近年、ITやICTなど技術の進歩によってあらゆる面で便利でスピーディーになり、人の流れや物の流れをはじめ社会のシステムが大きく変わった。農業においても、精密化や安全性、環境負荷の低減が求められ、「農作業をより効率的に」という声が農家の間で高まっていた。このような時代の変化の中で、「世界の人口増にともなう食料問題解決に貢献する」ことはクボタにとっても重要なテーマであり、欧州の大規模な畑作農業への進出が不可欠となっていた。そのため、現地に根差した経営体制の構築が必要となった。
2010年代に入り、クボタは満を持して動き始める。まずクボタ初の170馬力の畑作用大型トラクタ「M7000シリーズ」の開発をスタート。2013年にはフランスに新たな拠点Kubota Farm Machinery Europe S.A.S.※1を立ち上げた。欧州農業の中心にあり、また海が近いため世界の畑作農業進出の要となる生産拠点の位置づけだ。さらに2017年、オランダに欧州の統括会社であるKHEを設立。これまで国別に展開していた事業を、欧州域内で事業別に展開するという戦略に軌道修正したのだ。2019年にはオープンイノベーションで新たな価値の創出をめざしたイノベーションセンターをオランダに設置。本格的な欧州畑作農業進出のための体制が整った。ただ、もう一つ課題があった。それは欧州畑作市場におけるクボタのブランド認知度が低いことだった。
クボタが近年、最大限に注力しているのが欧州全体でのブランド認知度向上だ。その一例が2017年、ドイツで開催された世界的な農業機械展示会「AGRITECHNICA※2」への出展だ。クボタとKverneland Group※3(以下KVG)が共同で進めているスマート農業※4を提案し、来場された農家の方に現在の農業の現場をどのように改善できるのか、その新たな価値をシミュレーションによって目に見える形で提示した。これは、クボタとKVGの「トラクタ+インプルメント」が一体となった実機の提案展示と相まって大きな注目を集めた。農家が求めているのは技術が生み出す成果である。クボタはさらにトラクタ・インプルメント・アプリケーションとサービスがワンパッケージになった「クボタファームソリューション」という農場経営支援の提案をするなど、新たな体制のもと、欧州でも農家に寄り添い、トータルソリューションの提供によって独自の地位を築くとともに、世界共通の課題解決をめざしている。