クボタが描く未来のトラクタ Kubota Concept Tractor

2021 . 05 . 26 / Wed

TECHNOLOGY

農機の完全無人化を目指すクボタの新たな一歩NVIDIAとの戦略的パートナーシップがもたらす
最新AI技術導入への期待とは

写真・文:クボタプレス編集部

2020年10月、クボタはアメリカの半導体メーカー・エヌビディア コーポレーション(以下、NVIDIA)と戦略的パートナーシップを提携しました。スマート農業の実現に向けた取り組みのひとつである農機の自動化・無人化による超省力化において、トラクタ・コンバイン・田植機の全3機種での製品化を達成したStep2「有人監視下での自動化・無人化」の次の段階であるStep3「完全無人化」に向けての施策になります。世界中に反響を生んだNVIDIAとの連携はどんな効果をもたらすのか、そしてクボタが描く「農機の自動化・無人化」を実現した世界はどのようなものなのか。その取り組みを紐解いていきます。

クボタが考える農機の自動化・無人化のステップ

クボタが考える農機の自動化・無人化のステップ

クボタは3つのステップに分けて「農機の自動化・無人化」に」取り組んでいます。今回の提携はStep3「完全無人化」達成に向けた取組みのひとつです。

世界が認める自動運転に最適なNVIDIAの最新AI技術

今回クボタが戦略的パートナーシップを結んだNVIDIAは、アメリカ・カリフォルニア州に拠点を置く半導体メーカーで、業界をリードする高い計算処理能力を持つGPU*1を有するグローバル企業として知られています。主にサーバーでAIの処理を行う「クラウドAI」を提供しているGoogleやMicrosoft、IBM、Amazonといった企業に対して、NVIDIAは「エンドツーエンドAIプラットフォーム」を手掛けており、その特性がクボタの考える「農機の自動化・無人化」に最適との判断から今回の締結に至りました。

*1 Graphics Processing Unitの略。NVIDIAが提供する、高度な画像処理を行うためのプロセッサ。1999年、NVIDIAが開発。高度な並列演算性能を備えており、AIや科学技術計算に活用され、近年では、世界を認識して理解できるコンピューター、ロボット、自律走行車などの頭脳として機能している。


エンドツーエンドAIプラットフォームとは、問題解決のための解析と推論まで一気通貫で行うAIを活用した機械学習モデルが組み込まれたプラットフォームのことです。学んだ情報から最適な対処法まで考え出すという、まるで人間の頭脳のような働きができる人工知能が搭載されています。そしてクボタが導入するNVIDIAのエンドツーエンドAIプラットフォームは、AIの学習を行う超高速なコンピューターと、農機に搭載した高性能なGPUでAI推論を可能にする「エッジAI」システムの両方を提供しており、AIの学習から実際に農機に搭載して推論を行うまで、スピーディな研究開発を可能にしてくれるプラットフォームです。

基盤となるのは、自動運転に最適とされるエッジデバイス向け仕様のAIプラットフォーム「NVIDIA Jetson(ジェットソン)」で、内蔵される高性能GPUによってさまざまなAIアルゴリズムを高速に処理することができます。クボタの農機には産業用Jetsonが搭載されることとなっており、天候や気温の変化、激しい振動や衝撃など農業の厳しい環境下でも使用できる耐久性と安定したパフォーマンスが強みです。

この産業用NVIDIA Jetsonに、自動運転の実現に欠かせない技術「エッジAI」のソフトウェアが搭載されています。エッジAIは自動運転における動作において、人間や動物などの進入による停止と回避といった緊急性の高い対応が求められる情報の選定と判断を行う機能を持っており、状況判断から行動までのタイムラグを最小限に抑えてくれます。

NVIDIA Jetsonのしくみ

GPUで確認した状況への情報処理から対応まで、通常クラウド経由で行うNVIDIA Jetson。農機や対象物に危険をもたらす緊急性の高い状態への対処はあらかじめエッジAIに組み込まれています。エッジAIは数十ミリsec~100ミリsecという時間で判断しクラウドを経由するよりも短い時間で対応することができます。

NVIDIA JetsonのAIの学習には、GPU向けに設計されたディープラーニング*2ソフトウェアをサポートする「NVIDIA DGX システム」が導入されます。NVIDIA Jetsonを搭載した農機が取得したデータをNVIDIA DGXというコンピューターに取り込み、そのデータを学習データとしてAIを開発し、完成したAIをNVIDIA Jetsonに実装してエッジで推論をおこないます。NVIDIA DGXとNVIDIA Jetsonは同じGPUアーキテクチャを採用しており、NVIDIA DGXで開発したAIがそのままNVIDIA Jetsonで動作するため、効率的に研究開発を進めることが可能になるのです。

*2 深層学習。多層の人工ニューラルネットワークによる機械学習手法。


NVIDIA DGX システムの学習サイクル

NVIDIA DGX システムの学習サイクル

NVIDIA Jetsonで取得したデータをオフラインでNVIDIA DGXへ移します。DGXでAIの学習を行い、その結果を再度NVIDIA Jetsonに送って実装し、AIの性能を評価するというサイクルを繰り返します。

