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-GROUNDBREAKERS AWARD ファイナリスト5名特集シリーズ 第2回-農業の未来をひらく、5つの挑戦 ~有限会社瑞宝~

2026 . 09 . 07 / Mon

デポ前で自社の米を手にする有限会社瑞宝の三上さん

写真・文:クボタプレス編集部

日本の農業は、担い手不足や気候変動、生産コストの上昇など、さまざまな課題に直面しています。こうした状況の中で、「起業家精神」をもった挑戦が各地で生まれています。

「GROUNDBREAKERS」は、農業経営者や関係者とともに、日本農業の未来について考えるオンラインイベントとして、クボタが継続的に開催してきました。その中で見えてきたのが、起業家精神を発揮し新たな価値を生みだそうとする農業経営者の挑戦でした。

そうした挑戦に光をあて、ビジネスの視点からその価値を広く社会へ届けることを目的として、NewsPicksと共同で立ち上げたのが「GROUNDBREAKERS AWARD」です。

「農業に、起業家精神を。」をテーマに、独自の視点と行動力で農業の未来を切り拓こうとする農業経営者を表彰する本アワード。初開催となる今回は、全国から寄せられた応募の中から5名のファイナリストが選出されました。

本特集(全5回)では、異なるフィールドで挑戦を続ける5名のファイナリストにフォーカスをあて、事業への想い、挑戦の原動力、そして描く未来を通して、日本農業の新たな可能性を探ります。

有限会社瑞宝・三上智暉さんの挑戦

圃場の前で話をする三上さん

有限会社瑞宝 専務取締役の三上智暉さん。

シリーズ第2回は、青森県中泊町で有機農業に取り組む、有限会社瑞宝の専務取締役、三上智暉(みかみ ともき)さんです。瑞宝では、水稲や大豆、小麦、ニンニク、ブドウなどを約132haの農地すべてで有機栽培し、全面積で有機JAS認証を取得しています。

有機農業は、化学合成肥料や農薬に頼らず、環境への負荷低減を基本とした農業生産の方法であり、一般的な農産物より高い価格で取引される傾向があります。一方で、栽培から出荷まで多くの手間と時間がかかるため、大規模に取り組むことは簡単ではありません。

三上さんは、祖父の代から受け継がれてきた「有機農業」を、次の世代まで「続けられるかたち」へと進化させる必要があると考えました。

有機JAS認証を示す看板が設置された圃場

瑞宝の圃場と有機JAS認証を示す看板。有機JAS取得には、農林水産省に登録された認証機関による書類審査と実地検査に加え、一定期間にわたる農薬・化学肥料を使用しない管理が求められます。

すべては、5アールの田んぼから始まった

有機農業は、除草作業などに大きな労力を要するため、大規模に実践することが難しいとされています。約132haの農地すべてで有機JAS認証を取得している瑞宝は、国内でも珍しい存在です。

その出発点は、1962年(昭和37年)。祖父・新一さんが手がけた、わずか5アールの「自然農法」でした。当時はまだ有機JAS認証制度はなく、化学合成肥料や農薬に頼らない栽培は「自然農法」と呼ばれていました。

新一さんが自然農法を選んだ背景には、食と健康に対する問題意識がありました。高度経済成長期、農業も近代化が進み、生産性の向上が求められる一方で、「何を選んで食べるのか」への関心も高まり始めていました。そうした時代の中、新一さん自身も体調を崩したことをきっかけに、土の力を活かした栽培技術(自然農法)へと舵を切ります。

しかし、農薬や化学肥料などを使わない自然農法は、当時は周囲から理解されるものではありませんでした。「祖父は変わりものと見られ、周囲から距離を置かれることもあった」と三上さんは語ります。

転機が訪れたのは、1993年(平成5年)に発生した大冷害でした。いわゆる「平成の米騒動」と呼ばれた出来事です。

逆境が証明した、自然農法の価値

この年は100年に一度といわれる大冷害に見舞われ、津軽周辺の圃場では、稲が青いままで籾が実らず、記録的な不作となりました。ところが、自然農法に取り組んでいた瑞宝の圃場では、平年並みの収量を確保できたのです。この出来事をきっかけに、長年理解されなかった新一さんの自然農法は、一転して注目を集めるようになりました。

