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第14回を迎える「クボタ・毎日地球未来賞」を通じ、クボタが応援する若い力身近なところから、地球の未来を考える
2024 . 08 . 30 / Fri
写真・文:クボタプレス編集部
21世紀の地球が直面する「食料」「水」「環境」の問題解決に取り組む団体・個人を顕彰する「クボタ・毎日地球未来賞」。毎年高校生や大学生など次世代を担う学生や若手が数多く受賞しており、受賞者の活動からまさに多くの可能性を感じる表彰活動です。現在、第14回の応募を受付中です(2024年9月17日まで)。
学生時代にこの賞を通じて地球環境問題と向き合った体験は、彼らの人生やキャリアにどのような影響をもたらすのでしょうか。第5回(2015年度)に愛媛県立長浜高等学校「水族館部」部長として参加し、「次世代応援賞」を受賞した山本美歩さんに聞きました。
「クボタ・毎日地球未来賞」とは
地球温暖化や自然災害、人口増加に食料、エネルギーなどの問題は、一国だけでは解決できない地球規模の課題で、日に日にその複雑性や脅威は増しており、私たち一人ひとりが自分の問題として捉え、いかに行動するかがますます重要になっています。
毎日新聞社が主催し、クボタが協賛する「クボタ・毎日地球未来賞」は、21世紀の地球規模の課題である「食料」「水」「環境」の3分野を対象に、国内外の問題解決に取り組む個人や団体を顕彰するもので、東日本大震災が起こった2011年に創設されました。
「For Earth、For Life」という企業理念のもと、食料・水・環境分野における課題への挑戦を掲げ、事業のみならず社会貢献にも取り組んでいるクボタは、「クボタ・毎日地球未来賞」の前身である「毎日国際交流賞」創設の1989年以来、未来の子どもたちによりよい環境を残したいという思いで、課題に向き合う人々を応援しています。
クボタ・毎日地球未来賞の一つの特長は、大賞とクボタ賞が一般の部と学生の部に分かれ、学生のみを対象にした各賞を設けるなど、高校生や大学生にも広く門戸を開いている点にあります。
学生時代、地球環境問題と向き合い、日々活動を行っていた体験は、その後の人生にどのような影響を及ぼすのでしょうか。第5回(2015年度)に愛媛県立長浜高等学校「水族館部」の部長として参加し、「次世代応援賞」を受賞した山本美歩さんにお話を聞きました。
山本さんは現在、四国水族館の飼育展示部魚類課に所属し、主に魚類の飼育を担当しています。飼育員の主な仕事は掃除、調餌、給餌の三つで、回遊魚が群泳する大水槽には、週3回、一度に約30キロもの給餌を行うとのこと。餌やりの様子が見られる「フィーディングタイム」には、お客様に生きものの解説をすることもあるそうです。
山本さん率いる長高水族館が毎日地球未来賞に応募した背景と経緯
山本さんが水族館に就職するに至ったきっかけは、上述の愛媛県立長浜高校「水族館部」にあります。同校は廃館になった旧長浜町立長浜水族館を引き継ぐ形で1999年、日本初の高校内水族館「長高(ながこう)水族館」を開館。約150種2000点を超える生物を水族館部の生徒たちが飼育し、月1回の一般公開日には県外からも多くの人々が訪れます。
長浜高校がある愛媛県大洲市内の自然豊かな山あいで生まれ育ち、小さい頃から生きものが好きだったという山本さんは、高校受験を控えた中学時代、水族館部があるユニークな高校の存在を知り、志望して入学。さっそく入部し、担当水槽の掃除や水替えなどの活動を始めました。
家で金魚やメダカを飼ったことはあったものの、海水に住む生きものの飼育は初めてで、とても新鮮だったという山本さん。「初めて見るカラフルな熱帯魚ももちろん魅力的でしたが、それまで魚屋さんでしか見たことがなかった普段食べている身近な魚が、生き生きと泳いでいるときの美しさや愛らしさ、生態のおもしろさなどを知ることができたのがうれしかったですね」と振り返ります。
水族館部の活動は水槽のメンテナンスだけではありません。もう一つが班活動で、当時はクマノミなどの繁殖に挑戦する「繁殖班」、公開日のイベント企画や展示物の充実を図る「イベント班」、テーマを決めて研究に取り組み、さまざまなコンテストで成果を発表する「研究班」の3つの班に分かれて活動を行っていました(現在は4つ目の「デザイン班」を追加)。
「高校時代、いちばん大変だったのは研究班の研究です。今まで小学校の自由研究程度しか経験がなかったので、本格的な論文を読むなど、何もかもが初めてで、難しいことばかりでした」
