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〈革新の時代を読む〉農業を成長産業へ!農業ジャーナリストが語るスマート農業の最前線、そして未来への期待

2019 . 01 . 30 / Wed

農業ジャーナリストが語るスマート農業の最前線、そして未来への期待

文・写真=クボタプレス編集部

今日さまざまな産業分野で、データ活用や自動化・省力化による生産性向上といったメリットをもたらしているICT・IoT。農業においても例外でなく、研究開発と生産現場への導入が進み、世界ではヨーロッパや北米がリードしているといわれています。
日本の農業は農家の大半を占める高齢者の離農や世代交代の難航、新規参入のハードルの高さ、耕作放棄地の増加に加え、農産物の輸入自由化など、積年の課題に直面しています。この状況を打開して発展を遂げるには、農業を“魅力ある強いビジネス”に変えていくことが急務です。そこで、ロボット技術やICT・IoTによる超省力・高品質生産を可能とする次世代型農業、「スマート農業」の普及がカギを握ると考えられます。その未来予想図の実現に必要な施策やアプローチ、スマート農業先進国などの取り組みについて、農業ジャーナリストの窪田 新之助さんにお聞きしました。

■クボタプレス編集部は、この方にお話を伺いました■

窪田 新之助(くぼた しんのすけ)さん/農業ジャーナリスト

窪田新之助さん画像

1978年、福岡県生まれ。大学で民俗学を専攻。祭の研究を通して、日本の農村文化と産業の密接な関係性を意識。日本農業新聞に入社し、記者として8年間、年100日に及ぶ国内外の取材を行い、農業政策・農業ビジネス・農村社会の現場をレポート。農家の公正で自由な競争と成長を応援する想いから、フリーランスの農業ジャーナリストとなり、食と農の取材を精力的に続けている。2014年、アメリカ国務省の「インターナショナル・ビジター・リーダーシップ・プログラム」に招待され、米国の農業現場を視察。主な著書に、『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』(講談社+α新書)、『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来 2020年に激変する国土・GDP・生活』(講談社+α新書)など。

農業活性化に向けた時代が求める視点とは

クボタが国産の動力耕うん機を開発し、日本の農業機械化の扉を開いたのは1947年のこと。以来、いつの時代も農家に寄り添い、新たな可能性を拓くイノベーションを生み出してきました。進む離農や高齢化など、積年の課題解消に向けて、2010年ごろからスマート農業の本格的な研究を開始。栽培から経営管理、農業機械の自動化に至るまで、次世代農業の実現を目指した取り組みを展開しています。クボタプレスは本記事にて、スマート農業の“これから”を待望し共に歩みゆく想いで、識者の声を聞いていきます。

――窪田さんは国内外の取材で、たくさんの農家やさまざまな規模の施設に赴いていますね。最初に、日本における自動トラクタなどの自動運転農機の普及状況について、どのように見ていますか。

「北海道の岩見沢市が自動直進タイプの農機を積極的に取り入れていると聞いています。全農家のうち1割が既に採用済みで、今年度も増加見込みとのこと。北海道は大規模農家が多いので、やりやすいのかなと思っています」

――広大な土地に自動直進はマッチする印象です。しかし、なぜ岩見沢市で導入が進んだのでしょうか。

「岩見沢市では、GPSの基地局を市内に3基建てています。そのため、市内であればどこにいてもGPSが使える状況ですね。全国的に見るとGPS基地を自前で建てているところはまだ少ないですけれども、水田農業地帯を中心に、徐々に増えてきている様子です」

――クボタが2017年6月にモニター販売開始した自動運転農機(アグリロボトラクタ)は、RTK基地局を設置することで、より精度を高められます。

「RTK基地局を使うのもよいと思います。一方で課題は、農家さんの一人ひとりがこれを建てていたら大変です。自治体などが公共のものとしてまとめて設けてしまえば、だれもが使えるようになります。ただ、自治体も農業のためだけに実施するとなると難しく、岩見沢市では独居高齢者の見守りなど、広く公共のサービスにGPSを活用する目的のもと、導入されたと話を聞いています」

