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長期ビジョンを実現する、最先端クリエイティブ・オフィスの全貌“クロス”で創造の種を育む、クボタグローバル技術研究所
2023 . 12 . 27 / Wed
写真・文:クボタプレス編集部
2023年8月4日、クボタのグローバル技術研究所A棟(大阪府堺市、2022年設立)が、日本経済新聞社と一般社団法人ニューオフィス推進協会が主催する第36回日経ニューオフィス賞において、「ニューオフィス推進賞」を受賞しました。
今回のクボタプレスでは、グローバル競争激化の中、働き方の多様化が重要視される現代において、企業経営における“オフィス”に求められる役割とは何かを、ニューオフィス推進協会へのインタビュー、そしてグローバル技術研究所(以下、KGIT)への取材を通じて明らかにします。
昨今の働き方トレンドから紐解く、企業における”オフィス”の役割
この度、KGITが受賞した「ニューオフィス推進賞」とはどういう賞なのか、また、30年以上にわたり企業経営の重要な資源として、“オフィス”のあるべき姿を模索してきた一般社団法人 ニューオフィス推進協会の三栖邦博会長にオフィスの役割の変遷などについてお話しをお伺いしました。
「日本が世界中のモノ作りを圧倒した時代は、『品質』『機能』『コスト』『スピード』こそ武器となっていましたが、現在は大量生産・大量消費によって競争優位が保てる時代ではなくなりました。それにプラスして必要なのは『感性価値』だと考えます」
ニューオフィス推進協会を設立するに至った背景として、従来の「良いモノを安く大量に作る」といった価値観だけでは近い将来、海外企業に押されて日本の産業が行き詰まりを迎えるといった危機感があったと三栖会長は言います。
「例えば、お客様が商品を選ぶ際、安いからその商品を買うのではなく『ここのメーカーの商品だから買う』という感性価値を持ってもらえるようなモノ作りやサービス作りをしていかなくてはいけません。日本の企業が感性価値を創造していくため、どのような“オフィス”が必要になるのかをワークプレイスの観点から、快適性・機能性・働きやすさなどの新しい基準を作りました。それが『ニューオフィス』というものです」
「ニューオフィス推進賞の目的は、日本のオフィスレベルを上げることです。私たちが評価基準において大切にしているのは、その企業の理念や経営目標を実現・達成可能なオフィスになっているかどうかで、日本全体の参考になるようなオフィスに賞を贈っています」
グローバル技術研究所の設立の目的とコンセプト
広々と続く海辺の埋立地、風通しが良く日当たりに恵まれた場所に突如として姿を現した、クボタ グローバル技術研究所(通称:KGIT)。その外観は白亜の巨大船が遠く世界の中心を見据えているように壮観で先鋭的。34.6万m2という広大な敷地内で、製品開発に携わる従業員約3,000人が働くKGIT設立の目的は大きく3つあります。
KGIT設立の目的
- 研究開発拠点の集約による研究開発効率の向上・イノベーション創出の加速
- 世界中の研究開発拠点の連携強化としてハブの役割を担う
- 製品開発力・新技術領域研究力、およびこれらを具現化する研究開発人材の強化
今回、ニューオフィス推進賞を受賞したA棟は、「CROSS INNOVATION FIELD -あらゆる分野が交差するイノベーションが生まれる場」をコンセプトに掲げており、「人と人」「知と技」「内と外」がクロスすることで新たな可能性が生まれ、創造の種を育んでいこうという想いが込められています。
実際にKGITを見学された三栖会長に改めて率直な感想をお伺いしました。
「規模感に圧倒されました。今の時代、モノ作りの意味合いも変わりました。常に新しいモノやコトを発想しているかどうかが社員に求められています。設計や開発に携わる従業員約3,000人がKGITという1つの空間で、コミュニケーションを活性化させ感性を刺激しながら働けるよう非常に工夫されていると感じました」
“クロス“に込められた想い
KGIT設立の際、オフィスのレイアウトを整備するにあたって「現状と将来の働き方」について従業員にアンケート調査をおこなった結果が反映されているとのこと。調査に関わったクボタ 研究開発統括部の甲藤智子さんに詳しいお話をお伺いしました。
「質問事項をおよそ30項目に分けて、現状のオフィスに対する満足値と新しいオフィスへの期待値を調査しました。満足値と期待値のギャップ差が大きいものほど優先的に改善していくことにしました。その結果、ギャップが一番大きかったのが会議室だとわかりました。従来のオフィス環境では来客数に比べて会議室が少なく、お客様と打ち合わせスケジュールを後倒しにするなど、業務が滞るケースが頻発していました」
そうした課題解決のためにできたのがカフェテリアを備えた「クロスラボフィールド」。様々なミーティングエリアを設け、社内外の人々が自由に交流し、アイデアを生み出し、コラボレーションを育む場所。まさにクロスを具現化する舞台となっています。
また、広大な敷地には国内最大級のテストコースも完備されており、これまで製品・部門ごとに分散されていた国内の研究施設をKGITへ集約させることで「思いついたら、すぐ試す」ことが可能となりました。実際、KGITで働く従業員にアンケート調査を実施したところ約9割から出張頻度が減少したという回答が得られ、設計と試験設備が同じ敷地内にあるKGITだからこそ、より開発に集中しやすい環境になったと甲藤さんは教えてくれます。
「私自身、以前はコンバイン技術部に所属しており、KGIT設立前は製品の動作テストのために製造所からテストコースまで往復3時間かけて移動していました」
