農林水産省が定めるビジョン・ステートメントと谷村参事官

2021 . 07 . 13 / Tue

PEOPLE

世界をつなぐ「人々のサミット」農林水産省 谷村参事官が語る「国連食料システムサミット」

文・写真=クボタプレス編集部

世界中の人たちが将来も安心して暮らし続けていくために国連がつくったSDGs(持続可能な開発目標)。貧困や飢餓をなくすことなど17の項目について、2030年の具体的なゴールを定めています。

その達成のために、いま国連が特に重視しているのが、「食料システムの変革」です。2021年9月には、どうしたら実現できるのかをみんなで話し合う「国連食料システムサミット(FSS)」がニューヨークで開かれます。国連はこのサミットを「人々のサミット」と位置づけて、世界中の人々の参加と意見の共有を呼びかけています。

国連食料システムサミットのロゴとSDGsのロゴ及び17の目標アイコン|

なぜ「食料」ではなく「食料システム」に注目するのでしょうか。「人々の」サミットとはどんな意味なのでしょうか。日本側で担当する農林水産省の谷村栄二参事官にお話をうかがいました。(2021年6月)

クボタプレス編集部の取材を受ける、谷村参事官

谷村栄二(たにむら えいじ)さん。農林水産省大臣官房 参事官で、食料・農林水産分野の環境案件に係る国際対応などを担当(2021年6月取材時)。宮崎県生まれ。1991年農林水産省入省し、在豪州日本国大使館参事官、バイオマス循環資源課長、食料産業局総務課長などを経て2019年5月より現職。

「食料システム」をテーマにした初の国際会議

――「国連食料システムサミット」は今回初めて開かれるそうですね。聞いたことがないという人も多いと思います。どのような会議なのでしょうか。これまでの食料に関する会議とは違うのですか。

「まず、食料システムという言葉がそもそもどこからどこまでを指しているのかというのがありますよね。国連がめざしているのは、食料生産の元になる資材やエネルギーの調達からスタートして、生産、流通、加工、消費から廃棄まで一連の流れをシステムととらえ、それを取り巻く経済・社会活動、自然環境まで全部含めて議論しようじゃないか、ということです。これまでも食料問題の議論はありましたが、『食料システムそのものを持続的に』というとらえ方をしたハイレベルな国際会議は今回が初めてです。だからこそ、非常に注目されているといえます」

「食料システムの問題は、『一つの国』とか、『生産』の部分だけではなくて、世界の国々の食料システムを支えるステークホルダー(関係者)がみんなで議論しなければ解決できません。しかし、これまでは、地域やプロセスを切り出して議論することが多かったのです。今回は世界の関係者が一同に集まることで、それぞれの行動がつながって、『相手を変えるためには自分も変わらなきゃいけない』、『自分が変わってアプローチすれば相手も変わる』といった議論の場を作り出せることが非常に画期的です」

国連食料システムサミットの5つのテーマ

  • 質(栄養)・量(供給)両面にわたる食料安全保障
  • 食料消費の持続可能性(食育、健康的な食事、食品ロス削減、地産地消)
  • 環境に調和した農林水産業の推進(デジタル化を含む)
  • 農山漁村地域の収入確保(女性や若者を対象とした雇用創出と生計の安定)
  • 食料システムの強靭化(新型コロナを踏まえた食料サプライチェーン強靭化)

――その画期的な会議が今年開かれるのには、どのような意味があるのでしょうか。

「国連が提唱するSDGsの中で、特に『飢餓や貧困の撲滅』、『海と陸の豊かさの保全』などは、食料システムと非常に密接に関わっており、国連には、食料システム自体が持続可能な形にならないとSDGsは達成できないという問題意識があります。SDGsの目標年度は2030年であり、残りは10年足らずというこのタイミングで、議論を深めることに意味があります」

食料システムサミットの意義と必要性を語る谷村栄二さん

「さらに、新型コロナのパンデミックが起こって、食料の生産はできても必要な人に届かないといったことが世界中で起きました。グローバルな食料システムの脆弱性が露呈した今こそ、持続的なものに変革をする時であるといえます。『プラネタリーバウンダリー(地球の限界)*』という言葉がありますが、食料システムも、生産に必要な土地や水などがこれ以上のダメージを受けてしまうと、回復不可能なレベルになってしまうというところにきています。行動するのであれば今しかありません」