福島県にて、アグリロボトラクタ運用の様子を視察する窪田さん。

――日本の農業が抱える重要な課題を解決するきっかけとなるスマート農業。そこでは農業を産業ととらえ、ほかの分野との連携や活用が求められそうですね。

「そういう意味では、農業への支援も点でとらえるのではなく、周辺の製造業や流通・飲食業まで含め、農業・食料関連産業というプラットフォームとして支援を行うことが大切だと思います。そうすることで、より多くの関係者やデータが集まり、経営や産業の発展にもつながると考えています」

――農林水産業は12.7兆円、そのうち農業は10兆8,905億円といわれ、確かに周辺の製造業や流通・飲食業まで含めると、農業・食料関連産業の国内生産額は116.0兆円にもなります。全経済活動の11.6%にのぼることを考えると、より広い視点で活性化させていくことのインパクトは、かなり大きそうです[※農林水産省2018年4月公表データ]。6次産業化という言葉もだいぶ一般的になってきましたし、まだまだ成長の可能性を感じますね。

「生産者が農産物を近くの直売所に出す。直売所に出せば、『今度こういうのを作ってください』っていうお客さんの声が聞ける。それもある意味、一つのバリューチェーンの形態でもありますよね。商流が広がっていく過程で、普段なかなか接点のないお客さんがどういうものを欲しがっているのかを考えたときに、データ活用が鍵になると思います」

世界のスマート農業先進国の様子

――スマート農業の先進国といえば、クボタの社外広報誌『GLOBAL INDEX』でも取り上げていたように、オランダが代表的なイメージです。

「オランダの農業は本当に面白いですね。ワーヘニンゲン大学に、フードバレーと呼ばれる産業と学問が集積したような場があります。あらゆる農学の研究開発が行われ、その実験の成果が農家の生産者のもとに流れていく。ワーヘニンゲン大学の中の大きなハウスに実験棟があって、いくつもの区画に分かれています。企業であれば、だれでもそこに提案して、ワーヘニンゲン大学と研究ができます。農家も参加しています。ほかに興味深いのは、多様なサポート機関も加わっている点です。例えば、肥料と水を混ぜた溶液が栽培のベッドに流れ、トマトやキュウリなどがどんどん育っていて、その結果が全部データ化されるんですね。重量など品質に関する数値が日々データ化されていくのを外部のコンサルタントが常に見ていて、何か変化が起きたら、すぐ彼らがやってくる。肥料単価もすべてデータ化されていて、肥料が足りなくなったら、肥料屋がやってくる。非常に良いサポート環境が整っているのが面白いと思いました」

――ビジネスと直結しているわけではなくとも、プラットフォームとして農業を支える構造がしっかりできているのですね。そうなると、農業に参入を検討している企業も自社製品のテストを行うなどして、産業の拡大につながっていきます。

世界第2位の農産物輸出国・オランダ農業の強さを支える、ワーヘニンゲン大学リサーチセンター(アムステルダム郊外)。

日本の農業テクノロジー、ここが強み

――世界から見て、日本のスマート農業にはどのような特徴・強みがありますか。特にクボタが進めているスマート農業は、稲作を軸足に発展している点から「日本型精密農業」と呼ばれ、欧米諸国のものとは少し異なるようです。

「コメの食味を追求するなど、品質を重視する部分は、日本の農業の特徴といえます。また、物を大切に扱っていると思います。日本で、あるメーカーがブドウの収穫ロボットを作りたいといって話をしているんです。そこも『丁寧にやりたい』気持ちが強いですね。やはりモノに対する触り方やこだわりが、海外と比較して強い印象を受けます。今、イチゴの収穫機なども製造中で、タッチの仕方、いかに潰さないかなど、すごく気を遣っているなと感じました。
求める品質も違いますよね。海外には固いイチゴがありますが、日本産はどちらかというと、やわらかくて甘味があって。消費者のニーズや用途が異なれば、求める商品も異なります。米一つとっても、日本では食味が求められる。既にクボタさんはそれに応える形で、タンパク値と水分値が同時に分かるようになっていますよね。
先日、クボタさんのお客様でもある秋田の農業法人、ライスボール[株式会社RICEBALL]を訪ねました。ここも大変面白いことに、米の生産に加え、自分たちでさらにおにぎりを作って、店舗販売している。そのおにぎりは、農機だけでなく乾燥機までシステム連動させた、水分・タンパク値が一定以上の高品質なお米を使っている。かつては長年の経験とカンに頼っていた営農をデータで見える化し、バリューチェーンと連動できたら、農家と消費者が結べると思っています」

