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未来の農業について語ろう。スマート農業に取り組む北大農学研究院生×先輩クボタ社員対談

2019 . 06 . 19 / Wed

スマート農業に取り組む北大農学研究院生×先輩クボタ社員対談

文・写真:クボタプレス編集部

日本の農業はいま、農業人口の減少、高齢化が進み深刻な状況にあると言われています。そうしたなか担い手農家は、生産コストと労働負荷の低減、収量・品質の向上、大規模化といった様々な課題に直面しています。その解決策として期待されている“スマート農業”をけん引するのは、北海道大学の農学部、大学院農学院。ここで学ぶ学生たちは、日々どんな研究を重ね、どのように農業の未来を描いているのでしょうか。今回は北海道大学の大学院農学院出身のクボタ社員北原麻央さんとクボタプレス編集部がキャンパスにお邪魔して、さまざまなお話を伺いました。

【参加者】

山崎 歓友さん 修士1年

川端 早紀さん 修士1年

Cao, Tianzhiさん 博士1年

北原 麻央さん クボタ機械業務部
2012年大学院農学院卒

農学×工学で農業の未来を照らしたい

クボタプレス編集部(以下、編集部):
皆さんはなぜ北海道大学に入られたのですか?

北原 麻央さん(以下、北原さん):
私は父が北海道大学農学部の出身で、幼い頃から“いいよ”と勧められていたんです。高校2年生のときには体験入学に参加し、実際に作業をさせていただいたり、研究を見せていただいたりして、先進性に興味を持ったため、北大を選びました。

山崎 歓友さん(以下、山崎さん):
僕の場合は“農学部に行きたい”というのが先にあって、それから大学を選びました。いろいろな大学を見たなかでも、北海道大学は抜群に広くて、畑も多い。それなら北海道大学がいいだろいうという軽いノリでした。北大だったらおもしろいことができそうだなと。

北大の広大なキャンパス内にある第一農場。同じくキャンパス内にある第二農場とあわせて58ヘクタールの実験農場があります。

Cao, Tianzhiさん(以下、Caoさん):
まず日本を選んだ理由は、新しい技術を開発しているイメージがあったからです。とくに北大なら、工学と農学が一緒になった専門の研究ができることを知り、元々は工学が専門だった私にぴったりだと思ったんです。

編集部:
元々エンジニアリングを専門にされていて、なぜ農学と工学をミックスさせようと思ったのですか?

Caoさん:
農業ではトラクタなどさまざまな機械を使いますよね。だから工学と農学って、本来とても相性がいい。新しい技術の開発で、農業の人手不足を解消できると考えました。

編集部:
Caoさんは中国から北大に留学されたそうですが、中国の状況は日本と似ていますか?

Caoさん
非常に似ていて、若者たちは都会での仕事を選び、農業から離れていっているようです。それに高齢者が多くて人口が減少しているというのも似ています。ただ違う点もあって、中国は日本に比べると、新しい技術を積極的に取り入れようという動きが少ないように感じています。

最新技術の応用で農業は大きく変わる

編集部:
学生の皆さんに研究テーマについて伺いたいのですが、その前に北原さんは北大時代、どのような研究をされていたのですか?

北原 麻央さん(以下、北原さん):
私は最初、輪作体系の中にバイオ燃料用の菜種を組み込んで、とれた油を農業機械に使うことで循環型農業ができないかと考えていたんです。ただ調べてみると農家さんの多くが、経験やカンに頼って栽培作物の作付面積比率を決めていて、その状況にびっくりしました。そこで、ただ菜種を組み込むだけでなく、収益性や労働時間も考慮した面積比率が出せればより実用性が増すと考えて、農家さんのニーズに合わせた面積比率を提案できるソフトウェアの開発に取り組んでいました。

山崎さん:
僕は農業ロボットが走行するためのマップ化を、ドローンを使って簡単にできないかといったことがテーマです。ドローンを使って写真を撮り、圃場をすべてモザイク化して一枚の画像にすると位置情報のついたマップができるので、それを農業用ロボット走行に使えるかどうかを検証しています。

