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LIFE

タイからASEAN、そして世界に農業の新たな未来を提案する実証型農場クボタファーム

2023 . 12 . 20 / Wed

上空から撮影した実証農場「クボタファーム」

写真・文:クボタプレス編集部

2023年、日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)は友好協力50周年の節目を迎えました。12月には東京で特別首脳会議が開かれ、新たな協力構想が発表されました。めざましい発展が続く東南アジアですが、経済成長と環境保全や温室効果ガス削減の両立といった難しいかじ取りを迫られており、日本との協力関係もさらなる深化が期待されています。

農業分野でいま東南アジア各国が頭を悩ませているのは、「地球沸騰化」による新たな干ばつの危機と焼き畑による深刻な大気汚染。背景には農家の貧しさがあるとも指摘されています。他にも農村部から都市への労働力の移動による担い手不足や高齢化、水資源のひっ迫による効率的な水資源の利用など、さまざまな課題が顕在化している中、解決のヒントを得ようと、国を越えて農業関係者が訪れる場所がタイ中部の平原にあります。現地のニーズに寄り添いながら「未来の農業」を日々研究、実践するタイ実証型農場「クボタファーム」(以下、クボタファーム)を取材しました。

タイ農業とともに歩むクボタ

熱帯モンスーンの温暖な気候と広大な平地に恵まれたタイは、国土の4割が農地という農業大国です。タイ農業の象徴とも言えるコメ(世界6位)のほか、サトウキビ(同5位)やでん粉の原料になるキャッサバ(同3位)などの畑作物、パイナップル、ドリアンといったトロピカルフルーツなどで世界有数の産出量を誇ります。

タイの主要農産物の生産量(2021年、単位:千万トン)
出所:国連食糧農業機関 FAOSTAT

タイの主要農産物の生産量を表したグラフ

機械化が進み出していた1960年代、日本製耕うん機の販売をスタートさせたのがクボタです。1978年には大手素材メーカーのサイアムセメントと合弁会社を設立し、農業用ディーゼルエンジンや耕うん機の現地生産を拡大していきます。90年代にはトラクタの利用も広がりはじめますが、農家の収入と比べてかなり高額だったため、普及はなかなか進みませんでした。

大きな転機となったのは、現地仕様のトラクタ開発です。温暖で年間を通して農業がしやすい環境では、機械の使用時間が長く、負荷も大きくなります。日本の技術者がタイ農家のニーズを徹底的に聞き取って開発した新製品は、耐久性がありながら、メンテナンスがしやすいつくりで、価格も抑えられました。

同時にアフターサービスの充実にも力を入れました。販売店に修理の部品をそろえ、農家の要望にすぐに対応できる態勢を整えました。農家の信頼を得て着実に販売を伸ばすと、2009年にはタイ工場でトラクタの量産が始まります。

タイ工場でトラクタが製造されている様子

タイ農業の課題とクボタの挑戦

恵まれた環境にあるように思えるタイ農業ですが、大きな壁に直面しています。課題となっているのは低い生産性と高齢化、そして環境問題です。

タイで働く人のうち農業に従事する割合は3割を占めます。しかし、どれだけ付加価値を生み出したかを示すGDP(国内総生産)に占める割合は1割にとどまっています*1。コメの単位面積あたりの収量も東南アジアで最低の水準で、コメ輸出国としての地位も低下傾向にあります*2。負担が大きく収入が伸びない農業から若い世代が離れ、従事者の高齢化も進んでいます。

  1. *1.国連(United Nations Thailand): https://thailand.un.org/en/103307-thai-agricultural-sector-problems-solutions
  2. *2.米国農務省(USDA): https://www.fas.usda.gov/data/world-agricultural-production

タイ政府の国家戦略でも、生産性の向上と持続可能性の追求は目下の最重要課題です。主要政策のひとつ、「Thailand 4.0」は経済社会のデジタル化を加速して、生産性の高い社会を目指すというもの。もうひとつの「Bio-Circular-Green(BCG)経済モデル」は経済回復と環境対策の両立を目指しています。農業は両政策において重要な柱とされており、スマート農業などが推進されています。