クボタが考える農機の自動化・無人化に最適と考えられたNVIDIAのエンドツーエンドAIプラットフォーム。そのためのNVIDIAとの戦略的パートナーシップ締結を担当したのが、研究開発本部 次世代技術研究ユニット 次世代研究第二部長の石見憲一さんです。今回、クボタとして乗り越えていかねばならない課題と期待することについてお話を伺いました。

クボタが目指す「農機の完全無人化」実現へのビジョンに迫る

──クボタが考える農機の自動化・無人化のStep2「有人監視下での自動化・無人化」でトラクタ・コンバイン・田植機の製品が出揃いました。このStep2からStep3「農機の完全無人化」に進むうえでの課題や現在の取り組みについて教えてください。

クボタが目指す「農機の完全無人化」実現へのビジョンを語る、研究開発本部 次世代技術研究ユニット 次世代研究第二部長・石見憲一さん

石見憲一(いわみ けんいち)さん。1994年に入社し画像認識技術などの研究開発を担当。30代前半から田植機などの電子制御の開発に取り組まれました。2021年4月より研究開発本部 次世代技術研究ユニット 次世代研究第二部長として「農機の自動化・無人化」の実現に向けて研究開発を推進されています。

「Step2で達成できたのは、農機が決められたルートに沿って、決められた農作業を遂行することでした。それに対してStep3で目指すのは、農機自身が考えて最適な作業を行うことです。遠隔地にいる人間からの指令を受けたAIを搭載した農機が、熟練の技術と経験を持った就農者と同じように考え、ほ場*3や作物の生育状況を見て作業内容を判断します。そのために必要なのが、人間と同じように考える頭脳と眼を持ったAIなのです」

*3 農作物を栽培するための場所のこと。


クボタが考える「農機の自動化・無人化」Step3に向けての課題

「農機の自動化・無人化」Step2からStep3に向けての課題

農機が自ら考えて作業を行うStep3「完全無人化」に向けて乗り越えねばならない課題は、Step2「有人監視下での自動運転」で達成できたことをさらに上回る難しさだと石見さんは語ります。

──その頭脳と眼を持ったAIを開発するうえでのポイントをお聞かせください。

「ポイントは3点あります。①自動運転のためのAI処理は高速性と信頼性の両立が求められるため、農機に搭載したコントローラーで処理する「エッジAI」を搭載すること、②常に進化する最新のAIアルゴリズムに柔軟に対応できること、③農業における厳しい環境下においても安定した動作を可能とすることです。この3つに対応できるAIプラットフォームが必要だと考え始めたのが2015年頃で、それから国内外の半導体メーカーが提供するAIプラットフォームについてリサーチし、検証を重ねた結果、3つのポイントを高いレベルで実現していたのが、高性能なGPUを搭載し、かつ高い信頼性も併せ持ったNVIDIA JetsonというAIプラットフォームだったのです」

──頭脳と同じく重視された眼の役割ですが、Step2とStep3ではどのように異なるのでしょうか。

「農機の完全無人化における眼の役割は2つあり、①周囲の認識と②ほ場の認識です。周囲の認識については、現在だとレーザーセンサーやソナーセンサーを使って障害物の有無を検知しますが、その障害物が人間なのか動物なのか、それとも雑草や石なのかまでは分かりません。Step3における周囲の認識というのは、それが人間や動物、植物などまで判断して最適な動作を行うようにします。そして土壌の状態や作物の生育状態などに合わせて細やかに機械の動作を調整し、農作業の最適化を図るための役割を担うのがほ場の認識です。例えば、台風が過ぎ去った後の稲がどちらに倒れているか、熟練した農家は向きを考えてコンバインで刈り取ります。そういったことも可能になります」

クボタが目指す未来の農業の姿について語る石見憲一さん

乗り越えなければならない課題は多いが、クボタが目指す「農機の自動化・無人化」に向けて着実に歩みを進められていると語る石見さん。

──Step3の実現に向けたこれからの取り組み、そしてクボタが目指す未来の農業の姿についてお聞かせください。

「現在、農機にJetsonを搭載してさまざまなデータを収集・蓄積しており、このデータを用いてNVIDIA DGX システムでのAI学習を行っているところです。Step3に向けての課題はひとつひとつが困難なものばかりなので、まずはStep2を達成したトラクタ・コンバイン・田植機それぞれに一段階上の作業内容を増やしていくところから始め、バージョン2、バージョン3と製品化していきます。その中で課題をひとつずつ乗り越え、Step3への実現へと結び付けていきたいと思っています。熟練した農家さんが減少している中で、指令を受けた農機が自ら最適な作業内容を考え、状況の変化にも柔軟に対応しながら農作業を完遂してくれれば、未熟練者でも効率的な農業が行えます。そんな農業の未来を私たちの手で実現していきたいですね」

編集後記

自動運転と聞くと、その情報量の多さから自動車業界が最先端を走っている印象があります。しかし今回石見さんのお話を伺って、農機が自動で農作業を行い、省力化、効率化の手助けになっていることを改めて認識し、農機業界が自動運転の最先端を走っているのだと実感しました。人間からの指令を受けて自ら考え、ミッションを遂行していく農機が誕生するまでに乗り越えなければならない課題は少なくないですが、Step3に向け、どのような付加価値のある農機を開発されるのか、今から楽しみです。

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