インドの人口は約13.5億人※1。近年BRICsと呼ばれる経済新興国の中でも高い成長率を維持し工業化や都市化が進む。ただ主要な産業は農業であり、米や小麦の作付面積は世界第一位※2という農業大国である。農産物自給率(穀類)も100%を超え、農産物の輸出は国の経済を支えている※3。
しかしインド農業が抱える課題は少なくない。いずれ中国を抜いて世界一になると予測される人口に対し、現在の食料自給率を将来も継続できるかどうか、また米や小麦の作付面積は世界第一位でありながら、生産量は世界第二位であるなど生産効率も問題だ。労働力が安価なため人力に頼る農家が多いことも課題となっている。さらに工業や建設業に従事する人が増え農業従事者が減少傾向にあるのも懸念材料だ。インドが安定的な食料生産を維持できるかどうか、それはそのまま世界の食料安定供給の問題にもつながってくる。
クボタがインドに進出したのは2008年である。当初は、クボタブランドの浸透とディーラー網の構築をめざし、果樹園や綿花畑、水田など小型軽量のトラクタが活躍できる市場開拓から始めた。しかし、インドではトラクタは農業だけではなく、移動や牽引、運搬など多目的に使われる。本格的にインド農業に役立つには、インドに適したトラクタ開発がどうしても必要だった。そこで新型トラクタ開発プロジェクトがスタートする。「どんなトラクタが求められているのか」、農家の声を徹底的に聞き分析。出てきた答えは、これまでの稲作市場とはまったく異なるものだった。トラクタが一年中、多目的に使われるインドでは、高い牽引力が必須であり、トラクタにはそのパワーに耐えうる重さが必要だったのである。小型軽量が得意なクボタにとって未知の領域への挑戦となった。しかも日々使うために低燃費性や疲れにくい操作性も求められた。そのような声を集約し開発したのがマルチパーパストラクタ「MU5501」だ。農家の日常のさまざまなシーンで活躍している。さらにクボタは2019年、インドの農業機械大手企業のEscorts Limitedと合弁会社を設立。現地での低価格・高品質なトラクタ生産を通して世界最大のトラクタ市場といわれるインドで存在感を高めるとともに、新興国をはじめ世界の農家のニーズに応えていく。