北原さん:
その発想に至った理由が知りたいです。

山崎さん:
今だとトラクタで外周をまわって測位して、外形を知る方法をとっていますが、その方法だと日本はまだしも、オーストラリアやアメリカのような広い農地では難しいですよね。その点ドローンであれば、広さや地面の状態を気にせず手軽に計測が可能で、この技術を応用してより効率的なマップ化を目指しています。

川端さん:
私は自動走行する田植機の低コスト化がテーマです。これまで研究で使ってきた自動運転田植機は、GNSS(全球測位衛星システム)受信機やセンサーの一つひとつがまだまだ高額で、導入コストがかかってしまいます。自動走行田植機を、もっと普及させ、手に取ってもらいやすくするために、もう少し安価なセンサーに置き換えることができないかを精度の観点から検証しています。

編集部:
実際に田植機に取り付けて検証したんですか?実用化できそうですか?

川端さん:
実際に走らせました。ただ実用化となると、高価なものと比べると精度が劣りますし、精度以外にも取り付けの手間などもあります。まだまだ課題は山積みです。

北原さん:
どうしてそのテーマにしようと思ったんですか?

川端さん:
シンプルに、自動走行って感動するじゃないですか。それこそクボタの農業機械の自動走行なんて、何度も見ては感動しています(笑)。卒論では精度を調べるところまでだったので、今後は自動走行のプログラムを自分で書きたいと思っています。

Caoさん:
十勝の農家さんから聞く悩みの中で多かったのが、どうして同じ条件で植えたのに、大きいじゃがいもと小さいじゃがいもが出来るのか。その関連を調べてみたくて、今はディープラーニングについて研究しています。農家さんから集めたじゃがいもや長芋の形や色のデータから、次の年の肥料の量や収穫量を導き出したいです。

編集部:
ディープラーニングは近頃よく聞く言葉ですが、農業分野でも有効な技術なのですね。

Caoさん:
最初は中国の大学院修士課程のときに、機械工学デザインの分野でディープラーニングについて勉強しました。この技術をもっと有効に活用できるアプリケーションを探していたときに、農業にたどり着きました。まだまだ農業では使われていない技術なので、可能性は無限大です。

農家との距離が近い!学生が感じる北大の魅力

編集部:
皆さんに北大で良かったなと感じている部分を聞いてみたいです。

山崎さん:
いま国をあげてスマート農業を推進しようとしていますが、その先駆者的立場の野口教授のもとで学べたのが大きかったなと思っています。注目を集めている分野ということもあり、農業機械や設備が充実しています。他の研究室との共同研究も盛んで、“最先端の農業に携われている”という実感があります。

川端さん:
農家さんとの距離が近いというのも魅力の一つだと思います。代々、北大生がお世話になっている農家さんがいて、フィールドワークの場に困りません。あとは山崎さんと同じですが、最先端の技術に触れられる環境にいて、いい刺激をたくさん受けられるところも魅力です。

Caoさん:
私も山崎さんの意見と似ていますが、いい先生がいるのが一番の魅力。また研究を通じてさまざまな企業や研究室といい関係を作れているので、自然と学びの分野が広がるところもいいですね。

北原さん:
私も皆さんの意見と似ています。私のときは十勝が研究の題材で、先生のネットワークで十勝の農家さんにインタビューさせていただいたり、JAやホクレンから農薬の情報をいただいたりしましたが、それが可能だったのは、北大が日頃から深くお付き合いをしていたからこそだと思っています。あと馬鈴薯の研究をしている人から分けてもらって、“トウヤ”と“キタアカリ”の食べ比べをしたことも。これも個人的に良かったと思う点ですね(笑)

山崎さん:
僕も研究の一環で飼料米を食べたことがありますが、日頃食べているお米と比べると多少、味に違いはあったものの、普通においしかったです(笑)

川端さん:
確かに食材には困らないってところはありますね。私たちも2年生のときに自由に使える畑を与えられて、トマトやピーマン、小麦を作りました。ただ小麦を製粉する機械が無かったので石臼でひいていたら、日が暮れてしまったのはいい思い出です(笑)

