
バレンシアの中でも、パエリア発祥の地として有名なエル・パルマール村。この地で農業に取り組み、レストランも営むラウル・マグロナールさんに「冬期湛水農法(とうきたんすいのうほう)」の利点について伺いました。
(※2017年9月に行った取材に基づきます)
「冬期湛水農法」で収穫量が増える


12歳から38年間米作りをしているというマグロナールさんにお話を伺いました。
ラウル・マグロナールさん


田んぼに水を張っていると鳥の住処となり、そのフンが肥料になったり、イトミミズが増えたりしてトロトロとした土の層を作り、雑草の種が埋もれて発芽しにくくなるなど、収穫量アップにつながります。冬期湛水農法は、生物の多様性を守る環境調和型農業であると言えます。

水のある風景は心を癒し、散歩道にも指定されています。
冬期湛水農法には欠かせない「ファンゲアール」という作業


マグロナールさんの田んぼも、やはり湖のようになっています。
バレンシアではこの時期、「ファンゲアール」という作業を行います。泥をかき混ぜて、稲の株や藁を土の中に埋め込む作業です。
「泥」という意味の「ファンゲオ」という言葉が変化した「ファンゲアール」という美しい響きの言葉は、辞書には載っていないこの地方特有の言葉のようです。


「ファンゲアール」に使用する農機具には2種類あります。
左の写真の籠のようなインプルメントをトラクタの後輪に装着して土をかき混ぜる方法と、右の写真のインプルメントをトラクタの後部に取り付けて牽引(けんいん)して土をかき混ぜる方法です。マグロナールさんは、右の写真のインプルメントを使用する方法が好みだそうです。


左の写真がファンゲアール前の田んぼ、右の写真がファンゲアール後の田んぼでマグロナールさん好みの状態に仕上がっているそうです。
日本の田んぼの田起こしに似ていますが、水が入っており、稲の株や藁を埋め込むところは代掻き(しろかき)に似ています。
直まきが一般的で、田植えをするケースは少ないそうです。しかし、マグロナールさんは4年前から田植えを始めたそうです。


これは種籾や肥料を撒く農機具です。


マグロナールさんの倉庫です。冷房をかけて13〜14℃の低温でお米を保管し、品質を保ちます。
11月になると再び、田んぼにいっせいに水を入れます。水を入れる農作業は、ペレジョナと呼ばれています。
70年前に行われた田んぼ作り
バレンシアには、9世紀にアラビア人が稲作技術と灌漑(かんがい)技術、そして猟師が獲物と一緒にお米を煮込んだパエリアをもたらしたと伝えられています。バレンシアの人々は、この地で田んぼ作りと米作りを始めました。


レストランに飾ってあったこの写真は、マグロナールさんの祖父の時代に行われていた田んぼ作りの様子です。この舟を使用してバレンシアの水源地、アルブフェラ湖を田んぼに作り変えていったそうです。


マグロナールさんが図を描いて説明してくれました。
アルブフェラ湖の一部に、図で青色に塗り潰してあるような壁を葦(あし)で作ります。水深約1.5mの湖底の泥をスコップですくい、帆を張った舟で運び、この壁の中を埋め立てていきます。
現在のアルブフェラ湖の面積は当時の1/5になっていて、実4/5が田んぼに作り変えられたそうです。
