水を確保するために建設されたカンジンダム

水を確保するために建設されたカンジンダム

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干ばつの多い久米島において、収益性の高い作物を作るために必要だったカンジンダム。そのダム建設の裏には、あるさまざまな困難がありました。

収益性の高い作物への転換を目指して

川辺貢さんと照屋純宏さん

カンジンダムの建設にはどのような苦労があったのか。建設を担った沖縄県農林水産部南部農林土木事務所の川辺貢さんと照屋純宏さんにお話を伺いました。

川辺貢さん
川辺貢さん
沖縄県農林水産部
南部農林土木事業所
計画調整班班長

川辺さん:「カンジンダムは、営農転換を含んだ事業計画だったんです。確かに、サトウキビは干ばつに強いです。年間2,000mmの雨が1,500mmに減少したとしても、耐えられます。しかし、価格が横ばいのなか、収穫量が減少しています。10ヘクタール作っても、所得は400~500万円です。島の活性化は、サトウキビだけでは難しい。マンゴーや切り花、野菜など、より収益性の高いものに切り換えていくには、水が必要です」

照屋純宏さん
照屋純宏さん
沖縄県農林水産部
南部農林土木事業所
農業水利班班長

照屋さん:「そう考えていた頃、国営事業として地下ダムをやっていました。内閣府沖縄総合事務局農林水産部が開発した世界初の技術を使ったのが宮古島の地下ダム。この地下ダムの技術を使って、沖縄県としてもやってみようと」
建設前
建設後

地下ダムは、止水壁を地下に埋め込んで、地中に壁を作って地下水の流れをせき止めて地下水を溜めるダムです。カンジンダムの場合は、琉球石灰岩にできた天然の凹地(ウバーレ)に溜めています。その地下水の一部が地表面に露出して湖のように見える、世界初の地表湛水型地下ダムです。

ダム軸
ウバーレ

写真左の赤い線に沿った部分に止水壁が埋め込まれて、万里の長城のような連続壁となっています。

久米島の農家戸数は専業農家416戸、兼業農家477戸の計893戸です。
(※2005年農業センサスより~久米島町ホームページから引用)
カンジンダムは受益面積338ヘクタール、有効貯水量151万㎥、第3期までの受益農家戸数366戸の計画です。
地表湛水型地下ダムは、世界初の事例であり、建設にあたってはさまざまな困難がありました。

「これで、ようやく、水が使える」

水路
田んぼ

カンジンダム建設当時の話を、沖縄県農林水産部村づくり計画課事業計画班の島袋進さんにも伺いました。

島袋さん:「大変だったのは、事前のボーリング調査では発見できなかった空洞部が次々と見つかった点です。実際に掘り始めると、水が逃げて行ったんです。石灰岩の特長として、あちこちに空洞があるわけです。直径20mくらいの空洞もあり、その充填作業が予定外で、大変でした」

空洞を放置すると、水圧によって止水壁が折れる可能性があるため、埋めておく必要があるそう。充填方法についてお聞きしました。

島袋さん:「大きさや深さによって、その都度違うんです。検討会まで開いて、いくつかの工法を使っています。土とコンクリートをミキシングして埋めた場所もありますし、矢板を打ち込んで止水壁の強度を高める工法をとった場合もありました。また、隣り合った 止水壁同士の重ね合わせも困難を極めました。これも石灰岩の特性で、堅い部分と空洞の柔らかい部分があるため、止水壁を打ち込んでも、微妙に逸れるからです。隙間ができてしまうんですね。ただ、地下ダムの水が溜まっている凹部(ウバーレ)も大きな空洞です。カンジンダムは、なんだかんだ言っても、琉球石灰岩の恩恵なんです」

斜面の洞穴からは数百人分の人骨が発見されたそうです。

島袋さん:「カンジンダムのそばに納骨堂を作って、無縁仏ではなく、きちんと棚を分けて納めました」

最後の止水壁を埋め込んだのは、島袋さんご自身だったそうです。

島袋さん:「感無量でした。これで、ようやく、水が使えるのかなと」

散水の様子

完成した時の写真がないかお聞きすると、返ってきた答えはこうでした。

島袋さん:「とりあえず完成した瞬間、写真を撮るよりも、すぐに飲みに行ったもんですから(笑)」

完成当日、久米島町が祝賀会を実施してくれたそうです。

島袋さん:「十数年続いた事業ですが、最初に関わった方から最後に関わった方まで、仲間をみんな集めて。数百人はいたんではないですかね。朝方まで飲んでいる方もいました(笑)」

ソフト面に力を入れることで、農村振興につながる

川辺貢さんと照屋純宏さん
パイナップル畑

再び、南部農林土木事務所の川辺さんにお話を伺いました。
南部農林土木事務所は、ハードだけではなくソフト面にも力を入れていることが特長だそうです。

川辺貢さん

川辺さん:「沖縄県が作ったカンジンダムを、自分たちのものとして久米島町に受け取っていただいて、活用していただく。自分たちで方法論を考えていただくことが理想です。『久米島ホタルの会』というのがありまして、子どもたちと棚田作りやリバーウォッチングを行っています。それらのソフト面を支援しています」

いかにも施設担当というイメージの『土木事務所』がソフト面の支援を行う理由を聞くと、川辺さんが微笑みを浮かべました。

川辺貢さん

川辺さん:「私たちは、実は『農村振興事務所』なんですよ」

このソフト面の支援が多大な効果を発揮することになります。それは、棚田が持つ浄化機能の活用です。

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