1993年の米の作況指数の図

当時の米の作況指数。「100」が平年並みを示すなか、この年は全国的に大きく下回り、青森県では「28」となりました。記録的な冷害により、大幅な不作となった年です。(参照:農林水産省「作物統計調査」より)

祖父について、三上さんはこう語ります。「冷害に耐えた強さは、土づくりのおかげです。これまで変わりもの扱いされていた祖父の栽培技術は見直され、ノウハウを教えてほしいと人が集まるようになりました」

その技術を地域に根付かせていくため、新一さんを中心に近隣農家32戸が「中里町自然農法研究会」を設立し、さらなる技術の向上と普及に努めてきました。

さらに、自然農法によって育てられた米を専門に管理するライスセンターを整備するなど、生産から出荷までを地域ぐるみで支える体制が整えられていきました。これにより、有機農産物としての価値を保ったまま管理・出荷できるようになります。

祖父が始めた自然農法は、現在の瑞宝の有機農業へと受け継がれていきました。

建設中の乾燥貯留装置

瑞宝では、乾燥・調製・貯蔵が行えるデポ(貯留装置)を現在建設中。籾のまま高品質で貯蔵し、出荷直前に精米することで、収穫時期に縛られない米の通年出荷を実現しています。

「継ぐ」決断と、その責任

三上さん自身、当初から家業を継ぐつもりだったわけではありません。大学進学後は別の進路も考えていました。しかし、就職活動中に祖父から「やっぱり、お前に来てほしい」と打ち明けられます。さらに、「智暉が継がなかったら自然農法はここで終わらせる」という言葉が、大きな転機となりました。その思いを受け止めた三上さんは、2020年に就農します。

「祖父からは、『継ぐのであれば、自分だけが良くてもダメだ。会社、従業員、取引先、消費者まで含めて考えられるようにならないと物事は続かない』と言われました」

就農後に直面したのは、有機農業の現実でした。市場のニーズが高まってはいるものの、現場では除草作業をはじめ、多くの工程に大きな負担が伴います。瑞宝のように大規模な面積を管理するとなれば、その負担はさらに重くのしかかります。

経験と勘を、再現できる技術へ

こうした有機農業の現実に向き合う中で、三上さんはもう一つの課題も感じていました。有機農業を持続可能なものにするためには、経験や勘に頼るだけでは限界があるということです。

祖父の代では、土の状態などを自らの感覚で読み取っていましたが、三上さんは、そうした属人的な判断をデータとして蓄積し、現場全体で活用できるかたちへと変えていきます。

「データを共有することで、作業のスケジュールや進捗状況を一元的に把握できるようになりました。また、過去の数値や作業記録をもとに、どの時期に何を行うべきかを判断できるようになり、マニュアル整備にもつながっています」

これまで個人の経験に支えられてきた栽培管理は、データの活用によって再現できる形へと変わり始めています。また、作業内容や収量が見える化されたことで、自分たちの成果を実感しやすくなり、従業員のモチベーション向上にもつながっていると、三上さんは話します。

営農・サービス支援システム、KSASの圃場管理画面

営農支援システム「KSAS」を活用し、約500筆の圃場をデータで一元管理。作業スケジュールや進捗状況、過去の作業記録を現場全体で共有することで、必要な情報を関係者全員で把握できるようになっています。

三上さんがめざしているのは、祖父の代から続く農業を、次の世代へとつないでいくための再設計です。有機農業を特別なものとして守るのではなく、誰もが挑戦できる選択肢へと広げていく。その背景には、地域の農業従事者の高齢化や人手不足といった現在進行形の課題があります。

三上さんによると、この地域の農業従事者の平均年齢は約70歳。20代の担い手は数えるほどしかおらず、今のままでは地域農業そのものが立ち行かなくなるという危機感があります。

「有機農業の現場では、以前は人海戦術が成り立っていましたが、人手不足の今では難しくなっています。ただ、時代が変われば、向き合うべき課題も変わっていくものだと思っています」。

こうした考え方は、現場の課題を新たな技術で解決していこうとする取り組みにもつながっています。

立ちはだかる除草の壁

現在、瑞宝が販売する有機農産物は、慣行栽培のものと比較すると、米は約1.4倍、大豆は約1.7倍の価格で取引されています。さらに、有機農業には国による支援制度があり、交付金や堆肥施用への補助なども整備されています。こうした価格と制度の両面から、有機農業は事業として成立しうる条件を備えています。

