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-GROUNDBREAKERS AWARD ファイナリスト5名特集シリーズ 第3回-農業の未来をひらく、5つの挑戦 ~株式会社アグロエコロジー~

2026 . 11 . 06 / Fri

写真・文:クボタプレス編集部

日本の農業は、担い手不足や気候変動、生産コストの上昇など、さまざまな課題に直面しています。こうした状況の中で、「起業家精神」をもった挑戦が各地で生まれています。

「GROUNDBREAKERS」は、農業経営者や関係者とともに、日本農業の未来について考えるオンラインイベントとして、クボタが継続的に開催してきました。その中で見えてきたのが、起業家精神を発揮し新たな価値を生み出そうとする農業経営者の挑戦でした。

そうした挑戦に光をあて、ビジネスの視点からその価値を広く社会へ届けることを目的として、NewsPicksと共同で立ち上げられたのが「GROUNDBREAKERS AWARD」です。

「農業に、起業家精神を。」をテーマに、独自の視点と行動力で農業の未来を切り拓こうとする農業経営者を表彰する本アワード。初開催となる今回は、全国から寄せられた応募の中から5名のファイナリストが選出されました。

本特集(全5回)では、異なるフィールドで挑戦を続ける5名のファイナリストにフォーカスをあて、事業への想い、挑戦の原動力、そして描く未来を通して、日本農業の新たな可能性を探ります。

株式会社アグロエコロジー・村形虹太朗さんの挑戦

シリーズ第3回は、栃木県と福島県で畜産と営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)を組み合わせた事業を展開する株式会社アグロエコロジーで、牛部門を担当する取締役・村形虹太朗(むらかた こうたろう)さんを紹介します。

「牛が、どうしたら牛らしく生きられるか」

この問いを出発点に、村形さんは北海道やアメリカで酪農・放牧の現場を経験し、2024年に株式会社アグロエコロジーへ入社しました。入社後に直面したのは、赤字が続く肉用牛部門の現実でした。

村形さんは牛の育て方を見直しながら、肉用牛部門の経営そのものを組み替えていきました。地域資源を活用した飼料設計や放牧環境づくり、地域との連携、AIの導入。その一つひとつが、牛にとってより良い環境と畜産経営を両立させるための実践です。

牛舎の中でえさを食べる牛を撫でる村形さん

株式会社アグロエコロジー取締役 村形虹太朗さん

「牛は、どうしたら笑うのか」から始まった

農業に関心を持っていた村形さんは、専門学校時代、牛を見つめながら「牛は、どうしたら笑うのかな」と考えるようになりました。はじめは牛の頬に触れ、口角を上げようとしたこともありましたが、当然、牛には嫌がられます。やがて、その関心は「牛が、どうしたら牛らしく生きられるか」という問いへと変わっていきました。

専門学校を卒業後、北海道で酪農の現場を経験しました。搾乳や牛の管理に加え、加工・販売を含めた6次産業の現場や、複数の牧場を支援するヘルパー業務にも携わりました。「いろんな経営体系を見たかったんです」と語る村形さんは、牧場ごとに異なる牛舎、飼料設計、経営手法に触れる中で、牛の育て方の多様さを体感しました。

さらに、放牧技術を学ぶため渡ったアメリカでは、日本ではあまり見られない大規模放牧の現場を経験しました。牧場間の移動に飛行機を使うほど広大な放牧地で育つ牛たち。アメリカでの現場経験は、村形さんが思い描いていた「牛らしい生き方」を現実のものとして捉えるきっかけになりました。

牛舎の近くの山を開墾して整備した同社の放牧地

牛舎の近くの山を開墾して整備した同社の放牧地。アメリカで学んだ放牧の考え方を参考に、牛がのびのびと過ごせる環境づくりに取り組んでいます。

赤字の現実が、牛の育て方を変えていった

アメリカでの経験を経て入社したアグロエコロジーで、村形さんは肉用牛経営の厳しい現実に直面しました。

「牛部門の損益計算書(P/L)を確認すると、経営を圧迫していたのは飼料コストでした。特に、輸入資源に依存した配合飼料の割合は大きく、このままでは事業としての継続が難しい状況でした。『これは潰れるな』と」

