース、低コストなスクリーンを開発した。省スペース性と高い除去率の両立のためスクリーン素材としてメッシュを採用し、支持枠との一体構造や高圧洗浄機能の採用により耐久性、機能持続性を確保した。本機の導入により下水中のし渣が多い処理場であっても、安定したMBR運転が期待できる。
- 膜分離活性汚泥法
- MBR
- 下水処理
- 微細目スクリーン
- ロータリーパネルフィルター
- 関連するSDGs
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産業排水処理向け凝集センサの開発水環境研究開発第二部クボタ環境エンジニアリング株式会社 産業プラント技術開発部
産業排水処理の一般的な処理技術である凝集沈殿法では、凝集不良による水質悪化、薬品の過剰添加によるコスト増や、運転管理に掛かるメンテナンス人員の確保などの課題があり、その解決手段として「凝集センサ」を開発した。本センサは、画像診断技術を利用した人の感覚に近いセンシングを可能にし、従来の光の透過や散乱を利用した凝集センサとは一線を画す独自の技術として確立した。本センサの実現により、これらの課題を解決し、産業排水処理分野のIoT化を推進するとともにクボタの産業排水処理事業に貢献することができる。
- 凝集沈殿
- 凝集センサ
- 画像診断
- 運転管理
- 関連するSDGs
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樹脂製フランジの開発株式会社クボタケミックス 商品開発部
多くの工場の圧力管路で配管材として使われている鋼管は、経年による腐食の懸念があるため、クボタケミックス(以下「KC」という)では、樹脂管への代替を提案することにより、市場開拓を進めてきた。しかし、樹脂製の管路システムであっても、バルブ等と接合するフランジが金属製のため、耐食性や施工性(重量)に課題があった。2020年の本技報では解析による樹脂製フランジの形状検討状況を報告したが、本稿では、製品及び金型形状の工夫により強度確保・更なる施工性向上を図った樹脂製フランジの開発に至った概要について報告する。
- 圧力管路
- フランジ
- 繊維強化樹脂
- 腐食
- 関連するSDGs
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紹介記事
- KRDNA (Kubota Research & Development North America) の紹介
- 大規模MBRの稼働事例紹介(大阪市中浜下水処理場)
- し尿処理におけるASBシステムとその効果の紹介
新製品紹介
- 浸水被害発生時における迅速な復旧活動をサポート「排水ポンプ車用超軽量排水ポンプ」