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TECHNOLOGY

その場にいなくてもトラクタが働く時間も場所も縛られない。農業の働き方を変える「遠隔監視」

2026 . 08 . 06 / Thu

ほ場内で無人で作業を行う遠隔監視対応の新型アグリロボトラクタ

写真・文:クボタプレス編集部

様々な産業で働き手の不足は共通する課題になっています。飲食店では配膳ロボットが料理を運び、スーパーではセルフレジが当たり前になりました。数年前には珍しかった光景が、いつの間にか日常になりつつあります。人手不足への対応は、私たちの身近な風景を静かに変え始めています。

農業はこれまでも担い手の減少が課題になっていましたが、産業全体で働き手が減る中で、さらなる対応が求められています。クボタはこれまでも農業の生産性向上に向けて機械化に取り組み、近年はトラクタ、コンバイン、田植機の自動化を進めてきました。そして、今回さらなる生産性の向上と省人化に向けて、遠隔監視によって畑作・稲作の様々な作業を無人で行う新型アグリロボトラクタを発表しました。

遠隔監視下において、ほ場で無人運転しつつ作業を行う新型アグリロボトラクタ

遠隔監視下において、ほ場で無人運転しつつ作業を行う新型アグリロボトラクタ

本記事では、遠隔監視による自動運転が農業の課題にどう応えようとしているのか、北海道の農業を支えるホクレン農業協同組合連合会と、クボタの国内農機事業を担う鶴田慎哉本部長の言葉からひも解きます。

機械のそばを離れられる農機

「昔から日本の農業の高齢化や人手不足は言われていましたが、ここ数年で、まさに大きな転換期を迎えていると感じています」と話すのは、クボタの国内農機事業を担う鶴田慎哉さんです。

クボタ本社の会議室でインタビューに応じる鶴田慎哉さん

鶴田慎哉(つるだ しんや)さん。1991年にクボタに入社。国内のエリアマネージャーや販売会社社長、作業機事業部の事業推進などを歴任したのち、2024年より現職の農機国内本部長に就任。35年にわたり農業機械事業に携わり続けている。

「農業従事者は減少する一方、農地の面積や生産量が大きく減っているわけではなく、誰かがそれを守っているのが現状です。積極的に農地を増やしていく方もいますが、多くは地域を担う志や責任感を持つ方が頼まれ、引き受けていらっしゃるのだと思います」(鶴田さん)

そうした農家を支えるために、農機に求められる役割も変わりつつあります。かつては生産量を拡大するために導入され、大型化やスピードが求められていましたが、現在では無人化や自動化、インテリジェンスな機能や作業機との連携など、熟練者でなくとも作業を可能にし、効率化を実現することが求められています。結果、自動操舵や、無人の自動運転が可能なトラクタや田植機、コンバインが実用化されてきました。ただし無人自動運転トラクタでも、機械の近くに人がいなければならないという条件が残っていました。

「現行のアグリロボシリーズも、熟練者の作業を機械が代わりに行うことは一定レベルでできていたと思います。ただ、機械の近くで監視しなければならない『目視監視』の制約は残っていました。人がその場にいなければならないという制約を取り除くことが、遠隔監視による自動運転の本当の価値だと考えています」(鶴田さん)

広大なほ場では、トラクタを入れてから作業が終わるまでに長い時間がかかります。その間、農家が機械のそばで見守り続ける必要がなくなれば、別のほ場の確認に向かったり、出荷作業を進めたり、事務所で作業計画を確認するなど、同じ時間を別の仕事に使うことができます。遠隔監視が可能な新型アグリロボトラクタは、農家の時間の使い方そのものを変える可能性を秘めています。

大規模なほ場を支える農家は、いま何に直面しているのか

少数の担い手へ急速に集約される農地

遠隔監視可能な自動運転農機の登場に「テレビドラマで見ていたような機械が世の中に出てくるんだと驚きました」と目を丸くしたのは、ホクレン農業協同組合連合会*1の齊藤朋伸さんです。