北海道やアメリカでの経験を通じて、村形さんは放牧技術だけでなく、飼料設計についても学んできました。飼料設計とは、牛の成長段階や体調に応じて、必要な栄養やコストを考慮しながら、飼料の配合や給与量を組み立てることです。

村形さんは、当時の飼料コストの高さを経営構造そのものの課題と捉え、地域資源を活用した飼料設計に着手します。同社の周辺には未利用の地域資源が数多く存在していたことから、「それらを活用して牛を育てられないだろうか」と考えたといいます。

そこで目を向けたのが、おから、米ぬか、余剰となった牛乳(廃棄乳)などでした。これらを原料に、自家配合飼料づくりを進めていきます。特におからは地域で安定的に調達できることから、導入後は大幅なコスト削減につながりました。

近隣の豆腐店から調達したおから

近隣の豆腐店から調達した「おから」。地域で安定的に調達できる資源として、自家配合飼料に活用しています。

牛の状態に合わせて、飼料を組み立てる

地域資源を活用した飼料づくりを進めるなかで、村形さんは子牛の育成にも目を向けました。子牛の状態に合わせて、飼料の原料や保存方法を工夫していきます。その一つが、子牛に与える自家製スターター(離乳食)です。おからを乳酸発酵させて長期保存するなど、地域資源を継続的に活用するための工夫を重ねました。

「粉ミルクが高価であるという課題もありましたが、それ以上に、市販品をそのまま使うのではなく、子牛に与えるものを自分たちで設計したいと考えていました。地域資源を活用しながら、牛の状態に合わせて飼料を組み立てていきたかったのです」

廃棄乳については、農場の電力不足で冷蔵設備が使えなかったことから、衛生面や栄養価に配慮しながら常温で管理する方法を取り入れました。

「地域の未利用資源を活用しながら、市販のものに負けない飼料を組み立てていくので大変でした。開発段階では、3時間ごとに牛の状態を確認する生活が続きました」と村形さんは振り返ります。

当時は車中泊をしながらアラームをかけ、畜舎へ戻っては、牛の排泄物の状態や腹の張り具合、摂食状況などを確認していたといいます。そうした観察を重ねながら、自家配合飼料の設計を磨いていきました。試行錯誤を経て得られたデータは、その後の飼養管理にも生かされています。

その一例が、現在同社で飼育している約120頭の牛の飼料管理です。開発段階で培った考え方を生かし、月齢や体格、体調などを見ながら、それぞれの状態に応じて飼料の配合や量を調整しています。

村形さんによれば、研究開発以上に難しかったのは、その後の「維持管理」を日々続けることでした。栃木県と福島県にまたがる拠点を一人で同時に管理することはできず、現場のスタッフや会社全体の協力が欠かせません。

こうした取り組みの根底にあるのが、村形さんの「牛ファースト」という考え方です。

「まず、牛が幸せになることです」

牛ごとの配合設計や管理内容が細かく書き込まれたホワイトボード

事務所の白板には、牛ごとの配合設計や管理内容が細かく書き込まれています。約120頭の牛を、それぞれの状態に合わせて管理していることがわかります。

牛を育てる環境を再設計する

「牛ファースト」の考え方は、牛が過ごす環境づくりにも生かされていました。黒毛和牛は体色の特性上、熱を集めやすく、休息できる日陰が重要になります。村形さんがアメリカで見た放牧現場でも、牛たちは木陰で休んでいたそうです。

こうした経験も踏まえ、同社では、牛舎近くに整備した放牧地に加え、耕作放棄地を活用した営農型太陽光発電の場でも牛を放牧しています。太陽光パネルの下で牛を放牧し、発電と放牧を両立させる仕組みです。

太陽光パネルの下に生まれる日陰は、牛にとって暑熱対策の一つとなります。また、牛を放牧することで、耕作放棄地に生える草を牛自身が食べるため、除草作業の負担軽減にもつながります。そこにあるのは、一つの土地に複数の役割を持たせるという発想でした。

