ディーゼルエンジンは、実用的な内燃機関の中で最も熱効率に優れ、燃料性能も高いため、20世紀初頭から幅広い分野で活躍してきた。しかし、ディーゼルエンジンが産業動力として世界中の機械に搭載されるためには、さまざまなサイズや使用燃料、出力クラスなどに柔軟に対応できる汎用性の高さのほか、傾斜運転など過酷な状況に対する耐久性、使用したい時にいつでも稼働できる始動性なども求められる。また、これらを手に入れやすい価格帯で販売することができるかどうかも重要である。つまり、世界中のさまざまなユーザーにとってベストなエンジンをいかにして提供することができるかが課題となる。
1970年代、北米では草刈り機や多くの小型建設機械にもガソリンエンジンが使用されていた。クボタは、当時トラクタに搭載されていた小型ディーゼルエンジンをこれらの機械に搭載。その結果、市場が敏感に反応し、従来、ガソリンエンジンが搭載されていた北米の各種産業機械が少しずつ見直されていき、ディーゼルエンジンへの代替が加速度的に進んでいった。そしてクボタは、北米市場で強力なポジションを確立していった。
しかし、ガソリンエンジンからディーゼルエンジンへの積み替えはそう単純なものではなかった。エンジン事業は、多様化するユーザーのニーズにきめ細かに応えるための多品種少量生産が常に求められる。クボタはそのような求めに、「One Source, Multiple Solution」という理念のもと、ディーゼル、ガソリン、天然ガス、LPG※1と柔軟に対応でき、かつ他社とは比べ物にならないラインアップを取り揃えることで、さまざまなアプリケーションへの搭載を可能にしてきた。その結果、製品バリエーションは、2021年時点で約3,000種類という圧倒的な数となり、クボタ製品への搭載にとどまらず、多くのメーカーにOEM※2として供給するなど、幅広くクボタのエンジンが採用されている理由となっている。
現在、100馬力以下の産業用ディーゼルエンジンにおいて世界のリーディングカンパニーとして高い評価と信頼を獲得しているクボタのエンジンは、世界各国・各地域でさまざまな産業機械に採用され、必要不可欠な動力源となっているが、そのニーズは近年ますます多様化してきている。北米では、広大な農地を持つ大規模農場向けの大型動力が求められる中、200馬力帯の大型ディーゼルエンジンが開発され、市場に参入している。さらに、2023年の量産開始をめざし、300馬力帯の産業用大型ディーゼルエンジンの開発も進められている。そして、クボタが次にめざすのは、300馬力以下でも世界No.1の産業用エンジンメーカーになること。しかし、その目標は、常に理想的なエンジンの未来を創出し、世界の産業を支える新たな動力ニーズに応え続けていくというクボタの使命における通過点に過ぎない。