* 人類が生存できる安全な活動領域とその限界点を定義する概念。人の活動が限界値を超えた場合、地球環境に不可逆的な変化が生じる可能性があるといわれている。


「人々のサミット」と「約束のサミット」

――世界中のすべての人々の参加を広く呼びかけているのも特徴ですね。

「食料システムを切り口にすれば、関わっていない人は誰もいません。あらゆる人が参加できるよい機会になります。一人ひとりのちょっとした行動が変わっていくと、それが積み重なって、システム全体を変えていくことができます。自分たちの次の世代が安定的な食料システムを共有するためには、一人ひとりが行動を起こす責任があります」

「国連は今回のサミットについて、いろんな人たちが、自分たちが何をやるべきかを考えるという意味で『人々のサミット』と呼んでいます。さらに、それぞれがどのように取り組むかの、コミットメントを示すことから『約束のサミット』であるとも捉えています」

国際連合本部の建物と加盟国の国旗

――確かにサミットの公式サイト(英語版)では、誰でも議論や活動に参加できるようになっています。ほかにも参加できる場はありますか。

「農林水産省では、これまでに50以上の対話の場を設けてきました。できる限り直接的な対話、やりとりをすることを重視しました。食料システムの持続性に自分たちも関わっているという意識を持ってもらい、ひとりでも多くの人が、どんな形でもいいから、自分たちで動くということにつながるといいなと思っています。多くの企業や消費者、学生など、国内の関係者がこれだけ真剣に食料システムのことを考えてくれているということを、政府としてもしっかり国際舞台に発信していきます」

――対話の場ではどんな議論がありましたか。

「最近の例では、高校生たちが、それぞれの地域の状況を前提として何をしようとしているのかを示してくれました。酪農の盛んな地域であれば、酪農を核とした資源循環をどうしたらいいかとか、海に近いところであれば、海洋資源を持続的に使っていくためには何ができるかなど、我々が思っている以上に、この問題を真剣にとらえてくれていました。SDGsの目標年度が2030年、カーボンニュートラルの実現目標が2050年であることを考えると、まさにその時の社会の中核を担う世代が真剣に考えてくれていることはとても重要です」

日本発の「みどりの食料システム戦略」

――日本政府としては、サミットでどのような取り組みをされるのでしょうか。

「ちょうどこの5月に(2050年に向けた環境負荷の低減目標などを盛り込んだ)『みどりの食料システム戦略』を策定しました。その大きな目的は、農林水産業、食品産業と地球環境が共存できるシステムを目指すというものです。この戦略は、食料システムサミットがあるから作ったというわけではないのですが、非常にいいタイミングで戦略が策定されましたので、そのねらいや内容をしっかりと発信していきます」

みどりの食料システム戦略とは
(農林水産省 みどりの食料システム戦略より)

「今まで、環境の取り組みはヨーロッパが進んでいて、日本は同じようなことはできない、と思っていた方も多いかもしれません。今回のサミットでは日本として、自然条件や農業の形態が似ているアジアモンスーン地域で共通のゴールに向かっていくやり方があるということを(みどりの食料システム戦略を通じて)示したいと考えています。『誰も取り残さない』というのがSDGsの主眼であり、地域条件に応じた取り組みを進めることはサミットで訴える重要なポイントだと考えています」

――「みどりの食料システム戦略」はとても幅広い項目が盛り込まれています。サミットとの関わりでは、戦略のどこに注目すればよいでしょうか。

「戦略の中でKPI(重要業績評価指標)としていくつか示したものがありますが、化学農薬、化学肥料の削減や、有機農業の拡大は、サミットの議論に即しているものです。さらに消費の問題です。日本の消費スタイルというのは、自然に対する負荷が少ない食生活であると言われています。環境と食生活の議論をすると、個別の食品の特徴をとらえて、牛肉は環境への負荷が大きいから消費を抑えましょう、といった議論がでてくることがありますが、我々は、個別の食品ではなくて、バランスよく食べるということが大事であると考えています。サミットの中では、個別品目ごとの良し悪しの議論ではなく、食生活など消費全体の見直しをポイントにしたいです」

稲が植えられた田園風景

――世界的な食料システムに対して、ひとりひとりの参加がどれほど影響を与えられるのだろうかと疑問に思う人も少なくないかもしれません。何かを変えられる場として期待ができるのでしょうか。

