広大な国土を誇るアメリカの人口は、いまなお増加し、世界経済を牽引するほどエネルギーに満ちている。この国では、平日は会社に勤め、週末には緑あふれる郊外の広い庭のある自宅で野菜づくりをする、あるいはリタイア後にカントリーライフを楽しむ、そんなゆとりある文化が根づいている。そのアメリカで、もっと自分らしく、または家族とともに豊かな生活を楽しみたいという潜在的なニーズがあった。便利で使いやすいジャストサイズの機械の登場が待たれていたのである。
また、果樹園やワイン用ぶどう畑など、アメリカの人々の食生活を彩る農産物や加工品をつくっている小規模な農家においても、農園にジャストサイズの機械による軽労化や効率化、生産性向上などが求められていた。
クボタは1969年、トラクタのアメリカへの輸出を開始する。しかし農場のスケールが日本とは桁違いであり、かつ大型の畑作用の機械をクボタは生産していなかったこともあり苦戦する。活路を見出したのは「コンパクトなサイズ感を生かす」という逆転の発想だった。個人の豊かな生活を支え、その食生活を彩る小規模農家を支える、という方向への転換だった。また、アメリカは広大な国土を生かした大規模な農場で、気候風土に合った作物を大量につくることで世界の食を支えている、世界一の農産物輸出国である。クボタは将来の世界的な食料危機解決に貢献することをめざしており、そのためにも、この巨大な畑作農業市場への本格参入が欠かせなかった。