日本の農家のほとんどは家族経営で、高齢者や女性も含めさまざまな人が農業機械を使うため、クボタは操作のしやすさや使いやすさに配慮してきた。1990年代になると農家の高齢化が進み、よりいっそう操作しやすく使いやすい農業機械の必要性が高まる。ちょうどその頃、日本でもユニバーサルデザイン(以下 UD)が注目され、家電製品や自動車などに採用され始める。UDを簡単に言えば「年齢や能力、性別、体格などにかかわらず、できる限り多くの人が利用できるようにすることをめざした設計やデザイン」のこと。幅広いユーザーが安心して簡単に操作できる農業機械は、就農者の間口を広げることも期待できる。
しかしその実現には、例えば身長の低い人でも乗り降りが楽にできるか、ペダルに適切に足が届くか、安定した姿勢が保てるか、視界をしっかり確保できているか、操作レバーを見間違えないか、表示パネルは見やすいかなど、多くの課題を解決していく必要がある。しかも、これらを農業機械の機能や性能と融合させながら一つひとつデザインに落とし込まなければならない。とりわけ高齢者にとって、安全に操作でき、楽に乗り降りや作業ができる農業機械は、農業を続けていくための動機にもなる。
そこでクボタは、UDの第一歩として、表示がひと目でわかる電子メーターと操作手順や注意事項がはっきりわかる日本語表示を1998年、トラクタ「キングウェル」に採用。誰もが気疲れなく安心してトラクタの操作ができるようにした。その後、運転席周りの表示パネルを見やすくシンプルにしたり、操作レバーを見間違えないよう色分けし操作ミスや事故を防ぐなどのデザインを施していく。さらに「見た目に使いやすく」を目標に居住性や乗り降りのしやすさにも配慮する。2000年代に誕生したトラクタ「キングブル」は、そのようなUDの思想を随所に採り入れ、高齢者をはじめ多くの農家に受け入れられた。その実績が評価され、2004年度のグッドデザイン賞※2に選出された。クボタのUDの考え方は、2010年代に旋風を巻き起こすオートステアリング機能※3や自動運転・無人化農業機械※4にもつながっていく。