日本農業にはさまざまな課題がある。しかし、農業そのものを考えると、それは「人が生きる糧」であり、また国土を守り、自然との共生を育む「命を支える」産業といえる。クボタは、これまで支えてくれた農家と、農業という尊い産業を、どのように未来につなぎ日本や世界の食料の安定供給に貢献していけるのかを考えていた。
クボタのその答えの一つが、2016年に開設した「クボタファーム」だ。クボタが自ら農業経営や農作業を行い、日本農業がこれから必要とする低コスト化や省力化、精密技術などを実践・実証する場であり、また入口(作る)から出口(売る)までのトータルソリューションにトライする場といえる。日本各地の課題に応じたクボタの提案を「やって」「見せて」「実証する」ことで、儲かる農業につながるモデルを作り、若い世代を呼び込んで持続可能な農業につないでいく壮大な試みだ。全国13ヵ所(2024年7月現在)に展開している。
その中に兵庫県の「クボタeファームやぶ」がある。ここは過疎化の進む中山間地域※1で、少子高齢化により農家の担い手不足や後継者不足、そして耕作放棄地増に悩む典型的な日本の農村地域だ。しかし地元行政を中心とした地域活性化に向けた積極的な取り組みが国に認められ、2014年、中山間地農業の改革拠点として国家戦略特区※2に指定されていた。実は日本の農地の約4割は中山間地域にあり、どこも同じような課題を抱えていた。そこでクボタは、この地で新たに「儲かる農業」のモデルを作り、将来の後継者づくりと地域活性化への貢献を掲げたのだ。この地域はもともと米の産地だ。しかし、耕作面積が狭く、冬は雪が積もる。年間を通じ安定した収益を得るのが難しい地域だった。そこで着目したのが都市部で需要の高い「トマトのハウス栽培」である。しかも栽培する品種は、人気があり甘みの強い「フルティカ」と「小鈴」の2種類に絞ることで、高付加価値による高収益も狙った。また、医療用のハイドロゲルという技術を農業に転用した特殊フィルムを用いる「アイメック栽培※3」を採用。これにより土づくりが不要となり、栽培経験のない人でも糖度の高いトマトの収穫を可能にした。この戦略は見事に成功し、中山間地域での儲かる農業の一つのモデルになった。クボタは、クボタファームで得たさまざまな情報を全国の農家に提供し、地域の活性化や日本の食と農業の未来に希望を灯していく。