「スマート農業への取り組みを強化していくには、基盤の整備が最重要。東南アジア諸国には、まだ田畑の区画整理が不十分な国も多いですね。しかし、無人運転農機を導入するよりも人件費の方が安価な国や地域もあります」と語る窪田さん。現地の価値やニーズに合った協力・支援が望まれます。

今後の展望

――今後の日本におけるスマート農業、とりわけ大半を占める稲作については、どのような形で発展する可能性がありますか。

「意見はさまざまです。例えば、日本だと農家の離農の流れと、組織化・大規模化の流れの中で需要が高まるのではないでしょうか」

――稲作以外の農業はどうですか。

「野菜のスマート農業もいろいろ検討されているものの、あんまり小規模のところでは進まないかもしれません。とはいえ、運搬ロボットなどはできていますよね。中山間地域向けに、そういったものがどんどん導入されればよいと思います」

――確かにスマート農業の技術は、農業が難しい地域の一助にもなっています。しかしながら、導入や普及の大きなポイントになってくるのは、やはり農家の大規模化・組織化なのでしょうか。

「大規模化・組織化を図るなかで大事なのは、予実管理だと思っています。市場というクッションを置かず、直接取引先や小売り量販店に流していくには、約束していた数量を約束していた時期に納品しなくてはいけません。畑にセンサーをつけて育成状況をデータ管理し、そこからアルゴリズムにかけて収穫日を予測すれば、より正確な予実管理が可能となります。
もう一つは量ですよね。毎日作業者が圃場ごとに観察して、種をまいて発芽がどれくらいだったとか、生育割合などを毎日落とし込み、これくらい出荷できそうだとか。供給できる量を明確にすることで、取引先もそれに応じて仕入先を調整できる。そういう仕組みが必要になるんじゃないかと思います」

――収量予測の精度アップは、差別化をつけるうえで、まさにバリューチェーンそのもの。販路確保のためにも、付加価値を生むスマート化は自然の流れだと感じます。

「野菜では、最近見ているとフランチャイズっぽくなってきています。農家個人だと、どうしても販路の確保がネックになる。特に新規就農者にとっては大変です。そこは大きな会社を通して売っていくと、農家個人は生産に特化できます」

――組織を離れるわけではなく、組織の中で農業をしていく仕組みは、これから就農したい方の間口を広げますね。このような取り組みが一部で始まっているのは、スマート化によって農業における働き方が変化している表れだと受け止めますか。

「今の農業政策を見ていると、新規就農者をどんどん増やそうとしています。しかし、ほかの産業と比べて農業だけ、新規就農した人たちがいったん組織に入っても、その後独立して個人による事業運営をする、難しい状況に追い込まれてしまっています。今後は、農業生産法人など組織を作って、会社が大きくなっていく。そして、中間管理職のような働き手の育成が、既存の農業形態を育てる意味でも大切であり、農業の世界に新しく入った人たちが安定して継続的に働くことにつながるのではないかと」

――海外では既に、農業法人は一般的ですか。それとも日本と同じように、個人の方が多いですか。

「東南アジアは日本と一緒ですね。アジア圏の農業は、基本的に小規模農家が多い気がします。それに対し、アメリカは家族経営の発展した大規模農業が一般的ですし、オランダでは、農業法人数社が農業組合を作っています。その結果、先ほどお話したスマート農業の発展につながっていると考えられます。日本も同様に組織化・大規模化は進むと思いますし、ますますデータを活用し、効率化されたスマート農業のニーズが高まってくるのではないでしょうか」

編集後記

窪田さんのお話を聞いて、日本の農業の在り方に変化の兆しを実感しました。独自の進化を遂げている日本型スマート農業には、まださまざまな課題が残っています。技術の進歩とそれを受け入れる農業基盤の確立により、課題の改善と新たな担い手の増強がかない、日本の農業が元気になることを期待します。

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