公平な水の配分を行う水利組織スバックとは?

公平な水の配分を行う水利組織スバックとは?

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スバックはバリ島で900年以上続く水利組織です。一つのスバックは10~800ヘクタール程度の水田を受益地として、公平な水の配分を行っています。バリ島にはこのスバックが1,400以上あり、農家は複数のスバックに加入して米作りを行うこともあります。

(※2017年9月に行った取材に基づきます)

棚田を管理するスバックの仕組み

スバックをしているクドゥスさん
井堰

ここでは、世界遺産に登録されているジャティルウィの棚田を管理するスバックを紹介します。 案内してくださったのはこの地のスバック長であるイ・ニョマン・クドゥス(I nyoman kudus)さんです。稲作の時期を決定し、水を配分するだけでなく、祭祀を主催して紛争を解決します。

バトゥカル山から湧き出る水をこの井堰(いせき=水を他へ引いたり流量を調節したりするため、川水をせきとめる場所)に溜めることができます。水門の開け閉めにより、田んぼに流す水量を調節します。

水門を開けるクドゥスさん
水が流れ込む井堰

イ・ニョマン・クドゥスさん
イ・ニョマン・クドゥスさん

クドゥスさん:「ジャティルウィ地域は、スバックのコンテストでNo.1となりました。田んぼがきれいで、ネズミもバッタも少ないところが評価されました。ですから、この井堰も国がちゃんと整備してくれる予定です」

スバック・コンテストは、バリ島のスバックの有用性に着目するインドネシア政府が実施しています。ジャティルウィは「本当に美しい」という意味だそうです。

駐在小屋
輪番配水システム

この小屋は、夜間に水の見張りをするガードマンが駐在する小屋です。

イ・ニョマン・クドゥスさん

クドゥスさん:「水に困っていないのに見張るのは、それがスバックのルールだからです。スバックのルールがなければ、絶対に水は無くなり、困ったことになります。だから見張ります。この小屋も、国に新しくしてもらえます」

また、こちらのスバックでは輪番配水システムを実施しています。米作りでは、田植えの前後に大量の水を必要としますが、その後の必要量は減少します。植え付け時期をずらして、水を順番に割り当てることにより、全体として効率の良い米作りを実施しています。

棚田へ続く水路
棚田の中にある水門

水は、井堰から水路を通って棚田に流れ込みます。棚田の中にも水門が設置されています。

分水地点
薪を頭にのせて運んでいる女性

分水する場所です(写真左)。仕切られた右側が一人の田んぼ、真ん中が四人の田んぼ、左側が八人の田んぼに行く水路の入口だそうです。人数に合わせて公平に取入口の幅が設定されています。
田んぼでは、薪を頭にのせて運んでいる方にお会いしました。薪も棚田から調達しているようです。

神様のお風呂

お寺(プラ=Pura)
田んぼの神様を奉るクドゥスさん

田んぼの神様は女性でデロウマン、水の神様は男性でベタラガンガ、稲の神様が女性でデウィ・スリです。田んぼの神様と水の神様が結婚して、稲の神様が生まれたそうです。

イ・ニョマン・クドゥスさん

クドゥスさん:「バリ島には神様がたくさんいます。バリでは皆、信じていますよ」
神様が沐浴する場所
神様のお風呂を案内してくれるクドゥスさん

ここは、神様が沐浴する場所だそうです。
観光客はもちろん、バリ島の方でも部外者は立ち入れないそうです。イ・ニョマン・クドゥスさんが特別に案内してくださいました。

神様のお風呂

イ・ニョマン・クドゥスさん

クドゥスさん:「これが神様のお風呂です。ここから流れているのは神様の水なので、飲んでも大丈夫ですよ」

彫像や植物が美しく配置され、掃除が行き届いていました。この場所で、ジャティルウィのスバックの祭りが定期的に行われます。

神様のお風呂の内部
神様の水を飲むクドゥスさん

スバック長としての役割

ジャティルウィのスバックのメンバーは約900人だそうです。
通常、スバック長は収穫の数%を受け取れるのですが、イ・ニョマン・クドゥスさんは報酬をもらっていないそうです。引き受けている理由は「スバックの仕事が好きなことと、お祭りも楽しい」からだそうです。

イ・ニョマン・クドゥスさん

クドゥスさん:「報酬はなしですが、水をいっぱいもらえます。誰かが、唐辛子やトウモロコシを作ったりするために追加の水が欲しいという場合は、水代をもらいます。6ヶ月で10万ルピア(約1,000円)です。それが55人くらいいます」

スバック長として一番困るのは、ルールを守らない人が出た場合です。スバックには「アウィグ・アウィグ」という法典があります。稲作のスケジュール、構成員間の紛争の解決、宗教儀式への参加などについて規定しています。村の緑化や清潔を保つなど、環境に配慮した項目もあるそうです。また、「ゴトン・ロヨン」という、日本農村の「結(ゆい=助け合いの組織)」に類似した相互扶助の組織があります。田植えに協力することや、用水路の管理、草刈りなどに参加する義務があります。

ジャティルウィの棚田の観光料金を案内してくれるクドゥス

ジャティルウィの棚田は、観光地にもなっています。入場料は一人5,000ルピア(約50円)です。この収入は、灌漑(かんがい)施設の維持管理に使用されます。

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