クボタ技報 No.55 2022年 1月
2021年、クボタは新しく長期ビジョン「GMB2030」を策定しました。この中で、2030年のめざす姿として描いた「豊かな社会と自然の循環にコミットする“命を支えるプラットフォーマー”」とは、製品・技術・サービスを複合したトータルソリューションを提供することで、社会にとってなくてはならない価値を提供し続けていくことを意味しています。人が生きる上で不可欠な「食料・水・環境」分野から、豊かで持続可能な社会の構築に貢献するとともに、そのことによってSDGsの達成に寄与していきます。今回のクボタ技報55号は、世界のさまざまな現場の声に徹底的に耳を傾け、社会に貢献するクボタの技術を掲載しています。ぜひご一読いただければ幸いです。

機械部門

インド現地生産トラクタの開発トラクタ技術第一部/マテリアル・キャスティングセンター/解析センターKUBOTA Research and Development Asia Co., Ltd.
クボタは2015年にMU5501、2017年にMU4501とインド向けトラクタMUシリーズの販売を開始したが、当時インドに生産拠点はなくタイ工場からトラクタを輸出していた。そのため、部品調達費および物流費が販売価格に反映され、性能はよいがローカルメーカに比べ割高な製品となっていた。そこでクボタは2019年にインド大手のトラクタメーカEscorts Limitedと合弁でインドにトラクタ製造会社を設立し、2020年からインド工場でMU4501トラクタの生産を開始した。本稿ではインド現地生産トラクタの開発で培った品質レベルを維持しインド現地調達、インド現地生産するための技術、特にトランスミッション部品に焦点をあて紹介する。
- トラクタ
- マルチパーパス
- インド
- 材料評価
- 騒音解析
- 関連するSDGs
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欧州向けM6002シリーズトラクタの開発トラクタ技術第二部/機械研究開発第三部
油圧機器技術部/解析センター
世界の人口増加にともなって食料需要が急拡大し、食料供給の安定化に向けて重要な役割を担う農業機械の必要性はますます高まっている。欧州では最先端の技術を用いた高い土地生産性の農業が特徴で、これまでクボタでは大規模畑作農家向けに97~127 kW (130~170 HP) のM7シリーズトラクタを導入し、市場のニーズに応えてきた。一方、中規模クラスにおいてはミックス農業(畜産と飼料用も含めた作物生産の両方を行う)が大半を占めており、このクラスでも作業性・生産性向上が求められてきている。そこでM7に続く欧州農業向けトラクタとして、ミックス農業への適合性を向上させた91~106 kW (121~141 HP)のM6002シリーズトラクタを開発した。
- コントロールレバーレイアウト
- クローズドセンタロードセンシング油圧システム
- 関連するSDGs
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枝豆コンバインの開発収穫機技術部
近年、日本国内では枝豆は米からの転作により、作付面積、収穫量ともに増加傾向にある。クボタでは歩行型枝豆引抜き機を販売しているが、収穫作業には別途定置式脱莢機が必要となるため、作業能率の低さがネックとなっており、高精度と高能率を両立した収穫機の市場ニーズが高まっていた。このたびクボタでは、国内の枝豆主要生産地である秋田県農業試験場の協力を得て、業界初の「高精度・高能率な枝豆コンバイン」を開発した。本稿では、高精度・高能率の両立を実現した開発技術について紹介する。
- 枝豆コンバイン
- 野菜収穫機
- フィードチェーン
- バトンタッチ
- 高精度
- 高能率
- 関連するSDGs
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DC70 コンバイン向けコーン刈取りヘッダ CH70 の開発KUBOTA Research and Development Asia Co., Ltd.
