TECHNOLOGY
未来へつなぐ、プラネタリーコンシャスな挑戦 第2回「既存の農機は参考にしない」若手技術者たちがゼロベースで挑む、未来の農業用ロボット「Type: V」開発の舞台裏
2026 . 03 . 18 / Wed
写真・文:クボタプレス編集部
2025年に開催された大阪・関西万博、そして2026年1月に行われたデジタルテクノロジー見本市・CES® 2026。この2つの国際的なイベントで、クボタは未来の農業を見据え開発を進めている「汎用プラットフォームロボット」を披露しました。
万博では「Type: V」と「Type: S」という役割の異なる2種類の汎用プラットフォームロボットを展示し、プラネタリーコンシャスな農業に向けたクボタの取り組みを示しました。一方、CES® 2026では、そのうちの一つであるType: Vにフォーカスした展示を行いました。本記事では、両イベントに展示されたType: Vに焦点を当てています。
Type: Vとはどのようなロボットなのか。本機によって、どんな農業を実現しようとしているのか。今回はType: Vの開発を担当している20代から30代を中心としたエンジニアたちの言葉から、開発の舞台裏と今後の展望を詳しく見ていきます。
「未来の農業用ロボット」が必要な理由
Type: Vは、1台で「耕うん」「管理」「収穫」という、従来は別々の機械を必要としていた複数の作業を担うロボットとして設計されています。1台のロボットにこれほどの汎用性(マルチパーパス)を持たせることは、技術的に見ても非常に難易度の高い取り組みです。
では、なぜクボタはそこまで難しい開発に挑戦しているのでしょうか。昨今、世界的に農業従事者の減少と高齢化が進む一方で、農業が地球環境に与える影響も見つめ直す必要性が高まっています。そこで、農業に寄り添い続けてきたクボタは大阪・関西万博を機に、地球と人にやさしい「プラネタリーコンシャスな農業」を掲げました。
このプラネタリーコンシャスな農業を実現する一手が、「農業の無駄をなくし、農家の負担を軽減すること」。それをテクノロジーで実現するために開発されているのがType: Vです。
Type: Vの3つのコンセプト
Type: Vは、単なる無人自動運転農機ではありません。農業に限らず、さまざまなフィールドにおいて求められる作業を完全無人で実現することをめざした「汎用プラットフォームロボット」です。
その設計の中心にあるのは、農業版「CASE*」というコンセプトです。具体的には、マルチパーパス(多目的)、スケーラビリティ(拡張性)、完全無人・知能化という3つを掲げ、農業を取り巻く社会課題の解決に貢献しようとしています。
| マルチパーパス (Shared & Services) |
・従来の農作業から、ロボット技術を応用した精密作業まで対応 ・1台のマルチユースで、農機の稼働率を最大化 |
|---|---|
| スケーラビリティ (Connected) |
・クラウドと接続してさまざまな農業データを取得 ・ほ場の規模に合わせた複数台の群制御・協調動作を可能に ・広い範囲の連続作業から狭い地域の複雑な作業まで対応 |
| 完全無人・知能化・電動化 (Autonomous, Electric) |
・高度な外界の認識・判断による完全無人作業を実現 ・自動急速充電と異なる機種間の協調運転により、ほ場全体での連続無人運転を可能に |
- CASE:自動車業界においてその概念を変えるとされる技術革新。Connected、Autonomous、Shared & Services、Electricの頭文字を取っている。
このコンセプトを実現するために、Type: Vは「全方位移動」「車体変形」「自動インプルメント着脱」「超急速充電」という4つの特長を備えています。
しかしながら、このような特長を持つ農機やロボットはこれまで存在していません。技術者たちは前例のないロボットの開発に取り組み、いくつもの壁にぶつかりながら、一つずつ乗り越えている段階です。
今回はそのType: V開発に挑む若き技術者たちにインタビューし、その困難さとやりがいを聞きました。
既存の農機は全く参考にしなかった
Type: Vの開発は、この全く新しい農機を作るために新設されたチームによってスタートしました。その際、「既存の農機は、良い意味で全く参考にしなかった」と振り返るのは、初期から開発に携わり、電気系の設計を担当する松岡銀司さんです。

松岡 銀司(まつおかぎんじ)さん。次世代研究第二部所属。電機メーカーで自動車部品の設計開発を担当したのち、2022年にクボタへ入社。
開発チームはまず、「労働者不足や気候変動といった農業を取り巻く社会課題に対し、どのような農業を実現すれば解決できるのか」「作物がどのように育ち、どのような作業をすれば最適な収穫が得られるのか」を、ゼロベースで話し合いました。
初期の段階では車両の形にすらこだわらず、「耕うんなら、モグラのように土の中を自律的に動く機械」など、さまざまなアイデアが出たと言います。そうした議論を経て最終的に導き出されたのが、「変形によって多様なほ場・作物に対応できるロボット車両」という新しい農機の姿でした。
前例のない機械を形にする難しさ
一方、これまでにない車両開発には多くの困難が伴い、直面する課題はすべて手探りで解決していく必要がありました。「Type: Vは前例のない車両なので、ベースにできるものがほとんどありません。その難しさを実感しました」と、機械系を担当する鎌田達也さんは語ります。

