もともと米の島として稲作が盛んだった久米島ですが、今は米作りが衰退し、収益性の高い作物への転作が増えています。
転作による水不足を解消するべく建設された、世界初の地表湛水型地下ダム「カンジンダム」が与える影響をレポートします。
久米島には水がある
沖縄本島の西方100kmに浮かぶ久米島は、古来より稲作が盛んな「米の島」でした。しかし、今は多くの農家がサトウキビ作へと転換しています。
サトウキビは、干ばつに強い。しかし、今回、お話を伺った9人の方々は「久米島には水があります」と話していました。
その一方で、沖縄県農林水産部南部農林土木事務所は、世界初の地表湛水型地下ダム建設という難工事に挑み、1993年着工、2005年竣工と、12年もの歳月をかけて完成させています。湖のように見えるカンジンダムの貯水池の水は、海に流れ込んでいた地下水をストックすることに成功した地下ダムの水です。
なぜ、久米島の米作りは衰退したのか、そして、カンジンダムは今の久米島の農業に、どのような役割を果たしているのでしょうか。
「雨垂い水や醤油使え(アマダイミジヤショウユジケエ)」
沖縄の家の屋根でよく見かけるのが、魔除けのシーサーです。そして、同じくよく見かけるのが、水を溜めるタンクです。那覇市中心部では、球形や円筒形のタンクが見られ、水道水は、いったんこのタンクに溜めてから使用します。
沖縄には、「雨垂い水や醤油使え(アマダイミジヤショウユジケエ)」、雨水は醤油を使うように大切にしなさい、ということわざがあります。水不足が深刻な地域では、実際に雨水を溜めて使用する事があるようです。
久米島にも、水道水を溜めるタンクがありました。しかし、雨水を溜めるタンクを見かけることはありませんでした。久米島は面積59.11㎢、周囲48km。宇江城岳(標高310m)と阿良岳(標高287m)という2つの山があります。山には雨水の保水機能がありますから、それが稲作を可能とし、「米の島」となったのでしょう。また、17世紀頃に先祖が30余りの溜め池を掘り、その恩恵も受けています。
1971年の大干ばつで米作りが少なくなった
この島で戦前から米作りをされていて、今もカンジンダムの水を使って米作りを続けている山里邦夫さんと山里昌朝さんに、久米島での米作りと水について伺いました。
山里邦夫さん
露地で苗床を作るのが、一番きつかったですね。一番寒い彼岸頃に種をまいて、成長も鈍いから、まいて一ヶ月ないしは40日ぐらいもかかって、それから田植えです」
山里昌朝さん
お二人のように、今も米作りをしている方は、少数になってしまいました。久米島は稲穂の金色の島から、サトウキビの穂の銀色の島になりました。
カンジンダムのめぐみでサツマイモを増産
葉たばこは利益率の高い作物ですが、収穫期に台風が来ると収穫ゼロになるという、リスクも高い作物です。昨年は葉たばこの収穫を台風で失い、今年はサツマイモに転作した仲村渠(なかんだかり)正明さんにお話を伺いました。仲村渠さんは現在、沖縄県農業共同組合久米島支店芋生産組合の組合長も務めています。
仲村渠さん
雨水では栽培できませんか?とお聞きしたら、「雨は無い」のだそうです。
サトウキビだけなら、まだ水はあると言えますが、サツマイモに本格的に転作しようと考えると、水不足となります。それが、カンジンダムが求められた理由のようです。