  1. *1JAグループ北海道において、経済事業を担っている組織。全国の消費者に北海道産農畜産物を供給する「販売事業」と、生産者の営農活動を支える「購買事業」「営農支援」を行っている。
インタビューに応じるホクレンの齊藤朋伸さん

齊藤朋伸(さいとう とものぶ)さん。1996年にホクレン農業協同組合連合会に入会。2021年に農機燃料自動車部農機自動車課長に就任。約30年にわたり農業機械分野で培った知見を活かし、2025年より農業総合研究所 営農支援センター スマート農業推進課 主任研究員として、スマート農業の普及と営農支援に取り組んでいる。

全国で最も大きなほ場が広がる、日本有数の農業地帯である北海道。ここでも、農業経営の大規模化と担い手への集約は進んでいます。齊藤さんは、北海道農業の変化を次のように話します。

「北海道でも、離農や高齢化は非常に進んでおり、離農された農地はそれぞれの地域の担い手に集約・集積されています。その結果、1戸あたりの経営面積は拡大しています。農家さんが直面する課題は、広く大きな農地を少人数でどう管理していくかということです」

東京ドーム十数個分の農地を1人で耕す

齊藤さんは十勝地方の畑作の一例として、ある家族経営の農家の現実を語ってくれました。

「その農家さんは、お父さんとお母さんの2人で60~70haの畑を管理しています。基本的に農機のオペレーターはお父さん1人です。春の播種時期などにお母さんが作業機に乗ることもあるそうですが、ほぼお父さん1人で農作業をしています」

つまり、作物や地域によって違いはあるものの、東京ドームおよそ13~15個分に匹敵する60〜70ha規模の農地を、実質的に1人のオペレーターが中心となって支えているケースもあるということです。

数km離れた農地が点在する負担

北海道の農家が抱える負担は、面積の広さだけではありません。「農地が集約された結果、担い手農家さんは飛び地で農地を持つことになります。その数は数十筆になることもありますし、ほ場間が5km以上離れることも多々あります」と齊藤さんは言います。広いほ場を管理するには、農作業そのものに加えて、ほ場間の移動、種や肥料の補給、収穫物の排出・運搬など、さまざまな段取りが必要になります。

特に北海道の畑作では、馬鈴薯、甜菜、小麦、豆類など、複数の作物を組み合わせて栽培する輪作体系が一般的です。作物ごとに作業の適期は異なり、天候によって播種や移植、収穫のスケジュールに影響が出ることがあります。

「大規模化で農家さんが一番気にされるのは、適期作業だと思います。天候によって1日畑に入れないだけで、予定していた播種や移植、収穫がずれていく。そのプレッシャーは強く感じていると思います」(齊藤さん)

農家の仕事は、農機に乗って作業するだけでは完結しません。広域に分散したほ場を見て回り、作業の順番を決め、人員を手配し、天候を見ながら判断する必要があります。経営面積が広がるほど、農家は作業者であると同時に、ほ場や人、時間を管理する経営者としての側面も強まっていくのです。限られた人数で、広く、分散した農地を、限られた時間のなかで管理する。その難しさに今の現場は直面しています。

全国的に進む担い手農家への農地の集約

この北海道農業の実情は、全国的に見ても決して珍しいことではありません。農林水産省の農林業センサスによれば、基幹的農業従事者は、2020年の136万3千人から2025年には103万6千人へと5年間で24.0%減少する一方、日本の耕地面積は同期間で437万2,000haから423万9,000haへ、3.0%の減少にとどまっています。守るべき農地は大きく減少していないにも関わらず、それを守る人がおよそ4分の1減ったと言えます。

では、大きく減らない農地は誰が引き受けているのでしょうか。1つの経営体が耕す面積は、5年前の3.1haから3.6haへ広がりました。さらに、20ha以上を耕す経営体が日本の農地の49.7%を担っています。10年前は37.5%でした。つまり、少数の担い手のもとへ農地が急速に集まっているのです。

農林水産省「2025年農林業センサス結果の概要(確定値)」に基づく、経営耕地面積規模別の経営耕地面積割合(全国)

