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世界とクボタの交差点 万博シリーズ第7回大阪・関西万博から見える、未来の食料・水・環境へのアクション ~クウェート/ドイツ~
2025 . 09 . 26 / Fri

写真・文:クボタプレス編集部
2025年4月より開催されている大阪・関西万博にて、世界各国が「思い描く未来」を紹介し、それにまつわる社会課題やクボタの関わりを描く「世界とクボタの交差点」シリーズ。
第7回では、乾いた大地に水を引き、限られた資源の中で未来を築こうとするクウェート、そして「循環経済(サーキュラーエコノミー)」を掲げ、都市と農業の持続可能性を追求するドイツを取り上げます。両国が描く課題解決のビジョンに、クボタの技術はいかに交差し、寄り添っているのか。万博という国際舞台を通じて、その姿を見ていきます。
クウェート国—砂漠に水を、未来に光を—

「未来を照らす灯台」をテーマに掲げたクウェートパビリオンは、大きく広がる翼のような建築が遠目にも鮮やかで、「開かれた心」や「歓迎の羽ばたき」といったイメージを象徴しています。
『الصديق وقت الضيق』
(困ったときの友こそ、真の友):クウェートのことわざ
「VISIONARY LIGHTHOUSE」というコンセプトのもと設計されたクウェートのパビリオンは、発展の歩みや、困難を乗り越えてきた歴史、人々が切り開く未来のストーリーを織り交ぜながら、クウェートの自然景観、豊富な遺産、革新的なビジョンの本質を美しく表現しています。
館内に足を踏み入れると、真珠をかたどった球体スクリーンが来場者を迎えます。かつてアラビア湾での真珠採取と交易に支えられてきた歴史は、クウェートの原点であり誇りでもあります。続く展示では、砂をかき分けるとサソリやトカゲといった砂漠の生き物が現れる仕掛けが人気を集めています。
さらに、砂漠の景観を再現したミニチュア空間や、ダンスやゲームを楽しめる参加型ゾーンも設けられ、大人も子どもも一緒になって遊びながらクウェートの文化を体験できます。最後には、プラネタリウムのようなドームシアターが来場者を包み込み、夜空に広がる星々の下で、未来への希望を感じられる仕掛けになっています。

ナショナルデーでは、ペルシャ湾に面したクウェートの漁業に支えられた歴史から、現代の人々の暮らしや文化、社会発展に至るまでの様子が、映像とダンスを通して表現されました (6月19日)。
文化体験も豊かです。館内のレストランでは伝統料理に加え、来場者の間で話題となっているスイーツ「エルバ」が提供されています。サフランやピスタチオが香るこのプリンは、素朴でありながら異国情緒あふれる味わいで、万博随一の人気デザートとの呼び声も高く、食文化からもクウェートの暮らしに触れることができます。

パビリオン館内のレストランで提供されている“エルバ”はクウェートの伝統的なデザートで、上品な甘さの中にほのかなスパイスの風味が口に広がります。
しかし、この華やかな展示の背景には、深刻な水不足という現実があります。クウェートは再生可能な淡水資源が事実上ゼロで、生活用水の実に92%を海水の淡水化に頼っている、世界でも最も水ストレスの高い国の一つです。
灼熱の砂漠地帯に位置する同国では、経済と都市化の発展にともない、淡水資源の確保が国の存続を左右する重要な戦略となっています。飲み水としてはもちろん、生活や農業、産業を支える水をいかに確保するかが、日々の暮らしに直結しています。
石油によって豊かさを築いてきたクウェートを含めた中東の国々にとって、何よりも必要だったのは「命の水」を運ぶ管路(パイプ)でした。そして、水を安全に長距離輸送する管路に加え、それを送り出すポンプや、水を再生する高度な技術も不可欠だったのです。
こうした課題に対し、クボタは長年にわたり同国の水インフラ整備を支えてきました。
1970年代から中東諸国にて、国民の命を守る大動脈ともいえる管路を製造・供給する水道整備事業に参画してきました。
1980年代には、高速道路の拡張や高架道路建設にともない、すでに設置されていた水道管やガス管、電気ケーブルを新しいルートへ切り替えて埋設する工事を担当しました。交通インフラ工事と並行しながらライフラインを維持するこの工事は制約の多い難しいものでしたが、クボタは確かな技術と計画力でこれを成し遂げ、都市の成長を下支えしました。
そして2008年、クボタはジャハラ地区の下水処理場に揚程120mという「超高揚程ポンプ」を納入します。これは地下深くからの大量の下水を詰まりなく効率的に送り出すことが求められる、世界でも数社しか実現できない技術でした。高効率で建設費・維持費を抑えられることから、同国にとっても持続的に運用できるインフラとして評価され、ライフサイクルコストの削減にも大きく寄与しました。
クボタの取り組みはここで終わりません。ポンプの導入は単なる「製品の供給」ではなく、設置後のメンテナンスや運転効率の最適化を含めた持続可能なインフラづくりの一環です。製造業であると同時にエンジニアリング企業として、水を浄化する施設から下水処理場までをカバーするポンプ群を展開し、海水淡水化プラントや長距離送水システム、さらには逆浸透(RO)用*1の高圧ポンプまでを提供しています。こうした包括的なソリューションは、クウェートのみならず中東地域の人々の生活を守る“見えないインフラ”として機能しています。
- *1逆浸透(RO:Reverse Osmosis)とは、水に圧力をかけてRO膜と呼ばれる非常に細かなフィルターを通し、塩分・イオン・その他の不純物を除去して水を浄化する水処理技術です。
「水をきれいにする。水を運ぶ。水を再生する。」
クボタの技術は、クウェートにおいて人々の生活を支える見えない大動脈となり、砂漠に生きる人々の未来を静かに支えています。
ドイツ連邦共和国—循環がつくる、都市と農の未来—