学びを深めるために多くの学生が大学院に

編集部:
大学院に進まれた理由があればお聞かせください。

山崎さん:
4年間では正直なところ、“学びきれていないな”という気がしたんです。そこでもう少ししっかりと勉強がしたいと思い、大学院に進むことにしました。

川端さん:
私ももう少し勉強がしたいし、進学でいいかなと。大学院の研究室は、いま一番必要とされている技術を間近で見られる素晴らしい環境ですし、そこでどっぷりと学んでみたかったというのが理由です。

Caoさん:
いろいろな北大の論文を読むなかで北大のことは知っていました。新しい技術、とくに車両技術について学びたいと考えていたんです。じつはアメリカの大学へ留学することも検討していましたが、中国でも北海道の米や牛乳は有名で、最終的には豊富な農作物が生まれる土地がある北大に決めました。また寄宿舎の一つである“恵迪寮(けいてきりょう)”をテレビで見て知っていたことも興味をもった理由のひとつです。

生活の基盤に関わりたくてクボタへ

編集部:
もちろん皆さん、将来的に働くことを考えていると思いますが、そもそも北原さんはなぜクボタに入社したんですか?

北原さん:
漠然と“人の生活の基盤に関わる仕事がしたい”と考えていて、就活初期はインフラや食品系の会社を調べていました。ある日、たまたまクボタで働いている北大卒業生の方と話す機会があって、クボタが農業だけではなく、海外で水環境を整えるなど、真の意味で人の生活を支える仕事をしていると知り、おもしろそうだと思ってクボタにエントリーしたんです。

編集部:
入社してすぐに配属された部署はどこだったのですか?

北原さん:
コンバイン技術部です。“KSAS”という農業経営の見える化をサポートするシステムがあり、それに対応するコンバインを開発するため、刈取りしながら圃場内の収量の分布や食味(タンパク値・水分値)の分布がマップ化できるセンサーと機械の研究が主な業務でした。去年から異動した部署では、農業機械を中心とした機械事業に関して、会社と行政や業界団体との橋渡しをする仕事をしています。農業機械関係の情報収集をする一方で、弊社の取り組みを社外に発信したり、社外で得た情報を踏まえて、社内でどのように事業を進めていくのかを関係部署と連携して考えたりといった業務です。
農業のICT化やロボット化が進むにつれて、技術的な質問が増えているので、技術部で培った知識や経験、人脈を業務に活かしていきたいと思っています。現場は変わりましたが開発をするだけではなく、よりスマート農業を普及させていく活動も、技術者として必要だと日々感じています。これも日本の農業をよりよくする一助になっているのではないかと、やりがいを感じています。

山崎さん:
就職活動の際、会社でこういうことがしたいという要望は、叶うものなのでしょうか?またそういう希望は面接の時に伝えていいのでしょうか?

北原さん:
答えになっているかわかりませんが、経験から踏まえると、自分がその会社に入ったらどういうことがやりたい!とか挑戦したい!というのは、しっかり伝えたほうがいいと思います。今まで自分がやってきたことや、これから実現したい夢を伝えることで、どの会社であっても思いが伝わると思います。もちろんクボタを受ける場合も、ぜひ!(笑)

編集部:
北原さんご自身は、希望する部署はありましたか?

北原さん:
農業機械の開発に携わりたいと思っていましたが、“人の生活の基盤に関わる仕事がしたい”という目標が根本にあり、もし希望が叶わなくてもクボタならどんな仕事であってもその目標に繋がると考えていました。

川端さん:
私からも質問があります!大学での研究が、就職後のコンバイン開発で役立ったことはありますか?

