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世界とクボタの交差点 万博シリーズ第2回大阪・関西万博から見える、未来の食料・水・環境へのアクション ~トルコ/デンマーク~
2025 . 05 . 30 / Fri

写真・文:クボタプレス編集部
2025年4月から開催されている大阪・関西万博では、世界各国がそれぞれの「思い描く未来」を展示しています。本シリーズ「世界とクボタの交差点」では、万博を通じて見えてくる社会課題に注目し、それにどうクボタが関わっているのかを読み解いていきます。
第1回では、異なる自然環境と歴史的背景を持つトルクメニスタンとスイスを取り上げ、「食料・水・環境」の課題とそれに対するクボタのアプローチを紹介しました。
第2回では、北欧の環境先進国デンマークと、ヨーロッパとアジアをつなぐ交差点に位置するトルコを取り上げます。クボタの技術がどのように交差し、未来への道をともに描こうとしているのか。万博という国際的な舞台を通じて、その一端を探ります。
トルコ共和国 —文明の黄金時代、その光を受け継ぐ技術—

トルコパビリオンは、地中海と黒海の沿岸を象徴する波模様を外観に取り入れたデザインが特徴です。
『Azıcık aşım, kaygısız başım』
(わずかな食でも、心穏やかに暮らす):トルコのことわざ
ユーラシア大陸の東西にまたがるトルコは、古くから多様な文明が行き交い、影響を与え合ってきた場所です。アナトリア高原には、世界最古の神殿といわれるギョベクリテペ遺跡や奇岩地帯で知られるカッパドキアなど、太古の人類の営みを伝える遺跡が点在しています。その後もローマ帝国、ビザンツ帝国、オスマン帝国といった時代を経て、それぞれの時代の文化や建築物が今も各地に色濃く残されています。
大阪・関西万博に出展されたトルコパビリオンのテーマは「文明の黄金時代」。トルコと日本、双方の国旗に描かれた「太陽と月」を象徴に据え、ギョベクリテペからオスマン帝国に至る歴史を、パビリオンの建築デザインや展示演出に織り込んだ構成となっています。
波模様を描いたファサード(建物正面の外観)は、地中海と黒海を象徴的に表し、入口上部の「三日月と星」のイルミネーションは、トルコの国家としての誇りを示します。さらに、月と太陽をかたどった装飾「キュン・アイ」、トルコの豊富な資源であるホウ素でコーティングされた木材のインスタレーションが、訪れた人々を光と影の狭間へ導き、1万年以上にわたって蓄積されたトルコの歴史的知見を、未来へのビジョンにつなげています。

「クナイの伝説」は、トルコのナショナルデーで披露された壮大な舞台作品で、約80人の演者が参加しました。この公演では、メソポタミア時代からオスマン帝国を経て現代トルコに至るまでのアナトリア文明の壮大な歴史を、映像・音楽・ダンスを融合させた演出によって、鮮やかに描き出されました(4月23日)。
トルコが描く未来へのビジョン。その取り組みの一つとして、南部の半乾燥地帯では、持続可能な農業への挑戦が始まっており、クボタの技術が支えています。具体的には、ポンプ場のポンプおよび配管設備、自走式大型スプリンクラーや、ドリップかんがい用の資機材などがクボタから供給され、現地スタッフの技術指導も行っています。かんがいによる農業技術向上が実現することで、より付加価値の高い作物栽培が実現、中でも従来トルコにはなかった長い大根は、レストランなどで高い評価を得ています。クボタの取り組みが新しい農業の立役者になっていると言えるかもしれません。
また、トルコと日本は“地震国”としての共通性を持つ国同士。2023年のトルコ地震の際には、クボタグループとして総額約3,000万円の寄付を実施しました。これは災害支援にとどまらず、“地震の怖さを知る国”としての共感と、復旧・復興を願う思いの表れでもあります。
肥沃な文明の記憶が重なる豊かな国で、クボタの技術は、「食料・水・環境」を支える力として、しっかりと根を下ろしています。
デンマーク王国 —農業と暮らし、環境とデザインが結び合う場所で—

北欧の伝統的な納屋をモチーフにした木造建築が目を引く、北欧パビリオン。デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの北欧5カ国が共同出展しています。
『Hvo intet vover, intet vinder』
(挑まなければ、何も得られない):デンマークのことわざ
北欧の国デンマークは、自然との共生を軸に、高福祉・高環境基準の社会づくりを進めています。風力発電の導入やリサイクル率の高さに加え、生活の細部にまで「サステナビリティと機能美」を宿す思想が根付いています。これらは単なる習慣ではなく、挑戦と知恵の積み重ねによって築かれた文化です。
大阪・関西万博に出展された北欧パビリオン「ノルディック・サークル」は、まさにこうした挑戦を共有する空間です。
デンマークを含む北欧5ヵ国が共同で構える木造建築は、イタリア人建築家ミケーレ・デ・ルッキの設計によるもので、伝統的な北欧の納屋を思わせる佇まいです。自然の風を取り入れることで、空調に頼らず快適な環境を保つ設計は、建築そのもので環境と人との調和を体現する、静かながらも大切な挑戦です。
広さ1,200m²、高さ17mの展示空間では、北欧の自然・暮らし・革新をテーマに、各国の取り組みが紹介されています。ライスペーパーでつくられた円形スクリーンが展示空間を包み、室温や香りの演出とともに、北欧の四季やライフスタイルを五感で体験できます。北欧家具やファッションブランドを取り入れたショップや、北欧料理が味わえる屋上レストランも併設されており、デザインと暮らしの哲学が細部にまで息づいています。

デンマーク・デーには特別コンサートが開催され、日本・デンマーク王国にルーツを持つ世界的アーティスト ミイナ・オカベ氏(写真左)の演奏などが披露されました(4月24日)。
北欧の中でも、デンマークは農業輸出国として知られています。国土の約60%が農業用地であり、穀物・乳製品・豚肉をはじめとする農産物をヨーロッパ全体に供給しています。農家の数は減少傾向にあるものの、効率化と大規模化が進み、生産性はむしろ高まっています。
こうした環境調和と先進性の両立をめざす中、クボタはデンマーク企業Agrointelli社と提携し、自立走行型農業ロボット「Robotti」の実用化を推進しています。72馬力のクボタ製エンジンを搭載したこのロボットは、播種や除草を自動で行い、持続可能な農業の現場を支えています。
また、夏の避暑地として知られるケアテミンデ(Kerteminde)には、クボタグループの生産拠点があり、豊かな自然と穏やかな暮らしの中で機械づくりが進められています。
声高に語らずとも、確かな実りを。クボタの挑戦は、これからもデンマークの風景に寄り添い続けます。
文明を受け継ぐ知恵、暮らしを支える工夫、そして、未来をひらく技術。トルコとデンマークは、まったく異なる環境と文化を持ちながら、それぞれの手法で“いのち輝く未来社会のデザイン”を丁寧に編み上げ、地球の声にどう応えるのかを問いかけていました。
クボタは、遠い国の出来事を「遠いまま」にせず、現地で見て、感じて、働く人々と心を重ねながら、そこに潜む課題を見つけ出し、ともに解決への道を探っていきます。
そして、また新たな国へと、扉が開きます。