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「クボタ・毎日地球未来賞」を通じ、クボタが応援する若い力 第5回地域の企業や農家とともにソーセージで産業振興に挑む

2025 . 12 . 09 / Tue

高校の敷地内にある宮沢賢治ゆかりの建物「羅須地人(らすちじん)協会」の前に集まり、商品化されたソーセージを掲げるソーセージ研究班の生徒たち

写真・文:クボタプレス編集部

2025年のCOP30(国連気候変動枠組条約第30回締約国会議)がブラジルで開催されました。近年COPは気候変動という単独の環境問題を議論する場から、2050年までに90億人に達すると言われる地球上の人々の食料・水をいかに確保するかという、人類の生存に関わる根本的な問題が議論される場になりつつあります。

「食料・水・環境」に関わる課題は、国境を越え、世界の人々がお互いを理解し合い、助け合っていかなければ解決できません。これら三つの分野で活動する団体や小中高生・大学生などの若い人たちを顕彰する「クボタ・毎日地球未来賞」において、2024年度第14回の大賞を受賞したのが、岩手県立花巻農業高等学校のソーセージ研究班です。地元の食材を活用した開発を通じて、地元の企業や農家と連携しながらフードロス削減と地域振興に取り組んでいることが高く評価されました。

高校生たちが取り組んだ地域密着型のフードシステム

花巻農業高等学校のソーセージ研究班の活動は食農科学科2〜3年の授業の一環として行われており、特にソーセージ研究班は20年以上にわたり、花巻市のブランド豚「白金豚(はっきんとん)」など、地元の食材を使って地域の農業や産業の課題を解決していこうと積極的に取り組んできました。

第14回クボタ・毎日地球未来賞の受賞記念活動報告会でのプレゼンテーションの様子

2024年2月22日に開催された「第14回クボタ・毎日地球未来賞」の受賞記念活動報告会では、当時3年生だった班長の菊地柚南(きくち・ゆな)さん(写真右)がプレゼンテーションを行いました。写真提供:毎日新聞社

同研究班が2020年から始めたのが、花巻市に隣接する北上市二子町の特産品として知られる「二子さといも」を使ったソーセージの開発です。もともと二子さといもは頭芋(かしらいも)と呼ばれる親芋から分球した子芋が商品として出荷されます。頭芋も食べられますが、子芋より大きく硬めで加工に手間がかかるため、大半が廃棄されているのが現状です。二子さといもの担い手不足に危機感を抱いた二子町在住の班員が、農家に話を聞くなかでこの頭芋の廃棄問題を知り、なんとか有効活用できないかと研究をスタート。試行錯誤の末、商品化に成功しました。

ソーセージに添加する里芋片と米麹

左はアルファ化(水を加えて加熱して糊化)した二子さといも。アルファ化することで加工食品への応用が広がります。右は宮沢賢治が農民に推奨した「陸羽132号」の米で作った花巻農業高等学校オリジナルの米麹。どちらもソーセージに添加します。

吊されたソーセージ

できあがった里芋入りのソーセージはなめらかで優しい味わい。

また、2023年には頭芋だけでなく、規格外のアスパラガス、加工用途が少ないキクラゲなどを使った3種類のソーセージを開発し、連携企業の協力によって商品化に成功。イベント会場で販売したところ、好評を博し、その後も注文が殺到してのべ3600本が売れ、廃棄物や地域資源の活用、農家や企業の売上増に貢献しました。

さらに、2024年には遠野市特産であるホップの樹脂成分の抗菌性を生かし、ソーセージの賞味期限を大幅に延ばすことに成功したのです。

賞味期限を延ばすことはフードロス削減に貢献しますが、それにとどまらず、花巻農業高等学校の取り組みは、加工や流通も含めたフードシステム全体を視野に入れ、地域コミュニティや企業と連携して活動している点が評価され、クボタ・毎日地球未来賞の受賞につながりました。

ホップの毬花(きゅうか)

日本一の栽培面積を誇る遠野市のホップの毬花(きゅうか)

開発したソーセージ3種の販売会の様子

3種類のソーセージを販売したイベントの様子。

研究を継続するソーセージ研究班の現在の課題はホップの苦味の克服

受賞時の中心メンバーだった3年生はすでに卒業していますが、今も研究を継続する後輩や先生、連携企業の皆さんを訪ね、現在の活動を中心にお話を伺いました。

花巻といえば宮沢賢治の故郷として知られ、花巻農業高等学校は宮沢賢治が教員を務めていた農学校の後身校に当たります。敷地の一角には賢治が退職後、農民の指導を行った私塾が移築・復元されています。