北原さん:
技術面のことだと、プログラミングの経験は役立ちました。
配属されたチームは、機械や搭載するセンサーのプログラミングチームで、大学時代の研究のお陰で、プログラムに対して苦手意識を持たずに取り組めたので、比較的早めに戦力になれたかな、という実感があります。また、クボタは「現場主義」を掲げていて、積極的に外に出て自分の目で現場を確認することができる職場なんです。ここでも学生時代のフィールドワークが活きたように思いますね。国内外の農家さんの現場に長期の出張に行っても乗り越えられたのは、学生時代の研究で身体が鍛えられたからかもしれません。

大学院での研究で夢や目標が見つかる

編集部:
今後の大学院生活の中で、どのような研究をしていきたいと考えていますか?

山崎さん:
これまでのドローンを使った研究を継続する方向です。また研究室としては乗り物を動かす技術の提供と、画像処理を主に研究しているので、僕としてはその2つに取り組むために、数学も深めたいと思っています。いまさらかもしれませんが、土台となることですし、やれるところまでやりたいですね。

川端さん:
私はソフトにあまり触れられていないため、プログラミングの勉強をして、自分で自動操舵のソフトウェアを開発してみたいです。あと去年一年は、教授に提示されたテーマに取り組むことが多かったので、今後は自分で課題を見つけて、解決していきたいと思います。

Caoさん:
ディープラーニングについてさらに勉強したいです。未来の農業にかならず役立つ技術だと思っています。あとはそうですね、日本語がうまくなりたい。日本の音楽が好きで、カラオケで歌いたいんです(笑)

北原さん:
研究を進めていくなかで、“将来、自分はこうなりたい!”という理想や夢が見えるときが来ると思います。みんなは最先端の研究室で製品化に近い研究をしていると思うので、大きな夢を持って研究を進めて、日本や世界に貢献できる技術者になって欲しいですね。

編集部:
では最後に、皆さんの将来の夢を聞かせてください。

山崎さん:
農業に関わっていきたいというのが一つの目標。農学と、機械と、通信系の知識を持っている人しかできない仕事で、ICTと農業をつなげていきたいです。

北原さん:
ぜひクボタを候補の一つに考えて欲しいです(笑)。クボタはいまICTと農業をつないで、スマート農業を推進し、農家さんの次の課題を解決しようとしているところ。AIやディープラーニングに強い技術者はかならず必要とされます。

川端さん:
私はまだあまり具体的ではないですが、社会に貢献できる人間になりたい。農業の場合なら人手不足とか、高齢化とか、こうした課題を解決していけたらと思っています。

Caoさん:
私もはっきりとは決まっておらず、いまは目の前の論文を書き終えることが一番の目標です。将来は企業に入るか、大学で研究を続けるか、働く国やエリアすら決めていません。自分の学んできたことがもっとも役立つ場所で働こうと思っています。

■ファクトリーオートメーションからビークルロボティクスの世界へ

今回お話をうかがったCaoさん以外にも、北大大学院農学研究院では海外から来た多くの留学生が日本の最新農業を学んでいます。現在、ビークルロボティクス研究室に在籍されているオスピナ・リカルドさんもその一人。今回は、Caoさんの通訳として、取材にご協力くださいました。母国コロンビアでは長年ファクトリーオートメーションのエンジニアとして活躍後、日本人のパートナーとのご結婚を機に来日。母国で学んでいたエンジニアリングを再び研究したいと北大の博士課程に入学されました。北大では、農業を扱う学部の中で、ビークルロボティクスの研究室があることに驚き、興味をもったそうです。博士課程を修了した現在では、博士研究員として画像処理をもとに車体の動き方のモデリングを研究されています。日本だけでなく世界の優秀な研究者が北海道の地につどい農学の最先端の研究に取り組んでいます。

編集後記

ICTが日本の農業を大きく変えようとしているいま、北大大学院農学院の学生たちは、誰よりもその技術の必要性を、ご自身の研究と実際のフィールドワークを通じて確信しているように見えました。北原さんの言葉にあったように、従来の工学や農学に加えて、AIやディープラーニング、ITなどの新しい技術・知識を組み合わせて新しいものを提案できる技術者は今後、さらに求められるはず。今回、取材をさせていただいた皆さんが、社会に出て大きく活躍され、その成果を伺いにまた取材で再会できることを、編集部として楽しみにしています。

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