国内食料自給率の向上を狙った政府支援政策により、穀物トウモロコシの収穫性能に対するASEANの需要は、コーン市場の規模の拡大とともに増加している。ユーザは、高作業能率、低燃料消費、低作物損失、倒伏コーン刈取り性能を有した優れた収穫機を要望している。コーンヘッダは、ユーザの要望に応える事のできる解決策の1つである。Kubota Research and Development Asia(KRDA)は、コンパクトなサイズ、軽量、着脱容易、収穫後の焼き畑削減への貢献、適正価格、および競合他社よりも優れた作業性能を有したコーンヘッダCH70を開発した。特別な性能を備えたコーンヘッダCH70は、ユーザの作業コストの削減に貢献し、競合他社コーンヘッダと比較してユーザ収入を向上させることを可能とする。CH70は、ユーザの要望に対応し、ASEAN市場の収穫機におけるクボタブランドのシェア向上、事業量および販売ネットワークを拡大して、ユーザとクボタの将来の事業成長に貢献することができる。
- コーンヘッダ
- 収穫機
- コンパクト
- 刈刃形状
- 焼き畑削減
- 関連するSDGs
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乗用2条全自動野菜移植機の開発移植機技術部
国内農業は、米価の低迷により乗用型に慣れた稲作農家が高収益な野菜作に取組む動きが拡大している。また農家の大規模化が進んでおり高能率で軽労な乗用型全自動野菜移植機(以下「乗用型」という。)のニーズが高まっている。一方、クボタは乗用型のラインナップがなく、これらのニーズに応えられていなかった。このような背景から新たに乗用2条全自動野菜移植機を開発した。本稿では、特にニーズが多い「高い植付け性能」と「容易な取扱い性能」を実現した開発技術について述べる。
- 野菜移植機
- 植付け性能
- 取扱い性
- 植付け深さ制御
- 関連するSDGs
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発電機向け全領域再生DPFシステムの開発エンジン技術第一部
世界的な排出ガス規制の強化によってディーゼルエンジンには排出ガス中のPMを捕集するDPFが必須となりつつある。 DPF装着エンジンには捕集されたPMを燃焼除去するDPF再生が必要となるが、無人運転される発電機用エンジンはDPF再生時に運転を停止させることができない。したがって運転条件の全領域でDPF再生可能なことが求められる。本開発では排気昇温触媒と排気スロットルを利用したクボタオリジナルの排気昇温システムの開発により全領域再生を可能にした。また、従来から発電機用エンジンの課題であった低負荷運転が起因となる白煙発生およびDOC閉塞を解決した。
- ディーゼルエンジン
- 発電機
- PM
- DOC
- DPF
- 排気昇温触媒
- 排気スロットル
- 関連するSDGs
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V1505Tコモンレールエンジンの開発エンジン技術第一部
05シリーズエンジンはクボタの農建機やOEM機械に搭載されている、エンジン事業の中核を担うシリーズである。なかでもV1505ターボ(V1505T)エンジンは、シリーズ最大出力の33 kWであり、小型体格と4気筒特有の低振動という、競合他社機にはない特長を有している。05シリーズを展開する欧州では、2019年より排出ガス規制StageⅤが施行されており、規制値が大幅に強化された。今回、欧州市場での事業量確保とさらなる拡販を目的に、規制適合機としてV1505Tコモンレール(V1505T-CR)エンジンを開発した。本稿では、業界最小シリンダボア径でのDI (Direct Injection) 燃焼成立と、競合他社3気筒エンジンを圧倒する小型体格の実現に向けたアプローチについて述べる。
- V1505T
- コモンレールシステム
- DI燃焼
- 小径シリンダボア
- 体格小型化
- 関連するSDGs
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欧州向けミニバックホーRDL3シリーズの開発建設機械技術第一部/建設機械基礎技術部
欧州向けミニバックホーRDL3シリーズは、欧州排出ガス規制StageⅤに対応した5‐5.5tクラスのフルモデルチェンジ機である。従来機で市場から好評をいただいている操作性、安定性、耐久性、吊り能力、掘削力といった基本性能を継承しつつ、近年市場から強く求められるようになってきた快適性の追求と装備品の刷新を行うことで製品競争力をアップし、シェア拡大を図った。快適性については、ミニバックホー業界でトップクラスの静粛性(耳元騒音)を達成した。装備品については、直感的に操作可能なクボタ独自の新ユーザインターフェイス(UI)を開発した。
- ミニバックホー
- 欧州排出ガス規制StageⅤ
- 耳元騒音
- ユーザインターフェイス
- 関連するSDGs
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法面草刈機GC-M500の開発農業ソリューション技術部/解析センター
