
レストランを経営しながら米作りをするマグロナールさん、小さい頃から米作りを続けてきたガルシアさんなど、バレンシアでの米作りにはさまざまな思いがありました。
(※2017年9月に行った取材に基づきます)
「米作りが好きですし、必要なんです」


スペインの人々は、会話を交わすのが好きです。例えば、バルに入っても、カウンターのあたりに集まっておしゃべりをし、情報交換をしています。バルには農具が飾られていました。


マグロナールさんの田んぼは8ヘクタールで、米作りだけでは黒字にはならないそうです。
ラウル・マグロナールさん
マグロナールさんは最近、田んぼを買い足したそうです。
お米を作っていると、四季で景色が変わります。美しいですね」


バレンシア中央市場でのお米の販売価格は、1kgで1.15〜3.50ユーロでした。
クボタトラクタのディーラーでごちそうになった「Kaki」


バレンシアの農業事情を伺うために、クボタトラクタのディーラーを訪れました。 その事務所でごちそうになったのは柿でした。
AGRO-ATES S.LL..のホセ・ビセンテ・ペリス・ピスクエタさんの話によると、バレンシアの果樹園の3割ぐらいが柿の生産に従事しているそうです。生産過剰と近隣国からの安いオレンジの輸入により、オレンジの値段が下がったために、高い柿に転換しているそうです。6年程前に日本の柿を採用し、名前もそのまま「Kaki」と呼んでいました。農業経営では、ときにさまざまな経営戦略の転換が求められます。


ペリスさんによると、バレンシアと日本は似たところが多いのだそうです。
例えば、「取引にしても契約書ではなく、互いを信じ、約束を重んじる点が似ています」とのことでした。稲作は水の共同管理をはじめとして、互いの信頼関係が必要なため、よく似た心のありようは、同じ米作りに由来しているのかも知れません。


クボタのトラクタについての評価をお聞きすると、「故障しにくいという点が、口コミで広がっています」とのことでした。
ペリスさんからも「日本の稲作農家の方は、どんな感じでお米を育てていますか?」という質問をいただきました。日本の稲作農家は、商品作物の栽培というより、我が子を慈しむようにお米を育てている旨をお伝えすると、にっこりと笑って「バレンシアも、同じです」とおっしゃっていました。
スペインの米作りは、この地から始まった
ガルシアさんがバレンシアの農業組合に案内してくださいました。スペイン各地からお米が集まって来て、良質の種籾(たねもみ)を選別するセンターだそうです。選別された種籾は再びスペイン各地に出荷されます。同じエリアに食用米を選別するセンターもあり、この地域がスペインの米作りの、まさに中心地と言えます。


これが出荷される種籾です。一袋が25kgです。
ガルシアさんに、スペインきっての米どころ・バレンシアへの思いについてお聞きしました。


ホセ・ルイス・マトセス・ガルシアさん



12歳のときから60年間、この地で米作りを続けてきた誇りに満ちた笑顔で教えてくださいました。
柿をごちそうになったペリスさんから、日本に似ていると教えてもらったバレンシアの田んぼ。湖のような冬期湛水農法(とうきたんすいのうほう)の田んぼには目をみはりましたが、取材への協力として農業組合やアルブフェラ湖を案内してくださった農家の方々の人柄にふれると、ペリスさんの言葉を実感しました。
長い年月をかけてアルブフェラ湖の4/5を田んぼに作り変えたこの地域と、稲作に不適な気候と国土を克服した日本は、互いを重んじる心と、お米に対する愛情という共通点があるのでしょう。 バレンシアの田んぼではこれからも、「米のゆりかご」の地の誇りを受け継ぎ、黄金色の稲穂が輝き続けることでしょう。