水には神が宿り、その水が稲作を支える

水には神が宿り、その水が稲作を支える

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ユネスコの世界文化遺産に登録された、バリ島の田園風景やスバック。そのスバックの結束力の秘密は、「水」に「神」が宿るという思いを中心とした宗教との一体化にあります。

(※2017年9月に行った取材に基づきます)

世界文化遺産に登録されたスバック・システム

スバック博物館
スバック博物館の展示物

バリ島の田園風景や寺院、スバックは2012年に「バリ州の文化的景観 : トリヒタカラナ(神と人と自然の調和)の哲学を表現したスバック・システム」としてユネスコの世界文化遺産に登録されました。タバナン地区にはスバック博物館があり、伝統農具など農村文化について展示しています。

スバックの風景
稲の女神・デウィスリーの像

スバック博物館には、美しい稲の女神・デウィ・スリの像が展示されています。

加速する観光化と働き手の不足

バリ島の街並み
バリ島の観光地

バリ島の田んぼは約8万ヘクタールですが、毎年5%減少しているとも言われています。ホテルやレストラン、商業施設に転換し、働き手もそちらに流れます。

農業機械のカタログを見るクドゥスさん

働き手不足の背景から、農業機械への関心も高まっているそうです。
イ・ニョマン・クドゥスさんご自身も「前日に届いた」とおっしゃる農業機械のカタログを興味深く見ておられました。バリ島の田んぼにも変化の兆しはあるようです。ただ、変わらない思いもあります。

水に神が宿る島

水の神を祀る寺院
水の神を祀る寺院

スバックの結束力の秘密は「水」に「神」が宿るという思いを中心とした宗教との一体化にあります。灌漑(かんがい)施設の要所や田んぼには、必ず寺があります。スバックのメンバーは祭りの仲間でもあり、祭りの楽しさ、癒しの共有はスバックの結束力を強めています。
水源地には水の神を祀る寺院があり、僧が取り仕切っています。タマン・アユン寺院は掘割(ほりわり)の水に囲まれ、その水は田んぼに流れ込み、稲作を支えています。

ティルタ・ウンプル寺院
ティルタ・ウンプル寺院

インドラ神が大地を杖で突き、聖なる水が湧き出したと伝えられるティルタ・ウンプル寺院は、地元の方の沐浴場です。その場所とは別に、地元の方が洗濯をしたり、お風呂がわりに身体を洗ったりするスペースもあります。右の写真の手前のオープンスペースが男性用で、奥の壁に囲まれたスペースが女性用です。

聖水とお米を授かる人
お米を顔につけた人

ティルタ・ウンプル寺院で沐浴をする前に、聖水とお米が授けられます。お米は顔につけ、神が愛する美しい花を手に頭上で合掌し、祈ります。

道路のお供え物
道路のお供え物

人々は田んぼの寺に祈り、屋敷寺に祈り、井戸に祈ります。日常生活が、神々と祈りとともにあります。道にも、事故がないようにと供え物をします。

村の寺での祭り

村の寺でも祭りが行われます。常にどこかからガムラン音楽の調べが聞こえてくるのは、あちらこちらで祭りを行っているためです。遠くから聞こえてくるシンコペーションに、不思議なやすらぎを感じます。

1970年代、灌漑(かんがい)施設の整備を進めながら、インドネシア政府はバリ島のスバックに着目して水利組織を整備し、2008年にお米の再自給を達成しました。その後、天候不順等の理由により、お米の輸入を再開することになりますが、スバックの力はいまも生きているはずです。

バリ島のスバックにはお米の貯蔵や貸借、生産設備の共有、共同資金の調達などの機能もあります。水利組織から、さらに経済組織への発展も期待されています。スバックの社会、文化、宗教における多面的機能はこれからもバリ島の稲作文化の中心となるでしょう。そして、スバックを支えるのは、人々の思いです。

「バリスタイルだからですよ」

ノロロン
竹製の笠とパニャースさん

「バリスタイル」という言葉があります。寝室、キッチン、トイレなどが別棟になっているのもバリスタイルです。この屋根の飾り物は沖縄のシーサーや鬼瓦のような魔除けなのですかとお聞きすると、そうではないそうです。名前はノロロンだそうですが、役割はありません。なぜこのようにしているのかの答えが「バリスタイル」です。

この竹製の笠を赤く塗ってあるのも、バリスタイルです。屋根の色に合わせているそうです。様式美や伝統の遵守といったものを含むと思われる「バリスタイル」という言葉。
イ・ワヤン・パニャースさんが笑顔で、「それはバリスタイルだからですよ」と答えてくれたときに、それ以上の質問は不必要に思われました。神と自然と調和する田んぼもまた、バリスタイルなのでしょう。 バリ島ではいまスマートフォンやタブレット端末が普及しつつあり、観光地のホテルやレストランには無料Wi-Fiスポットが多数あります。情報化社会が急速に進展する可能性があります。

お供え物
子供を抱く母親
談笑するバリニーズたち
少年と子犬

米作りは神への祈りと結びつき、農家の生活の土台となっています。

中庭では三世代が集まって、常に語り合っています。
バリスタイルがこの中庭で受け継がれていくのなら、そして神と自然と調和する米作りがバリスタイルであるのなら、どのような変化が訪れても、稲穂の美しい海は、この島に変わらず在り続けると思われます。

協力:I wayan badung(アスティ★バリ)、中島寧々(アスティ★バリ)

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