鎌田 達也(かまだたつや)さん。次世代研究第二部所属。機械メーカーでトランスミッション系の設計に携わった後、2023年にクボタへ入社。
機械系において大きな課題となったのは、Type: Vの特長の一つである「車輪の360度旋回」です。自由自在な移動を可能にする機能ですが、初期の試作段階では車輪が想定通りに回転しませんでした。調査の結果、機体の総重量が当初の想定を超えており、ギアがロックしていることが判明しました。
開発スケジュールが定められている中で、既に完成しているフレームを根本から作り直すのは難しい状況でした。そこで鎌田さんは、限られた修正範囲の中で、追加加工を最小限に抑えながら強度を確保することに注力。他チームとも連携して、シミュレーションを繰り返し、組み立て方法を工夫することで円滑な旋回機構を実現できたと言います。
360度旋回するType: Vの大きな車輪。この車輪を筆頭に、思い描いた通りの機能を実現する開発過程には、多くの壁が立ちはだかります。
鎌田さんと同様に「今までになかったものを動かすのはとても大変でした」と振り返るのは、知能系を担当する吉田優太郎さんです。吉田さんはType: Vの開発において、完全無人を前提とした安全設計に腐心していました。

吉田 優太郎(よしだゆうたろう)さん。次世代研究第二部所属。大学で機械工学を学んだのち、2023年にクボタへ入社。遠隔操縦システムの開発に携わっています。
従来の農機は、人が操作して周囲を確認しながら安全を確保します。一方、完全無人運転を前提とするType: Vでは、通常時の安全を機体側のソフトウェアで成立させなければなりません。だからこそ、通信異常など想定外の事態が起きた場合でも、機体が自律的に安全な状態へ移行する仕組みが欠かせません。吉田さんたちは、通信が途切れた際に機体を確実に停止させる制御など、万が一の際に危険を広げないための対策を各所に組み込んでいると言います。
ただ、開発段階ではシミュレーター上で動作確認ができても、実機試験では動作しないこともあります。実際の開発では、モーターからの電気的なノイズが通信を阻害するという問題が浮上。このような机上の計算では見えない実機特有の問題に対しては、現場でエンジニア同士が話し合いながら原因を一つひとつ特定し、改善を重ねていったと吉田さんは振り返ります。
前例のない機械である以上、決定打となる解決策がすぐに見つかる場面は多くありません。地道な対応が続いたType: Vの開発ですが、それでも携わるエンジニアたちは確かなやりがいを感じています。
バッテリーにおいて、農業に必要な駆動時間の確保と軽量化の両立に苦心したという松岡さんは「最新の技術を使って、今最も必要な農業の課題解決に取り組めることがやりがいです」と語ります。鎌田さんは「設計から試作、評価までを一気通貫で担当することはとても勉強になりますし、奥深いなと思っています」と話しました。また今回のメンバーで随一の若手である吉田さんは「自分が何にチャレンジしたいか、どのように取り組みたいかという意見を尊重してくれるので、開発しやすい環境だと思っています」と語っていました。

開発で嬉しかった瞬間を聞くと、3人とも口を揃えて「動かなかったものが動いた瞬間」と答えてくれました。
Type: V進化の鍵は「ほ場へ行き、自分の目で確かめる」
万博やCES® 2026での披露を経て、Type: Vは今後、より実用的な環境での評価へと移行します。
これまではコンクリート上での試験が中心でしたが、これからは実際のほ場で、現在の設計がどこまで機能するかを詳細に評価していきます。そこで得られた知見を、Type: Vのさらなるブラッシュアップや他製品への技術の応用に役立てていく予定です。
Type: Vのような汎用プラットフォームロボットが実際の農業の現場にどれだけ適合できるか確かめ、改良していくためには、農家が抱える顕在化した課題に加え、潜在的な課題まで把握する必要があります。そのために開発チームは、自ら農家のほ場を訪れ、作業環境や作業の流れを直接確認する取り組みを重視しています。「実際に現場に立ち会い、自分の目で確かめることで、本当に必要な機能や、現場に合った機体のあり方を見極めていきたい」と鎌田さんは先を見据えていました。
その他にも、バッテリーと電装品の冷却システムの統合化などによる重量低減や、カメラ認識技術のブラッシュアップによるインプルメント(作業機)の自動着脱機能のさらなる開発など、Type: Vにはまだまだ進化する余地が残されています。
めざすのは、人が極力介在しない農業
Type: Vの開発を通じて、メンバーはどのような未来の農業の姿を描いているのでしょうか。
松岡さんは、人の負担を減らし、より効率的な農業の実現をめざしていると言います。「将来は人の介在を最小限にしたいと思っています。人は何か判断する、あるいは判断すらしないなど、より便利に、より楽になるようにしたいですね」という松岡さんの言葉に、吉田さんも同調。「究極的には、農家が指示を出すだけで作業が完了するような形が理想です。代わりに、これまで作業に費やしていた時間を経営戦略などに充てることができれば、農家の方は経営者としての役割をより強く担えるようになるはずです」と語ります 。
また鎌田さんは、機体とインプルメントの高度な連携による効率化にも着目しています。「実は、Type: Vだからこそできるインプルメントの動きがあり、これによって無人化した作業がさらに効率化する可能性があります。無人化するだけでなく、その先の作業効率も突き詰めていきたいですね」(鎌田さん)。
最新のテクノロジーを活用して、深刻な人手不足や高齢化、地球環境への影響といった課題を解決していく。クボタのエンジニアたちは、そんな未来を見据えながら、農業をより持続可能なものへと変えていく歩みを進めています。プラネタリーコンシャスな農業の実現に向けて、彼らの挑戦は続きます。