「Thailand4.0」および「Bio-Circular-Green(BCG)経済モデル」

タイにおける主要政策である「Thailand4.0」と「Bio-Circular-Green経済モデル」を説明する図

「収入が仕事量に見合っていない」「若い世代は『農業は大変だ』というイメージが強い」。日々農家と接するSIAM KUBOTA Corporation Co., Ltd(以下、SKC)のスタッフたちも、問題意識は同じでした。「スマートで魅力ある産業としての農業」というイメージを、誰にでもわかりやすく体感してもらえる場所を作りたい。そんな思いの詰まった場所としてクボタファームは2019年に着工されました。

答えが見つかる場所

「見るだけじゃなくて、実際に体験できる。ここに来れば農家が抱える問題の答えが必ず見つかるという場所を目指しています」

タイ中部チョンブリ県のクボタファームを訪ねると、責任者のRatchakritさんが迎えてくれました。35ヘクタールの広大な敷地は「精密稲作」、「現代畑作物」といった栽培分野のほか、最新技術の体験やトレーニング場など10のゾーンで分かれています。ASEAN地域に密着した研究開発を推進し、販売ディーラーや農家の顧客を招き、最先端の農業技術を体感してもらう場を提供することで、農業の担い手育成に貢献することがねらいです。各ゾーンを実際に見てまわりながら、Ratchakritさんに説明してもらいました。

クボタファーム責任者のRatchakritさん

1996年の入社以来、ASEAN、南アジア、中東、アフリカなど様々な地域で営業・マーケティングを担当し、2019年のクボタファームの立ち上げも担当したRatchakrit Sanguancheewin氏は、現在は事業価値創造本部マネージャーとして、来場者に革新的な農業体験を提供し、新しい農業ソリューションの探索・研究、顧客へのベストプラクティスの普及に努めています。

「精密稲作」ゾーンでは青々とした水田が広がり、最新鋭の田植機やトラクタが動いています。水稲はタイを象徴する作物ですが、土壌が適していなかったり、使える水が乏しかったりする地域は少なくありません。土壌を改良し、少ない資源で効率的に栽培する技術が重要です。実は、クボタファームがあるこの地域は本来米が育ちにくい砂質土のため、土壌改良から取り組む必要があったようです。

「とくかく米が育つ良い土を作るために土壌を分析し、必要な成分と養分を明らかにしました。そして、土作りの次は『水』。土だけでもダメだし、水だけでもダメ。農業で大事なのはバランスです。ここはSKCの持っているノウハウとタイの農業生産工程管理における米作りのノウハウを一緒に合わせてできた場所です」

クボタファームの精密稲作ゾーンにおける、自動運転田植機やドローンを用いたデモンストレーションの様子

精密稲作ゾーンでは自動運転田植機やドローンによる肥料散布などのデモンストレーションが行われる

「現代畑作物」ゾーンのキャッサバ畑では、トラクタが畝をつくりながら進み、後部に付けた作業機が細長い苗木をちょうどよい長さに切断して土に差し込んでいきます。

「このトラクタができる前は硬い苗木の切断と植える作業をすべて手作業で行い、それがキャッサバ栽培の大変なところでした。また、人の手だと苗木の切り口がどうしても斜めになるのですが、大学との共同研究で切り口は水平の方が均等に大きく育つことがわかりました。機械ならまっすぐに切れますし、畝つくり・苗木の切断・植え付け・肥料散布の4つの作業が一台ですべてまかなえます」

キャッサバ植え付け用の作業機の特長について説明しているRatchakritさん

「現代畑作物」ゾーンでキャッサバ植え付け用の作業機の特長について説明しているRatchakritさん

畑作物の栽培で機械化できる余地はまだまだ残っています。例えば天然ゴムの採取やドリアンの収穫に対応できる技術はまだありません。SKCは、クボタファームが全てのパートナーに開かれたオープンイノベーションの場として活用されることを目指します。実現に向けた新しい発見や工夫が、クボタファームここで日々積み重ねられています。