自走式法面草刈機は除草作業の効率と安全性を高める製品として浸透している。
一方、規模拡大を図る担い手や法人農家が増加している中で、法面草刈機の稼働時間も増えており、さらなる作業能率と耐久性の向上が必要である。そこで、プロ向けの法面草刈機GC-M500を開発した。特にエンジンの最高回転数を2段階から選択できる「マスターモード」を搭載したことで、さまざまな状況に合わせた作業を可能にした。他にもエンジンの出力アップ、耐久性の向上により、農家は作業時間を減らすことができ、高い耐久性によりダウンタイムを減らすことができるため、忙しい大規模農家の時間を他の作業に割り当てられ、生産性を向上できるとともにさらなる規模拡大を図ることができる。
- 法面草刈機
- マスターモード
- 刈刃取付方法
- メンテナンス性改善
- 高寿命刈刃
- 関連するSDGs
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微量NXフィーダの開発精密機器技術部
フィーダとは樹脂混合(コンパウンド)に使用される「二軸混錬押出機」(以下、押出機という)に様々な粉粒体状の材料を定められた比率で連続的に定流量供給する装置である。従来、樹脂の生産工程では、微量添加剤をほかの材料と事前にブレンドし、それをフィーダから押出機に供給することで樹脂製品を生産していた。一方で、生産性向上のため、事前のブレンド工程を無くし、押出機に直接微量添加したいというニーズがあった。それに応えるため、新たに微量NXフィーダを開発した。NXフィーダシリーズはクボタが開発した独自構造のフィーダである(特許取得済み)。その構造的特長を活かすとともに、本開発機では供給精度の向上、微小流量域への拡大、適用材料の拡大、設置面積の低減等の技術を開発し、目標スペックを達成した。本稿ではこれらの開発技術について解説する。
- フィーダ
- 高供給精度
- 微小流量
- 微量添加
- 高精度高安定
- ブリッジ材料
- 関連するSDGs
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水・環境部門

水道管路工事向け「施工情報システム」の開発パイプネットワーク技術部
老朽化した水道管路の更新・耐震化が進められる中、経年化管路率は年々上昇し、早急な管路更新が求められている。しかし、水道管路工事事業者は人手不足に加え、多岐にわたる施工管理書類の作成が義務付けられる等、工事期間が長引くことで、管路工事数が思うように伸長していない。一方、水道事業体は施工管理レベルの低下を懸念しており、正確な施工手順の履行や施工時の管理数値の確実な記録を求めている。そこで、工事現場で表示画面順に作業し、施工情報を携帯端末に入力することで施工管理書類を即時作成できる「施工情報システム」、及び工事の出来形管理のための拡張機能として施工後の止水ゴム輪位置を測定し無線通信機能で反映できる「サイトチェッカー」と継手屈曲角度を自動測定する「サイトアングル」を開発した。
- 水道管路工事
- 耐震型ダクタイル鉄管
- IoT
- 施工品質・効率の向上
- 関連するSDGs
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高精度な水道管路の老朽度評価方法の開発パイプネットワーク技術部/次世代研究第一部
国内には更新が必要な水道管路が多く存在している。水道事業体は健全な水道管路を維持していくことが求められているが、水道管路は埋設されており老朽度は判別しにくく、明確な管路の老朽度評価手法がないため、管路の更新が滞っているとされている。そこで、水道管路の更新促進策の一つとして、これまで蓄積してきた約6000件の調査データを基に、腐食のばらつきや外面塗装の防護期間を考慮し、かつ漏水事故率(件/年/km) として定量的に評価できる高精度な水道管路の老朽度評価方法を開発した。
- ダクタイル鉄管及び鋳鉄管
- 老朽度評価
- 管路更新
- 関連するSDGs
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マンホールポンプAI異常運転検知機能の開発水環境研究開発第一部/環境プラント設計調達部環境プラント技術部/欧州イノベーションセンター
広範囲に数多く点在する下水圧送用マンホールポンプでは、管理の効率化のためクラウド監視システムの導入が増えている。ところが、取得される運転データが膨大なため、維持管理者は日常的な確認が困難になり、異常な運転状態があっても気付けず、故障が発生してからの緊急対応を余儀なくされている。そこでクボタでは、AI・機械学習技術を用いた異常運転検知機能を開発した。AIが人に代わって運転データを分析し、異常な運転状態を通知するため、維持管理者は効率的な予防保全が可能になる。本稿では、開発した2方式のAI機能の詳細に加え、国土交通省B-DASHプロジェクトで実証した本機能の有効性について述べる。
- AI
- 機械学習
- IoT
- マンホールポンプ
- 予防保全
- 関連するSDGs
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ほ場水管理システム「WATARAS(ワタラス)」直接通信(LTE-M)型の開発水環境研究開発第一部/株式会社クボタケミックス 研究部