農林水産省「2025年農林業センサス結果の概要(確定値)」(2026年3月31日公表)より。20ha以上のシェアが37.5%、44.3%、49.7%と推移しており、農地の集約が継続的に進んでいます。

これからの農業のために、農機メーカーに求められるものとは

現場では、農機に求められるものも変わってきています。かつては、より大きな馬力、広い作業幅が重視されてきました。それらは今も重要である一方、近年は限られた人数で広い農地を管理できること、作業負担を軽くしながら精度や仕上がりの品質を保てることが求められています。
「個人的に、ロボットトラクタは次の技術の本命だと思っています。遠隔監視で複数台を一人で監視して作業してくれるようになれば、人手不足や経営面積が広すぎるといった課題も、解決に向かうのではないかと期待しています」(齊藤さん)
「今後少ない人数で持続的に農業を続けていくためにも、自動運転や遠隔監視などの新技術を通じて農家さんの負担を軽減していただきたいですね。1人で管理可能な面積を増やせる技術に期待したいと思っています。また、経営者としては導入後の効果を実感できることも重要です。農機メーカーさんには、農業者の皆さまと一緒になって課題解決に取り組むパートナーであっていただきたいと思います」と、齊藤さんは期待を寄せていました。

インプルメントを接続し、遠隔監視下において無人作業を行う新型アグリロボトラクタ

1人で管理できる面積を増やす技術として期待される、遠隔監視対応の新型アグリロボトラクタによる無人作業

施設内で別の作業を行いながら、タブレットを介して新型アグリロボトラクタの作業を確認する農家

トラクタを遠隔監視しながら、別の作業を行う農家。このような働き方が当たり前になる時代がやってくるのかもしれません。

「時間と場所、人を生み出す」遠隔監視による自動運転がもたらす新たな価値

遠隔監視による自動運転が可能な新型アグリロボトラクタを発表した今、改めて農機メーカーとしてのクボタの果たす役割について、鶴田さんは4つの視点を挙げました。

  1. 農作業を楽にすること
  2. 農業の経営判断に資するものを提供すること
  3. 農機が止まらないようにするサービスネットワーク
  4. ユーザー同士が交わるコミュニティ作り

スマート農業全体を進化させることは、農作業を楽にすることに繋がります。その中でも遠隔監視による無人自動運転という新技術を通じて、時間にも場所にも縛られない新しい農業の働き方に貢献できるのではないかと語ります。

「志があって、地域の農業を守ってくれている人たちが疲弊してしまったら、本当に農業が立ち行かなくなってしまいます。遠隔監視によって時間と場所、人を生み出し、皆さんがより地域の農業を支えていけるようになれば、それが新型アグリロボトラクタの成し遂げる本当の価値なんじゃないかと考えています」(鶴田さん)

クボタ本社内の会議室でインタビューに応じながら、遠隔監視による自動運転がもたらす価値や展望について語る鶴田慎哉さん

遠隔監視による自動運転がもたらす価値や展望について語る鶴田さん。

日本は、農業従事者の減少や高齢化に世界に先駆けて向き合ってきた、いわば課題先進国です。その日本で、農機は機械化から乗用化、快適化、自動化、そして無人化へと、一段ずつ階段を上がるように進化してきました。遠隔監視による自動運転も、その歩みの一つです。さらにその先には、より少ない人数で農業を支えられる仕組みやサービスの進化も期待されています。そうした変化を見据えながら、鶴田さんは日本で培った技術や経験がアジアの農業にも貢献できる可能性を語ります。

「世界は広いので一概には言えませんが、アジアには日本と気候が似ている地域もありますし、まだ農業が機械化されて間もない段階の国もあります。日本で培った技術や経験が、そのような国の農業や食料への貢献につながってほしいと思います。もしかすると、日本が1段ずつ上がってきた階段を2段、3段と一気にジャンプできるかもしれませんね」(鶴田さん)

農業を担う人は、今後も減少が見込まれます。それでも農地は残り、食は必要とされ続けます。少ない人数で農業を続けるために、機械が支える。農業機械化の意味が変わりつつあるいま、遠隔監視による自動運転は、地域の農家と農業を支える新しい一手になろうとしています。

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