建物の前に掲げられた「下ノ畑二居リマス」の看板

宮沢賢治が農民向けの農耕指導や創作活動を行った「羅須(らす)地人協会」の入口に掛かる、有名な「下ノ畑ニ居リマス 賢治」の伝言板。文字は賢治の弟の清六さんが彼の字を模して書いたもので、現在は高校の生徒たちが上書きして保存し続けているそうです。建物は移築されているため、「下の畑」はここから南東(花巻市街地の方向)に約4km離れた場所にあります。

農業を通じて命の大切さを伝え、実体験から生徒たちの創造性を育てようとした賢治の「人間教育」を受け継ぐ同校では、長年、授業のカリキュラムに研究の時間を組み込んだ教育を実践してきました。

今年度のソーセージ研究班のメンバーは2・3年生が5名ずつの計10名。本格的な設備が並んだ肉加工品専門の加工室で出迎えてくれたのは、3年生の皆さん。この日は肉加工品にホップの樹脂成分を加えた際の食味の実験が行われていました。

ソーセージ研究班3年の畑山さんと山本さん

班長の畑山愛佳(はたやま・あいか)さん(左)と山本悠太(やまもと・ゆうた)さん(右)。ともに現在、3年生のメンバーです。

班長の畑山愛佳さんによると、遠野の農家では昔から、ビールの原料として使われるホップには抗菌作用があり、収穫の際に手に擦り傷ができても化膿しないと言われてきたそうです。そこで、研究班では2021年からホップの毬花(きゅうか)の中心にある「ルプリン」という天然樹脂に抗菌作用があることを証明し、それをソーセージに添加することで賞味期限を延ばすことをめざして研究が続けられてきたのです。

ただ、ルプリンを添加すると賞味期限は延長できるものの、ホップ特有の苦味が加わってしまい、おいしさが損なわれるとのこと。そこで、香辛料の量を変えたハンバーグを2種類つくり、多めの香辛料によって苦味がどれほど抑えられるかを検証していました。

ハンバーグを成形している様子

肉温を温度計で測定し、氷水で温度の上昇を抑えながら、ハンバーグを成形しているところ。

焼き上がったハンバーグ

焼き上がった白金豚のハンバーグ。

また、毬花は収穫時期を過ぎると入手が困難になるため、年間を通じて入手しやすいホップをすりつぶしてタブレット状に加工したホップペレットにも着目し、その抗菌作用の研究を続けています。

乾燥させたホップ2種と市販のペレット状のホップ

上は令和6年収穫、右下は令和5年収穫のホップの毬花をそれぞれ乾燥させたもの。左下は市販のホップペレット。

ソーセージ研究班3年の残り3人のメンバー

3年生のメンバーは現在計5名。写真は左から順に、菅原胡子(すがわら・ここ)さん、古川真央(ふるかわ・まお)さん、菅原璃子(すがわら・りこ)さん。ホップや溶媒の種類を替えることで、抗菌性や食味にどのような違いが出るのか、実験を重ねています。

先輩たちは、ソーセージの賞味期限を延ばすことは小売店や消費者の廃棄処分量の削減につながるだけでなく、過剰な生産や製造にかかる燃料費・輸送費の削減にもつながる──すなわちこれをフードシステム全体に関わる課題として考えました。それを受け継いだ後輩たちは今も、ルプリンの濃度や添加量のテストを重ね、安定した供給など、一つひとつの課題と取り組んでいるのです。

企業と生徒の共創から生まれた革新的な技術

廃棄されるはずだった原材料を新たな「資源」とし、これまで証明されていなかった作物の抗菌力を活用することで地域資源を循環していこうという高校生たちの挑戦は、地元の農家や企業にどのように受け止められたのでしょうか。花巻農業高等学校の活動を支援してきた企業の1社である花巻市のハム・ソーセージメーカー、銀河フーズ株式会社にもお話を伺いました。

銀河フーズが研究班と関わることになったきっかけは、2019年9月に行われた高校生のインターンシップ。案内役を務める河内信明さんは、生徒を引率してきた村上利行先生から「今度ソーセージ研究班を担当することになったのですが、私自身はソーセージの作り方がまったくわからないので教えてもらえませんか」と単刀直入に相談されたそうです。

銀河フーズ常務取締役の髙橋啓至さんと参事の河内信明さん

銀河フーズ株式会社常務取締役の髙橋啓至(たかはし・けいし)さん(右)と、長年、高校生たちの研究に協力してきた参事の河内信明(かわち・のぶあき)さん(左)。背後の壁を飾るのは、ドイツ農業協会(DLG)主催の国際品質協議会で受賞した金賞の賞状の数々。

