神と自然が調和する、バリ島の伝統的な米作り

神と自然が調和する、バリ島の伝統的な米作り

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インドネシア・バリ島の農業は、乾期の水不足に対して「スバック」という水利組織で水を厳密に管理し、輪番配水制度も活用して農業文化を発展させてきました。世界文化遺産にも登録され、インドネシア政府も着目した田んぼの魅力をレポートします。

(※2017年9月に行った取材に基づきます)

伝統的な米作りの島、バリ島

インドネシアは東西約5,100km、南北約1,900kmにおよぶ大小17,000以上の島々からなる群島国家で、2011年の国民総生産(GDP)に占める農林水産業の割合が14.7%を占める農業国です(日本は1.1%)。お米の生産量は2011年6,574万トンで、日本の840万トンの約8倍。中国、インドに次ぐ世界第3位のお米産出国となっています(農林水産省ホームページより)。 インドネシアは1970年代の食糧増産のため、灌漑(かんがい)設備の充実に加えて、バリ島の農業文化に着目したと言われています。

バリ島の田んぼ
イ・マデ・ルンダさんとイ・ワヤン・パニャースさん

ビーチリゾートやガムラン音楽などで有名なバリ島は、インドネシアの中でも世界的に名高い観光地です。ウブドやジャティルウィの美しい棚田を見ると「バリ島にも田んぼがある」と感銘を受ける方が多いと思いますが、バリ島は伝統的な米作りの島です。

バリ島はインドシナ半島からオーストラリアへと連なる島々の一つで、ジャワ島の東隣、南緯8度、東経115度に位置し、東西約140km、南北約80kmの小さな島です。田んぼを訪問したのは11月の中旬、乾期から雨期に入って間もない時期でした。

バリ島の多くは棚田ですが、標高100m以下のエリアには、広い田んぼもあります。この日、迎えてくださったのはタマン・アユン地区で農業を営むイ・マデ・ルンダ(I made rendah)さん(写真左)とイ・ワヤン・パニャース(I wayan panyas)さん(写真右)です。
イ・マデ・ルンダさんが田んぼのオーナーで、またこの地区のスバック(水利組織)のスバック長でもあります。パニャースさんはこの田んぼで米作りに従事しています。

パニャースさんに、米作りの楽しい点についてお聞きすると、全部とのお答えでした。

イ・ワヤン・パニャースさん
イ・ワヤン・パニャースさん

パニャースさん:「全部好きです。苗を育てるのも、田植えも、収穫も、何もかも楽しいです。そして、悪いことが何もなくて、ちゃんと時期通りにできたら一番うれしいですね」
田んぼを監視するイ・マデ・ルンダ さんとイ・ワヤン・パニャースさん
バッタ

悪いこととは、ネズミやバッタ、カニなどの害獣・害虫の大発生だそうです。

イ・ワヤン・パニャースさん

パニャースさん:「ネズミやバッタ、カニなどが大発生すると大変です。カニは一度に子供を二千匹も産みます。カニは水路を壊して穴を開け、水が出てしまいます。カニのためにお米が枯れる場合もあります」

カニが発生したら、鎌(かま)でカチカチと叩いて退治するそうです。そのカニは食べられないのですか、と聞くと「食べると頭が痛くなるので食べられない」とのことでした。また、バッタは「若いお米」を食べてしまうそうです。

雨期と乾期を通して三期作を行う

田植えの終わった田んぼ
穂ばらみ期の青々とした田んぼ

バリ島は熱帯雨林気候で、雨期と乾期の2つの季節があります。年間平均気温は約28℃。乾期は4月から10月までで、日中30℃を超える日もあります。雨期は11月から3月までで、スコールが降ります。

米作りについては、年間を通して二期作ないしは三期作が行われています。訪問した田んぼは稲穂が稔り、収穫の直前でしたが、同じ地域に田植え直後の田んぼや、穂ばらみ期の青々とした田んぼもありました。

種蒔きをしている男性
苗代田

育苗(いくびょう)については、田んぼの一角に設定した苗代田(なわしろだ)に水を溜め、種を直接まいて育てます。地域によっては、育苗業者から苗を買う場合もあるそうです。

スワンナ
スワンナ

稲刈りには二通りの方法があります。一つは脱穀機(だっこくき)を使う場合で、稲の上の方を刈る高刈りを行い、スワンナと呼ばれる脱穀機で脱穀します。

鎌で稲を刈る人
脱穀用の網に叩き付けて籾を落とす人

この日行われていたのは、日本と同じく根元を鎌で刈る根刈りです。根元を持って、脱穀用の網に叩き付けて籾(もみ)を落としていました。田んぼの中での作業なので、籾が飛び散らないようにシートで囲っています。

竹製の農具に叩き付けて脱穀しているパニャースさん
脱穀され散らばった籾

パニャースさんが見せてくれた、竹製の農具に叩き付けて脱穀する方法も一般的だそうです。お米は日本の主食であるジャポニカ米ではなく、細長い長粒種のインディカ米です。

篩(ふるい)を使って藁くずなどを取り除く人
藁くずなどを取り除いたものをバケツに入れる人

脱穀をした後は、篩(ふるい)を使って藁くずなどを取り除き、バケツに溜めていきます。

束ねられた藁束
転作してキャベツを作っている畑

藁束は束ねて保存しておき、農耕用の牛のエサにします。牛の糞は肥料にします。 転作してキャベツを作っている畑もあります。夕方に収穫し、夜に開かれる卸売市場に出荷するところです。

田んぼの中に「お寺」が必ずある

農耕用道具を持つパニャースさん
農耕用の牛

パニャースさんが左手で持っているのは、代掻き(しろかき)のときに田んぼを均す農具で、日本の伝統農具である柄振(えぶり)と同じ形ですが、素材は椰子と竹でできています。右手に持っているのは日本には無い道具で、振ると大きな音が出る楽器のようなものです。音を鳴らして鳥を追い払う農具だそうです。
右の写真の牛は、バリ島特産の牛で農耕用です。脚の下部が白いのが特徴です。

お寺(プラ=Pura)
お寺(プラ=Pura)

バリ島の田んぼの中には必ず「お寺(プラ=Pura)」があります。バリ島における米作りはバリ・ヒンドゥー教と密接に結びついています。「土地はその上にあるものを含めて神の所有であり、人間はその上で働き、そこから得られるものを楽しむことが許される」と考えられています。

バリ島の農作業は儀式とともにあり、さまざまな儀式が「お寺」で実施されます。

イ・マデ・ルンダさん
イ・マデ・ルンダさん

ルンダさん:「水の神、火の神、田んぼの神、稲の神…バリには神様がいっぱいいます」
稲に吊るされたお守り

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