「ゼロバーン」で環境を守る

サトウキビ畑では、東南アジア各国で社会問題化している焼き畑による大気汚染を解消するための「ゼロバーン(燃やさない農業)」が実践されています。農家や政府機関が直面する課題に寄り添うクボタの姿勢が、環境問題への取り組みにもつながったといいます。

深刻な大気汚染の原因になっているのは、収穫前の畑に火をつけて葉を燃やす「キビ焼き」です。邪魔な葉を効率よく取り除いて焼け残った茎を刈り取るという方法です。しかし、煙が出るだけでなく、焦げた茎は売値が安くなってしまいます。

「もともとこの機械の開発のきっかけはサトウキビ農家さんの問題を解決するためでした。サトウキビ農家にとって一番の問題は収穫する人が全然足りなかったことです。しかも、収穫する時には硬い葉っぱによってけがをしてしまったり、畑に棲みつく蛇や害虫により被害を受けたりする危険も潜んでいます。それで今までは収穫前に葉っぱを燃やしていたんです」

SKCが開発したゼロバーン作業機械のサトウキビ脱葉機は、葉をヒモのようなもので絡め取って茎をきれいな状態にします。それにより、農家はけがの心配なくサトウキビを収穫することができ、売値も高くなります。燃やさないので、煙や二酸化炭素の排出を抑えることができ、削減した分をお金に換えられるカーボンクレジット制度によって新たな収入も得られます。さらに収穫後に残る葉っぱを集めてブロック状にする機械を使うことで、バイオマス燃料などに活用することもできます。

ゼロバーン作業機械のサトウキビ脱葉機が作業する様子

SKCが開発したゼロバーン作業機械のサトウキビ脱葉機

「どうやったら燃やさなくてもうまく収穫ができるかを考えました。ゼロバーンはサトウキビだけでなく、米、トウモロコシなど他の作物にも適用されます。二酸化炭素の排出を抑えることはもちろんのこと、普通はそのまま捨ててしまう葉も、燃料・エネルギーとして価値を見出すウェイストマネジメント(廃棄物管理)を行うことで、サーキュラーエコノミー(循環型経済)実現にも貢献しています。」

常に進化するクボタファーム

開設からまもなく3年となるクボタファーム。コロナによる閉鎖もありながら、タイや東南アジア各国のみならず、遠くはアフリカも含め世界中からも5万人以上が訪れました。タイの首相が国家の農業改革制度に関する談話を持つなど、政府の要人も多く招いてきました。また、平均4時間ほど滞在しながら、最新技術が実際に使われているところを見て、実際に試乗して、製品をそのまま購入する農家もいます。訪問後にスマート農業に乗り出した農家も7グループ、2千人に至ります。農家から持ち込まれる課題に向き合いながら、クボタファームではトマトの収穫ロボットやドローン散布などの技術開発プロジェクトも進められています。

「常に5年ぐらい先を考えてプロジェクトを進めています。技術が確立してから5年後には農家で実用できるイメージです。世界中から技術を取り入れ、実践してノウハウを蓄えていくことによって、将来クボタから農家に提供することを目指しています」

農場の一角では、いまも新しいゾーンの建設が進んでおり、最終的に現在の倍にあたる12のゾーンにまで広げ、農家に提供するソリューションも近い将来に現在の70から100まで増加する計画です。

「お客さんは新しいリサーチとソリューションを求めています。1回来たことがある方でも1年後にまた来たら全然違う、常に進化するクボタファームにしていきます」

情熱的に語るRatchakritさんの視線の先には、タイ農業の確かな未来が見えているようです。その成果は、東南アジア、そして世界の食料・水・環境問題の解決にも大きく貢献するはずです。

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