数日後、河内さんが高校に赴き、ソーセージの製造工程を見学すると、花巻農業高等学校では20年以上にわたる製造経験があるにもかかわらず、技術が十分に継承されず、せっかくの立派な設備も手入れが行き届いていない状態でした。この光景を目の当たりにした河内さんは、「ソーセージづくりに挑戦したいという若い世代が身近にいるのであれば、地域に根ざした企業である私たちがこれを支援しないわけにはいかない」との意を強くしたと語ります。

河内さんをはじめとする銀河フーズの社員たちが学校を訪れ、直接指導するようになると、製造技術は格段に向上。見た目にも美しくおいしいソーセージが初めて完成したときには、生徒たちから拍手が起こったそうです。「目がキラキラ輝いていました。成功体験によってモチベーションが上がり、次々と新しいアイデアが生まれるようになっていったのです」と語るのは常務取締役の髙橋啓至さん。

高校に赴いて生徒を指導する銀河フーズの平澤さん

銀河フーズの品質管理部グループリーダー、平澤勝利(ひらさわ・かつとし)さんが学校に出向き、ソーセージ研究班の生徒に指導する様子。

同社の商品開発研究室室長、小原圭司(おばら・けいじ)さんが研究班の生徒たちにルプリンの抽出方法を伝授している様子。写真中央の久保星空(くぼ・せいら)さんは卒業後、銀河フーズに就職したそうです。

このように地域の支援を受けながら、花巻農業高等学校のソーセージ研究班は2021年からホップの研究を開始し、2024年にはルプリンが畜産加工品の賞味期限を延長することを実験によって検証するに至りました。

生徒たちは、この画期的な技術を特許として申請できないかと考えましたが、高校生が取得するには費用面など難しい点があるため、この技術を銀河フーズに譲渡し、同社に申請を一任することにしました。特許の取得までには多くの関門があるため、結果が出るのはまだ先になりますが、歴代の研究班の生徒たちが努力を重ねてつくり上げた財産を形にするために申請を決断したと河内さん。特許取得がゴールではなく、新技術を生かした製品を世に出し、価値創出の意義を生徒に示すことが最終目標だと語ります。

「貴重な体験ができる生徒の皆さんは幸せだと思います。ソーセージ研究班の活動を通じて、地域との関わりに共感してもらえたらうれしいですね。将来、就職先や進学先などにおいても、きっと大きな糧になるはずです」(河内さん)

おいしいものを安心して食べられる未来をつくるために

企業と生徒たちとの出会いをつくった花巻農業高等学校ソーセージ研究班顧問の村上先生は、担当教諭になってからの7年間を「高校生たちが課題解決のためにがんばっている姿を見て、企業、大学、農協や農家の皆さんも快く協力してくださり、連携の輪が広がっていきました」と振り返ります。

ソーセージ研究班担当の村上利行先生

前任校では和紙づくり、その前の高校ではパンづくりを指導してきたという村上利行(むらかみ・としゆき)指導教諭。地域の資源を媒体に生徒たちが成長していく姿を見ることはこのうえない喜びであり、やめられないと笑います。

ソーセージ研究班はこれまで、さまざまな角度からSDGs(持続可能な開発目標)の達成に取り組んできました。例えば、フードロスの削減は「目標12:つくる責任つかう責任」に、地域企業や農家との連携は「目標17:パートナーシップで目標を達成しよう」に該当します。そして、村上先生が特に重視するのが、「目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう」です。

ソーセージ研究班が実践してきたSDGs17の目標のうちの3つのアイコン

ソーセージ研究班の活動が実践してきたSDGs 17の目標のうちの3つ。

「生徒は毎年入れ替わっていくのだから、同じソーセージをつくればいいのではという人もいますが、それでは研究班活動の魅力は失せてしまいます。志を高く持ち、少しでも進化を続けることによって、技術革新をめざし、地域産業の振興につなげたい。現在、特許申請中の新技術のように、それは高校生にもできると確信しています」と村上先生は語ります。

羅須地人協会の縁側に集まった3年生のメンバー5人

羅須地人協会の縁側で談笑するソーセージ研究班3年のメンバー。

花巻農業高等学校の歴代のソーセージ研究班が継続してきた研究は、製造→加工→流通→消費→廃棄というフードシステム全体の課題を身近なものとして捉え、それを解決しようという思いから生まれたものだと言えるでしょう。

クボタ・毎日地球未来賞はこれからも、安心しておいしいものが食べられる未来に向けて、学校、地域、企業が連携する核となる、新しい研究活動に挑戦する若い世代を応援していきます。

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