緑豊かな屋外庭園を併設したドイツパビリオンは、循環型・持続可能な建築そのものが出展作品となっています。建築・景観・展示が一体となった設計で、来場者は循環型社会の未来像を体験することができます。
『Jeder ist seines Gluecks Schmied』
(幸せは、みずからの手で築くもの):ドイツのことわざ
「わ!ドイツ」をテーマに掲げたドイツパビリオンは、循環の「環(わ)」、調和の「和(わ)」、感嘆の「わ!」という3つの“わ”をキーワードに、循環経済(サーキュラーエコノミー)を展示全体の中核コンセプトに据えています。建物は円柱状の木造ユニットで構成され、解体後も再利用可能な素材を活用した、循環を象徴する建築です。
館内では、マスコットキャラクター「サーキュラー」が手に持つオーディオガイドとして来場者を案内します。光や振動で反応するサーキュラーを壁面のセンサーにかざすと、その展示に応じた解説が始まります。館内に設けられた数多くのタッチポイントを巡ることで、来場者は循環経済の仕組みをインタラクティブ(双方向的)に学ぶことができます。
その中では、グリーン電力を活用した営農や、レーザーで雑草を識別して除去する無農薬栽培といった、ドイツで実際に導入されている先端農業の事例も紹介されています。来場者はゲーム感覚で楽しみながら、持続可能な農業の未来像に触れることができます。
さらに、床がゆっくりと回転するシアター空間では、座席ごとに視点が移り変わる仕掛けを通じて、資源が循環しながら社会をかたちづくるプロセスを体感できます。来場者は映像を見るだけではなく、循環社会に自らがどう関わるのかを考え始めるきっかけを手にします。
これまでも産業と文化の両面で世界をリードしてきたドイツですが、国内には解決すべき課題が横たわっています。とりわけ顕著なのが、戦後に整備された都市インフラの老朽化です。橋梁や道路、上下水道など戦後に整備された社会インフラは老朽化が進み、政府は今後20年間で、数百億ユーロ規模以上の再整備投資を見込んでいます。
さらに、エネルギー転換(Energiewende)の加速も大きなテーマです。ドイツは2030年までに電力供給の80%を再生可能エネルギーで賄う目標を掲げており、工業国としての競争力を維持しながら脱炭素社会への移行を図ろうとしています。
一方で農業分野では、労働力不足と環境規制の強化を背景に、省力化と環境負荷低減の両立が迫られています。EUの「Farm to Fork戦略」では2030年までに農薬を50%削減することが掲げられており、ドイツはその実現に中心的な役割を担っています。こうした背景から、精密農業や自動化技術を活用した「循環型農業」のモデル構築が、ますます不可欠になっているのです。

ナショナルデーではドイツ人の父と日本人の母を持つピアニスト、アリス=紗良・オットさんによるベートーベンのピアノソナタ「月光」が披露され、その研ぎ澄まされた演奏に会場からは大きな拍手が送られました (6月20日)。
こうした課題に向き合うドイツにおいて、クボタもまた新たな役割を模索しています。
建設機械の分野では、老朽化した道路や橋梁の改修、都市再開発に対する投資が拡大するなか、コンパクトで小回りの利く小型バックホーなど、都市型工事に適したクボタの建機が実力を発揮しています。また、欧州の厳しい排ガス・騒音規制に対応したStage Vエンジン搭載モデルを展開するとともに、電動化や環境負荷を抑えた次世代機の開発も進められており、持続可能な都市づくりを支える力を高めています。
また、将来的な供給体制と製品ラインの拡充にも着手しており、クボタの在ドイツ建設機械製造・販売会社であるKubota Baumaschinen GmbH(クボタバウマシーネンGmbH)は、ドイツのツヴァイブリュッケンで2026年からミニバックホーの生産を段階的に開始し、2028年までに生産能力を約40%増強する計画を進めています。
さらに農業分野では、精密農業やデジタル技術の導入を進める欧州の潮流の中で、クボタのスマート農機が新たな可能性を切り拓いています。ドイツの大規模畑作に対応する大型トラクタ「M7シリーズ」や、GPS・センサーを組み合わせた農作業における自動化技術は、省力化と資源の効率利用に直結するものです。加えて、AIを活用した生育モニタリングや可変施肥といった技術と組み合わせることで、EUが重視する「循環型農業」の実現に向けた取り組みが具現化しつつあります。
クボタの建設機械と農業機械の両分野における総合的なソリューションは、同国の「サーキュラー(循環)」というテーマに呼応する形で、人々の暮らしの持続可能な未来をともに描いています。
未来のかたちは国や地域によって異なります。
乾いた砂漠に水をめぐらせる挑戦と、成熟した都市で資源を循環させる営み。気候も風土も対照的な両国の取り組みが、共に「持続可能性」という一点で交わっています。
クウェートとドイツが示す道筋は、いのちを支える技術と社会の基盤を築くという共通の願いを映し出しています。その交わりのなかで、クボタの技術は砂漠に水をめぐらせ、都市に循環を根づかせる未来を、現場で静かに支えています。