耕作放棄地を活用した営農型太陽光発電の放牧地
 太陽光パネルの下に生まれる日陰で涼む牛の親子

耕作放棄地を活用した営農型太陽光発電の放牧地。太陽光パネルの下に生まれる日陰は、牛の暑熱対策にも役立っています。

自分たちでやること、地域に委ねること

牛を育てる仕組みを見直す中で、村形さんは「自分たちで何を担うのか」という事業のあり方にも目を向けていきました。

「飼料用作物の一つであるWCS(稲発酵粗飼料)は、かつて自社でも生産していました。しかし、実際に収支を検証すると、大きな赤字事業になっていたのです」

そこで村形さんは、自社でのWCS生産を見直し、地域農家から購入する方向へと切り替えました。地域農家にとっては余剰分の新たな販路となり、同社にとっては、必要な飼料を地域内で確保できる仕組みにつながっています。

アグロエコロジーが取り組む農業モデル図

※拡大画像を見る
同社が取り組む農業モデル図。地域資源の活用や畜産、営農型太陽光発電などを組み合わせ、事業を通じた地域課題の解決をめざしています。

一方、自社で育てた牛肉については、消費者へ届けるところまでを自ら担っています。直営レストランを運営し、繁殖から肥育、販売までを一体で捉えた6次産業化を実践しています。

福島県郡山市にある直営レストラン「ハンバーグ&ステーキ 緑の風」の外観

福島県郡山市にある直営レストラン「ハンバーグ&ステーキ 緑の風」。自社で育てた牛肉を使用したハンバーグやステーキを、テーブルの鉄板で焼きながら味わうことができます。

鉄板の上で焼かれるハンバーグとステーキ

必要な技術は、ためらわず取り入れる

村形さんは、牛の繁殖管理にも必要な技術を柔軟に取り入れています。背景にあったのは、受胎率の向上という課題です。

発情のタイミングを把握するには、牛の状態を継続的に確認する必要があり、夜間や離れた拠点での管理も求められます。そこで同社が導入したのが、「首輪型センサ」を活用した発情察知AIでした。牛の歩数増加や行動変化などの兆候を感知することで、発情している可能性を通知します。

「AIを導入してから受胎率が大幅に改善しました。また、夜間に牛の様子を見に行くこともなくなり、従業員の負担軽減にもつながっています」

発情察知AIの年間利用料は約30万円。受胎率の向上による子牛販売頭数の増加や、発情の見逃しなどによる損失の回避を含めると、利用料を差し引いた年間効果は約390万円となり、年間利用料に対して約13倍の効果になるといいます。

牛に向き合い続けることが、経営を変えていった 

「牛が、どうしたら牛らしく生きられるか」

村形さんが抱き続けてきたこの問いは、牛の「食べるもの」や「寝る場所」から、飼料、放牧、地域連携、技術活用など、畜産経営そのものを見直すことへつながっています。地域に眠る資源を生かしながら、牛にとってより良い環境と畜産経営を両立する仕組みを形にしてきました。村形さんの取り組みは、「農業に、起業家精神を。」というテーマを体現する実践の一つといえるでしょう。

GROUNDBREAKERS AWARDを振り返り、村形さんはこう語ります。

「アワードで出会った皆さんも、それぞれの現場の最前線で実践を重ねている方ばかりでした。私たちの事業も、同じ志を持って現場を支えてくれるスタッフや、力を貸してくださる関係者の皆さんのおかげで成り立っています。皆さんの協力には感謝しています。『やるか、やらないか』ではありません。『やるしかない』んです。何もしなければ事業は続きません。だから試行錯誤を重ねながら、自分たちなりの答えを形にしているんだと思います」

本特集シリーズでは、こうした農業の新たな可能性を切り拓く挑戦を、これからも追い続けていきます。

営農型太陽光発電の放牧地で過ごす牛たち

営農型太陽光発電の放牧地で過ごす牛たち。太陽光パネルの下に生まれた日陰でくつろぐ様子からも、村形さんが大切にする「牛ファースト」の考え方が伝わってきます。

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