
北海道の中央部に位置する空知平野では、専業農家を主体に大規模で生産性の高い農業経営を展開し、 食料基地・北海道の中核を担っています。
この地に生まれ、 二十歳のときに就農して以来37年間、 北海幹線用水路の水を使って米づくりを続けて来られた奈井江町の農家・岩口一さんにお話をうかがいました。
水の管理はもちろん、レーザーレベラー、GPSを駆使する先進の農業

岩口さんの栽培面積は約32ヘクタール。作っているのは「米、麦、大豆、ブロッコリー少々」とのこと。
岩口一さん


これだけ広いと水の管理も大変なのでは?と尋ねると、岩口さんは現在の水の管理技術について教えてくれました。


麦や大豆に転作するときに、地下水位を上げてやるんですよ。 水が根に届くように、作物に合わせてコントロールするんです。 いいシステムだと思いますよ。水が豊富だから実用化できたんでしょう。 北海土地改良区で考えたんだと思います」
暗渠排水は、田んぼの地下に穴が開いたパイプを埋めて、 このパイプに入り込んだ水を、田んぼの外の水路に排出する仕組みです。 田んぼの地下の水位を下げて、ぬかるんだ田んぼを乾かすことができます。 逆に、この穴が開いたパイプに水を流し込むと、 田んぼの表面まで、下から水を上げていくことができます。
「水の管理が良くなったから、直播(ちょくはん)にでも挑戦してみよう」

直播(ちょくはん)栽培への挑戦のきっかけは、北海土地改良区によるパイプラインの整備だったそうです。


直播栽培は、種籾(たねもみ)を苗代田(なわしろだ)で発芽させて 苗を田んぼに植え替える(=田植え)という移植栽培ではなく、 田んぼに直接種籾をまく栽培方法です。育苗にかかる費用や時間を省けますが、 種籾を鳥に食べられて収穫量が減少するとも言われています。
鳥害についてお聞きすると、笑って答えが返ってきました。
鳥害対策として開発された「鉄コーティング湛水直播栽培」


鉄コーティング湛水直播栽培は、種子を鉄粉でコーティングしてから、水を入れた田んぼに 直接まく栽培方法です。鉄粉でコーティングすることで、表面が硬くなり、スズメの食害の 心配が少なくなります。また、重くなるため、水に浮くことを防止できます。
移植栽培と比べ、 育苗作業・苗運搬が不要で約60%の労働時間の短縮が可能など、メリットが多いために注目を集めている農法です。岩口さんの田んぼでは、コーティングした種子と、コーティングしていない種子での直播栽培の研究をされています。

種蒔きから26日後
岩口さんの田んぼは、ほ場整備で広くしたため、一辺が約170~200mもあるそうです。


畦(あぜ)道での情報交換
北海土地改良区の高柳さんもおっしゃっていました。
高柳広幹さん
(北海土地改良区 水土里ネット推進室長)

「北海土地改良区四十年小史」に次のような一節があります。
『石狩川左岸の広大なる平野を美田化しようとする先人の夢は70年以前に描かれていた。明治42年、当時空知川を水源として砂川村以南1町6ヶ村にまたがる大地域を対象とする一大灌漑(かんがい)溝の実現を目指して、 空知川灌漑溝期成会が結成せられ、 幹事として北小太郎、細野生二、真田嘉七、山口由太郎、石黒長平、北村黽、中島定六の7氏、(中略)工事の調査設計を北海道庁に請願した。(中略)これが事業計画の濫觴(らんしょう)をなしたものである。』
※濫觴=物の始まり、物事の起源。
明治政府の食料増産の悲願に応えるべく、 空知を米所にしようと、力を合わせた先人たち。そのビジョンもまた、畦道での情報交換から始まったのかも知れません。
国内各地をはじめとして、オーストラリアやフィンランドの農場の視察にも訪れた経験のある岩口さん。

平成23年度「米の食味ランキング(日本穀物検査協会)」で最高ランクの特Aを獲得した「ゆめぴりか」へのこだわり。 北海土地改良区による区画整理・排水整備・暗渠排水・客土事業等によるたゆみない総合支援。 大規模化に対応する直播栽培。
先人たちから受け継がれ、今も生き続けるフロンティア精神で、空知農業の挑戦は続いています。
(2012年7月29日 写真提供:北海土地改良区 文責:くぼたのたんぼ管理人)