初期の農業機械は、重労働や働き手不足をカバーするために走行性能や基本的な作業性能が重視されていた。しかし時代とともにパワーやスピード、操作性や安全性などさまざまな機能が必要な性能として加わっていく。快適性もその一つだ。特に農作業は、雨や風の中でも行う。それは高齢化の進む日本の農家にとって肉体的にも精神的にも辛い作業である。加えて、従来のようにオープンな運転席では「作業中、ほこりやチリが服の中に入ってきて、体がかゆくなって困る」といった悩みを多くの農家から聞いていた。作業効率は良くなったが、快適性の問題がまだ残っていたのだ。
クボタは、基本性能や操作性などの向上とともに、快適な作業性もこれからますます重要になると考えた。その思いを形にしたのがキャビンである。自動車と同じように密閉可能で快適な空間を農業機械に装備すれば、天候に左右されずに効率的に作業でき心身の負担軽減につながるはずだ。そこでまず、1990年にクボタ創立100周年記念モデルとして発表したトラクタ「グランデルシリーズ」に、エアコンを装備した本格キャビンを採用。ほこりやチリなどの悩みを解決し、四季の変化や雨風でも快適な作業性を実現した。さらに1998年、快適性に徹底的にこだわって設計した「キングキャビン」を搭載したトラクタ「キングウェル」を発表する。機体に剛性感をもたせて振動や騒音を可能な限り抑制。体への負担を減らすとともに運転時の安心感を高めた。また広々とした視界はゆとりある操作の実現と精神的ストレスの低減など、農家に季節や天候に関係なく心身の疲労を軽減する快適な作業空間を提供した。
快適性を高めることには、実はもう一つの利点がある。それは不注意による事故の防止だ。例えば、トラクタは平たんな道ではなく水田や畑など凹凸のある多様な土質のほ場※1を走行する。加えて日に何度も、あるいは長時間乗って作業を続けることもある。心身が疲れるのは当たり前のことであり、一般的に加齢とともにその度合いが高まる。疲れるとどうしても注意力・集中力が落ち、不用意な事故の可能性も高まるのだ。快適性の向上は心身の疲れを軽減するとともに、安全性の向上にもつながっていく。クボタは農業機械の快適性をさらに進化させることで高齢化する日本の農家を守っている。