「2019年の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)では、スウェーデンのグレタ・トゥンベリさん(10代の環境活動家)が参加して注目されました。その後、日本も含めて世界百数十ヵ国でカーボンニュートラルの目標が一挙に決まりました。環境に関する議論というのは、なかなかルールは決まらないけれども、一定の空気が醸成されると、その方向に大きな潮流となってすっと動いていくということがあります」

「今年は食料システムサミットの後、10月に生物多様性条約の締約国会議(COP15)が中国であって、11月は国連気候変動枠組み条約の締約国会議(COP26)がイギリスであります。環境に関する枠組みを作る議論が続いていく年ですから、食料システムサミットで国際社会の方向性が示されると、そのあとの議論に大きく影響を与えるでしょう。日本政府としても、国内の様々な方々からいただいた意見はすべてサミットに持っていき、そこでの議論につなげていくつもりです」

今後注目される国際会議

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・2021年7月 国連食料システムサミット プレサミット イタリア・ローマ
・2021年9月 国連食料システムサミット 本サミット 米国・ニューヨーク
・2021年10月 生物多様性条約締約国会議(COP15) 中国・昆明
・2021年11月  国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP26)  英国・グラスゴー

企業イノベーションへの期待

――企業に期待される役割はどのようなものでしょうか。

「『みどりの食料システム戦略』では、イノベーションの重要性を掲げています。2050年の目標に向けて、現時点の技術や、今持っている力だけで行動しよう、変革しようとしても限界があります。技術を持っている企業や研究機関などのサポートを抜きにして、我々が今考えているような計画は描けません。単に絵に描いた餅にならないようにするためには、現場でのさまざまな経験がある企業の方々と連携したイノベーションが非常に重要です」

「今回は60ほどの企業や自治体などいろいろな立場から、目標に向けて自分たちはこういうやり方で行動するという宣言としてコミットメントを出していただきました。企業が持っている技術やノウハウによって課題を解決していくために、これからの行動に期待しています。例えば、農業機械の分野なら、東南アジアの小規模や家族経営を基本とした水田農業にあった機械なり、生産システムというものを提供できるという点において、メーカーが貢献できる可能性は非常にあると思っています。先ほどアジアモンスーン地域なりのやり方についてお話ししましたが、日本が持つ技術を各国の状況にあった形で提供することで、共通のゴールに向かって動くことができます。また、持続的な取り組みをやろうとすれば、単に機械を導入するだけではなく、人材育成の面での貢献も重要だと思っています」

――この記事を見て関心を持った人たちが、自分も持続的な食料システムづくりに関わりたいと思ったら、どうしたらよいでしょうか。

「ひとつは、メールでも構わないので我々にコンタクトをとっていただきたいです。(農林水産省 国連食料システムサミット)我々もみなさんの声を受け付ける場所を広げ、こちらからアプローチする方法ももっと考えていきたいと思っています。サミット後には、何が議論され、日本のめざす姿がどのような評価を受けたのかを、フィードバックします。その後も常に対話の場を設けて、やり取りを継続していきたいと考えています」

「農林水産省というと農林水産業だけを相手にしているかのようなイメージがあるかもしれませんが、われわれのミッションは『国民への食料の安定供給』です。食料システムをつかさどる役所であることを、みなさんに気づいてもらうきっかけになればと思っています。」

■クボタのコミットメント

持続的な食料システムへの変革は、食料・水・環境分野を事業領域とするクボタにとって、非常に重要なテーマです。長期ビジョン「GMB2030」では、「豊かな社会と自然の循環にコミットする“命を支えるプラットフォーマー”」を掲げ、食料の生産性・安全性を高めるためのイノベーションや投資などを進めていく方針です。さらに、2050年に向けた環境面からのありたい姿として、「カーボンニュートラルでレジリエントな社会の実現」を目指す「環境ビジョン」を策定しています。

今回、国連食料システムサミットの趣旨に賛同して以下のコミットメントを発表しています。

  • 製品の生産や使用の過程で排出されるCO2削減と農業分野からの温室効果ガス排出抑制による、カーボンニュートラル社会の実現
  • AI・デジタル技術を活用したスマート農業の推進による、食料の生産性向上への貢献
  • 農業残さ・食品廃棄物等からの資源回収ソリューションによる、サーキュラーエコノミーの実現
  • デジタルを活用したソリューション提供による、フードバリューチェーン全体のデータ連携基盤構築とフードロス削減への貢献

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