ほ場水管理システム「WATARAS (ワタラス) 」は、ほ場の給排水をスマートフォンやパソコンでモニタリングしながら遠隔・自動で制御できるシステムで、水管理労力の低減、節水、及び水管理のデータ化とその活用にメリットがある。今回報告する直接通信(LTE-M)型は、ほ場に設置する電動アクチュエータが公衆回線に直接的に接続する通信方式で、既存製品では必須となる通信中継機を必要としないため、これまでは難しかった遠隔地や中山間地での設置・使用が可能となる、本システムを補完する製品である。
- ほ場
- ワタラス
- 水管理
- 遠隔地
- 中山間地
- 通信中継機
- 労力低減
- 節水
- 関連するSDGs
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省コスト・省エネ・省スペース型高率脱窒MBR(LOOP MBR)の開発環境プラント技術部
放流先に閉鎖性水域を抱える下水処理場では窒素除去が求められており、処理水T-Nの放流規制値が5 mg/L未満に定められている施設もある。このような高率脱窒に対応する従来の高度処理方式は、標準活性汚泥法等の二次処理方式に比較して処理コストや消費電力、設置スペースが大幅に増加する。この課題を踏まえ、省コスト・省エネルギー・省スペースでありながら高率脱窒を可能とする新たな膜分離活性汚泥法(MBR)の開発を行った。本法は、無酸素タンクと好気タンクを1槽ずつ有する単段のMBRを直列に4組配置し多段化することで、処理水T-N≒3 mg/Lの高率脱窒を可能としている。後脱窒タンクの設置を不要とし、かつ好気タンクと膜分離タンクを一体化することで、土木・送風機設備の工事費、散気風量の削減が期待できる。また、処理場の高度処理化において本法を既設の二次処理法と並列で稼働させることで、処理水T-N≦10 mg/L相当の規制に対し、高度処理化に必要な費用と工期の削減が期待できる。
- 膜分離活性汚泥法
- MBR
- 省コスト
- 省エネルギー
- 省スペース
- 高率脱窒
- 関連するSDGs
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ごみ処理向けメタン発酵技術の開発水環境研究開発第三部/カーボンニュートラル推進部
可燃ごみ中の生ごみと紙ごみを分離してメタン発酵処理することでバイオガスを回収し、それ以外のプラスチック類(以下、プラ類)や木質等の発酵不適物(以下、異物)を焼却するコンバインドシステムは、廃棄物が持つエネルギーを有効活用できる利点があるが、従来の焼却単独処理に比べてライフサイクルコスト(以下、LCC)が課題となり導入が円滑に進んでいない。本開発では、①高効率な前処理、②独自の縦型メタン発酵槽、③低含水率化が可能な残渣処理を組合わせ、既存コンバインドシステムの課題を解決することを目指した。その結果、開発システムは、焼却単独処理よりも低LCCを達成でき、顧客である自治体が導入しやすいものとなった。またバイオガス発電によりCO2排出量を削減できる本システムを普及させることで、CO2排出量削減・資源循環に貢献することが可能である。
- CO2排出量削減
- 資源循環
- ごみ
- メタン発酵
- 関連するSDGs
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過給機を使用した汚泥焼却設備の省電力技術の開発環境プラント設計調達部
近年、地球環境保全の観点から省エネ技術が求められている。下水処理施設において、汚泥の処理装置として流動床式焼却炉が広く使用されているが、燃焼空気送風機の消費電力が多いことが技術的課題であった。そこで、過給機で廃熱を活用することにより、汚泥焼却設備の電力消費量を大幅に削減する技術を開発した。
- 省エネ
- 消費電力削減
- 過給機
- 流動床式焼却炉
- 汚泥処理
- 関連するSDGs
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クラッキングチューブ市場向け45Ni系Al入り材の開発鋳鋼技術部
エチレン製造用クラッキングチューブ市場では、高付加価値製品となるAl(アルミニウム)入り材を採用する顧客が増加している。クボタのAl入り材は、チューブ変形を懸念してクリープ破断強度の高い35Ni(ニッケル)系材をベースとしているが、チューブ変形より耐浸炭性を重要視した、45Ni系材へのニーズが存在する。クボタはこれらのニーズに応えるため、顧客の志向する耐浸炭性の向上を目指し、更に顧客の現地溶接に配慮した合金設計を行った。 また、現行のAl入り材の一部の製造工程を省き、現行材の35Ni系Al入り材と同等コストかつ製造期間を短縮した製品を開発した。
- 分解管
- 耐浸炭性
- Al入り材料
- アルミナ皮膜
- 現地溶接性
- 関連するSDGs
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紹介記事
- アジアにおける水インフラ整備事業の紹介
- 廃棄物最終処分場の副生塩有効利用技術の紹介