一方で、有機農業において、大きな壁となるのが除草作業です。雑草への対応は収量を左右する重要な工程ですが、農薬に頼れないため、人の手による管理に大きく依存します。

大豆の圃場で除草を手作業で行う様子

「大豆の場合は、暑い時期に人の手で一本一本雑草を取っていきます。相当に過酷な作業です」と三上さん。

作業のタイミングが少しでも遅れれば、雑草は急速に生育し、収量にも影響を及ぼします。こうした現場の負担を軽減するため、三上さんは、あおもり「農業DX」推進事業に参画。県や研究機関、みちのくクボタと連携しながら、有機農業における除草技術の確立に向けた実証を進めています。

あおもり「農業DX」推進事業の構成図

有機農業における除草技術の確立に向け、それぞれの専門性を生かした実証が進められています。

現場で起きている変化について、三上さんはこう語ります。

「例えば、GPSを活用した自動操舵トラクタの導入により、これまで人の手に頼っていた除草作業の機械化が進み、オペレーターの負担軽減につながっています。さらに、作物を傷つけずに正確な除草ができるようになり、熟練度にも左右されにくくなっています。その結果、収量や収益の向上といった成果も現れ始めています」

トラクタに装着された除草機械

GPSを活用した自動操舵により、作物を傷つけることなく、安定した除草作業を実現しています。

食味・収量センサ付きコンバインによる大豆の収穫

食味・収量センサ付きコンバインによる大豆の収穫。収穫と同時に取得したデータは、次年度の施肥設計などに活用されています。

有機農業が広がる土台をつくる

三上さんは、自社だけで有機農業を続けるのではなく、その仕組みを地域や全国へと広げていくことも見据えています。祖父の代が地域の中に自然農法を広げたように、現在は、その知見を全国の有機農業の現場でも活用できるモデルへと発展させようとしています。

その一例が、有機専用のライスセンターや、HACCP(ハサップ)*対応の加工・流通体制の整備です。生産から出荷までを一貫して支える体制を整えることで、地域ごとに有機農業が成立しやすい土台を築いていこうとしています。これにより、有機農業に新たに取り組む人のハードルも下がっていきます。
*HACCPとは、食品を消費者に届けるまでの工程の危害要因を分析、特にリスクが大きい工程を重点的に管理する衛生管理の手法

「将来的には、若手の就農者に必要な農業機械や圃場の貸し出し、栽培技術や事務手続きのサポートなどを、瑞宝が全面的にバックアップしていきたいと考えています。有機農業は『大変な農業』という印象を持たれがちですが、きちんと収益を上げられることを実感できれば、挑戦する人は増えていくと思っています。普及のためには、有機農業での成功体験を積むことが大事だからです」と三上さんは語ります。

その先にあるのが、瑞宝として掲げる「2035年までに500ha規模への拡大」という目標です。この目標は、国が「みどりの食料システム戦略」で掲げる、2050年までに耕地面積に占める有機農業の取組面積を25%(100万ha)まで拡大するという方針とも方向性を同じくしています。

有機農業を、次の世代へ渡すために

1962年に5アールの水田で始まった挑戦は、世代を超えて受け継がれ、時代ごとの壁に向き合いながら、その形を変えてきました。

今、三上さんたちが向き合っているのは、「どうすれば有機農業を持続可能なものにできるのか」という問いです。「これから有機農業に挑戦したい次世代の人たちのために、私たち世代が努力して、日本の有機農業が海外市場でも展開できる土台を整え、そのバトンを渡したい」と三上さんは語ります。

その答えを探り続けること。それが、瑞宝の挑戦です。農業の未来は、一つひとつの挑戦の積み重ねの中で形づくられていきます。

だからこそ、挑戦の形もまた、ひとつではありません。
本シリーズでは、これからもそうした挑戦を追い続けていきます。

智暉さんと、代表取締役の裕恵さん

智暉さんと、代表取締役の裕恵さん(右)。祖父から受け継いだ有機農業を、次の世代へとつないでいきます。

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