山本さんが入学した1年生のとき、同じ中学出身の重松夏帆さんと2人で取り組んだのが、カクレクマノミの研究でした。イソギンチャクの中に隠れて暮らすカクレクマノミはなぜイソギンチャクに刺されないのか──先輩から受け継いだ研究テーマに新たな仮説を立て、実験を繰り返した2人は、その理由が体表を覆うマグネシウムイオンにあることを突き止め、研究論文の発表によって日本学生科学賞の最高賞、内閣総理大臣賞を受賞。日本代表の出場権を得て、2年生になって臨んだアメリカの「インテル国際学生科学技術フェア」の動物科学部門で4等に入賞したのです。
「大変だったと言っても、長年がんばってこられた先輩方のデータがあったからこそ実を結んだのが私たちの研究で、運がよかったんです」と山本さん。それまでバトンをつないできた先輩や研究に協力してくださった先生など、関係者一同を代表しての受賞であって、2人だけでもらった賞ではないと言います。
水族館を通したエコ活動の分析と受賞・記念講演会までの流れ
次に、「毎日地球未来賞」への応募と、受賞後の記念講演会のためのプレゼンテーションの準備について聞きました。
「先輩方からこういう賞があるという情報を教えていただいたのが最初のきっかけだったと思いますが、自分たちの長年の活動を専門家の方に評価していただける貴重な機会ですし、受賞して記念講演会に出席できれば、いろいろな分野で活動している同世代の皆さんのお話を聞くチャンスになるのではないかと思いました」
同賞は特に科学的な研究に関して与えられる賞ではないため、3つの分野のうちの「環境」に焦点を当て、長年にわたる長高水族館の「人々の意識を高めるエコ活動」をテーマに、これまでどのような取り組みをしてきたかを整理・分析することにしました。
長高水族館は、高校の環境教育の場となることはもちろんですが、一般公開、幼稚園や小学校の遠足の受け入れなどを通して、地域の人たちが生きものや自然に興味を持つ環境教育啓発活動の場にもなります。また、繁殖によって養殖された個体が増えれば天然の個体の乱獲防止につながるため、繁殖技術の向上も広い意味ではエコ活動と言えます。
ちなみに、応募書類や資料の作成にかかった期間は約2カ月で、顧問の先生や研究班の仲間たちと相談しながら進めていったそうです。かくして、山本さん率いる長浜高校水族館部は、地域の環境教育の場として定着していることや長く部活動を継続してきたことが評価され、「次世代応援賞」に選ばれました。
環境保全活動の根底には、自然に対する興味や知識があると山本さんは語ります。
「生きものが好きだからこそ、絶滅の危機に瀕した生きものを助けたい、自分に何ができるのかと考えるようになります。長高水族館が長年取り組んできた『人々の意識を高めるエコ活動』はリサイクルや省エネ化などに比べ、効果が目に見えにくい活動ですが、水族館が環境保全に貢献できるのはそういう根っこの部分だと思っています」
課題と取り組むことで身近な興味が広がり、地球を考えるきっかけに
山本さんは高校卒業後、愛媛大学社会共創学部産業イノベーション学科の海洋生産科学コースに進学しました。3年次からの2年間は愛南町にある南予水産研究センターで、海産魚の養殖システムや育種開発について学ぶ一方、地域の海の良さを広めるイベントのボランティアにも参加。同じコースのメンバーが6人という少人数制で密度の濃い時間を過ごしました。より多くの人々に地域の海や海洋生物の魅力を伝える喜びを知ったことが、今の仕事につながっているそうです。
最後に、これから「クボタ・毎日地球未来賞」に応募しようと考えている学生の皆さんに対して、次のようなエールを送ってくれました。
「就職した今も感じるのは、私一人の力でできることは限られているという点です。高校時代も一緒に研究してくれた部員や顧問の先生、地域の方など、大勢の方々の協力のおかげで、研究をやり遂げることができました。いろいろな人に相談したり、多様な意見を吸収したりすることで、よりよい内容になっていくと思うので、一人で悩まずにがんばってほしいですね」
身近な生活や地域の中から見つけた課題に取り組む個人や団体は数々ありますが、その活動が知られる機会は多くはありません。山本さんは「毎日地球未来賞」の受賞によって学生時代の活動が認められたことはその後の自分にとって大きな励みになり、プレゼン力や人前で話す力も身についたと語ります。
第14回の受賞者の発表は2025年1月、表彰式・受賞記念講演会は2月の予定です。クボタプレスでは地道に活動を続ける個人、団体を支える一助になればと考え、これから発表までの間に、過去に受賞した学生たちの活動をお伝えしていきます。