世界中でいまなお8億4,400万の人々が、清潔で安全な水の入手が困難な状況にあるという。その原因は、地理的・気候的問題のほか、政府の資金不足や給水サービスを提供、維持できる機関の欠如、さらに災害や紛争の影響などが挙げられる※2。そして東南アジアに位置するカンボジアもまた、そういった問題を抱える国の一つだ。
過去の内戦が水インフラの整備にも影を落としているこの国で、水道または水道水栓からの安全な水にアクセスすることができるのは、都市部に限定しても2005年時点で人口全体のわずか約37%※3。カンボジアでは毎日の生活に安心して使用できる水を、より多くの人に届けるためのインフラ整備が急務だった。
クボタと、プノンペン市の水道事業との関わりは1959年から始まり、すでに60年を超えている。戦後補償の一環として当時携わった「チュロイチョンワール浄水場」の新設工事は、株式会社クボタ工建(現・株式会社クボタ建設)にとって初の海外事業だった。その後、ポル・ポト政権によって政府の体制が変わり、資金や人員の不足によってほとんどの浄水場の機能が停止。内戦後に再稼働したものの、老朽化したパイプは傷みが激しく、全体の72%が漏水していたという。
このような状況からの復興に日本をはじめ国際社会が援助、クボタも尽力した。1994年から「プノンペン市上水道整備計画」に参画。ポンプやバルブなどの機器類、ダクタイル鉄管※4などの配管設備、送水量や水質を適正に管理する監視システムを納入。2001年に受注した「プンプレック浄水場拡張計画」では、既存施設の改修とともに、水処理システムを整備・増設し、処理能力を引き上げた。そして2006年にはプノンペン市内の水道普及率は90%に達したという。 このカンボジアの水道事業の成功は、現地では「プノンペンの奇跡」と呼ばれている。
クボタは、現地の声に耳を傾け、汗を流し続けてきた姿勢が評価され、現在もカンボジアの水環境整備に取り組んでいる。2012年には地方都市のプルサット市、バッタンバン市、シハヌークビル市における上水道管路の改修および拡張工事も受注。2015年までに国内の飲料水の普及率を80%まで引き上げる目標を掲げていたカンボジアで、当時約30%にとどまっていたそれら3都市の給水人口の拡大や、漏水減少による各州都水道局の経営改善に貢献した※5。さらに2019年には「コンポントム上水道拡張計画」にも取り組み、給水対象地域の拡大と浄水場の拡張整備などを行っている。
創業時から、水インフラの技術で社会に貢献してきたクボタ。カンボジアにおける海外初の水道事業を皮切りに、日本をはじめ、さまざまな国や地域での事業展開を続けてきた。今日も世界のどこかで、クボタは、培ってきた技術とマインドで、安全な水をより多くの人に届けるために水インフラの整備に取り組んでいる。