世界中の研究開発拠点の連携強化におけるハブの役割を担う
事業がグローバル化していく中、KGITが果たす役割として求められているのが、アメリカや欧州、タイなど世界中に設立した研究開発拠点間の連携の推進、製品開発や先端技術開発の強化です。
「KGITでは、世界中の各開発拠点の状況を把握して、グローバルでの開発の全体最適化を図っています。例えば、Aという拠点がすでに持っている技術をBという拠点が持ち合わせていなかった場合、AからBへ技術共有したり、Cという拠点とDという拠点が同じ技術を開発しようとしていた場合、どちらかに集約したりすることで開発効率を上げていくなどです。KGITがハブの役割を担うことで、最大かつ最速の結果が出る研究開発を促進しています」
偶発的なコミュニケーションが生まれる、ワンプレート型ワークプレイス
KGITでは多様な専門家が集まったことで、部門間のシナジー効果により新たなイノベーションを創出しようと、執務スペースにも創意工夫が各所に見られます。中でも特筆すべき点は、見通しの良い開放的な空間に異なる部門の開発者が一堂に集結した「ワンプレート型オフィス」です。
「これまでの積層型オフィスとは異なり、ワンプレート型を採用したことで、大空間での一体感が醸成され、偶発的なコミュニケーションが生まれやすい仕掛けになっています」
コミュニケーションをとりたい相手が自分と同じ空間にいるため、電話やメールではなく、直接会って話をする機会が増え、相互理解が深まり業務がスムーズになったと甲藤さんは言います。
「命を支えるプラットフォーマー」として、オフィスへのこだわり
1890年の創業以来、食料・水・環境に関わる地球規模の課題解決に取り組むクボタ。KGITも例外なく「命を支えるプラットフォーマー」ならではの、地球環境へ配慮した創意工夫が満載です。
「クボタは、事業活動自体が人々の生活に密接に関わっている会社。社会貢献や環境に配慮しながら、事業を行っていく必要があります。KGITでは、実質のエネルギー消費量をゼロへと近づけるような工夫をしています」
「創エネルギー」のため、KGITの屋上には太陽光パネルを設置。ワンプレート型オフィスでは天井から差し込んでくる昼光を有効利用したトップライトで「省エネ」に取り組んでいます。また、厨房の排水を「クボタ液中膜」という水処理システムによってろ過して、お手洗いや水景として再利用しています。
KGITでは、製品を開発して出荷するだけではなく、10年後のクボタが「命を支えるプラットフォーマー」であり続けるため、必要となり得る技術の開発と実現の一環として、それら環境配慮技術や省エネの取り組みなどはサイネージで見える化され、KGIT来訪者へも情報発信されています。
KGITに息づく、クボタ創業者の精神
KGITをはじめ、クボタが技術開発をおこなっていく上で、目標としているのは「クボタスマートビレッジ」という構想。これは、食料・水・環境に関わるソリューションの連携が実現する自然と調和した持続可能な社会をめざすものです。
「スマートビレッジ構想では、エネルギーの地産地消をめざし、風力・太陽光・水力・地熱などから得たクリーンなエネルギーを動力として、農業機械のゼロエミッションを実現させていきます。また、収穫した作物を食べて、そこから出るゴミなどを利用した発電なども。さらに圃場をセンシングすることでメッシュマップが作成され、圃場の情報の見える化による超精密農業を可能になります。これらデータを取り込んだ複数のロボット農機を使用することで、効率化・省力化・軽労化を実現することも考えています」
これらを実現するため、1つずつ技術を獲得していくことが必要であり、KGITでは自社で研究開発をするだけに留まらず、国内外の企業や大学の研究機関と協創し、スマートビレッジ構想の実現をめざします。クボタの顧客を始めとするステークホルダーに提供できる価値を少しずつ増やしていきたいと甲藤さんは語ります。
「社会の人々から必要とされる技術を生み、それが世界中の人々の生活にとって価値ある技術であることで、クボタも事業を継続していけるというスピリッツが根底にある会社なのです」と、締めくくる甲藤さん。
今回、甲藤さんのインタビューを通じて、改めてクボタの創業者・久保田権四郎の「技術的に優れているだけでなく、社会の皆様に役立つものでなければならない」という言葉が今も生き続け、クボタにとってイノベーションの創造は会社のみならず社会に対して、創業以来絶えることなく継続してきたことなのだと感じる取材となりました。出航から1年、KGIT号の船旅はチャレンジ満載で始まったばかりです。
ちなみに、甲藤さんのお気に入りの場所は4階の食堂。海を見渡しながらボーっと考えごとをすることだと教えてくれました。ボーっとすることだって大事ですよね。
『もし船を造りたいのなら、人々に木を集め、仕事を分担し、指示を出すようなことをせず、代わりに、彼らに広くて果てしない海への憧れを教えればいい』
引用:サン=テグジュペリ
編集後記
今回の取材を通して、企業の経営目標の達成には、多様化、求心力、イノベーション創出、従業員のモチベーションの向上などを実現する方策として、オフィスづくりが非常に重要であることがわかりました。多様な働き方が求められる今、オフィスが果たす役割も変わってきたことに納得しました。偶発的なコミュニケーションが発生しやすく、感性価値を高められるオフィスという場を設けることで、人財価値を最大化し、それが企業の生産性を上げて、最終的に企業の競争力が強くなる。
「オフィスはコスト」から、「オフィスは投資」へと風向きが変わってきました。