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共通プラットフォーム構築を通じて新たなスタンダード作りへ挑戦水を守り、未来につなぐクボタの水道マニフェスト

2024 . 04 . 19 / Fri

水道マニフェストのビジュアルイメージ

写真・文:クボタプレス編集部

平成は「災害の時代」だったと言われますが、それは令和の今も続いているかのようです。実際、平成から令和にかけて大規模な地震や気象災害が頻発し、老朽化した水道管が破損して水の入手が困難になる状況が度々発生しています。また、人口減少による財政悪化に伴い、市町村の水道事業の広域連携や官民連携の推進が叫ばれています。水道は、私たちの生活を支える基本的な社会インフラの一つであり、水道施設の適切な維持管理や災害対策など水道事業の基盤強化が急がれます。

安全・安心な水の供給を続けていくために、クボタは昨年、水道の未来に向けたマニフェストを提言しました。その狙いと込めた思いについて、クボタ エグゼクティブオフィサー パイプシステム事業部長の市川孝さんに聞きました。

安全・安心な水と水道を未来につなげるために

日本では平成から令和にかけて、阪神・淡路大震災(1995年)や東日本大震災(2011年)、熊本地震(2016年)、能登半島地震(2024年)と大きな地震が相次ぎました。その度に水道インフラ、特に水道管は大きな被害を受け、大規模な断水が生じました。また、地震だけではなく、平成29年7月九州北部豪雨(2017年)、平成30年7月豪雨(2018年)、令和元年東日本台風(2019年)などの自然災害で発生した地滑りなどでも水道管が破断し、断水が生じています。

一度断水が起きれば、そこに暮らす人々は大きな不便を強いられることになります。しかし、全国の重要な水道管路(基幹管路)のうち、耐震性のある管の割合は41.2%にとどまっています。

基幹管路の耐震化適合率

基幹管路の耐震適合率(出典:厚生労働省「水道事業における耐震化の状況(令和3年度)」)

水道インフラの老朽化も深刻な問題です。日本の水道管の約20%は敷設から40年以上が経過し、法定耐用年数を超えて使用されています。老朽化した水道管を維持・管理していくには多くの技術者が必要ですが、水道局の職員や水道工事会社の従業員など水道事業に携わる人材の減少が続いています。これまで多くの人々の努力で築いてきた日本の「安全・安心な水道」を未来につなげるために、今、私たちは大きな課題を突きつけられているのです。

水道を守るためのマニフェストを宣言

クボタは約130年前、伝染病が蔓延していた明治期の日本で水道の普及を促進するため、水道用鋳鉄管の量産化に成功し、安全・安心な水の供給に貢献しました。豊かな社会と自然の循環にコミットする「命を支えるプラットフォーマー」をめざすクボタは、創業時から水道に関する課題解決を使命と捉えています。そこで、自らが水道の未来に向けて取り組むマニフェストとして、4つの未来──「おいしい水が常に身近にある未来」「どんな状況でも水の不便を感じない未来」「ずっと安定して水が届けられる未来」「水を支える人が生き生きと働く未来」──と11ヵ条のコミットメントを宣言しました。これを2030年までに実現することをめざしています。

「命を支えるプラットフォーマー」として水道事業にかかわるクボタが2030年にコミットする11ヵ条

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「命を支えるプラットフォーマー」として水道事業にかかわるクボタが2030年にコミットする11ヵ条

クボタがこのような提言を行う理由を、市川さんは次のように説明します。

「水道事業の施策を作り、事業運営を行っているのは、国や市町村の水道局などの水道事業体です。そうした中、水道のマニフェストを一民間企業が提起するのはおかしなことかもしれません。しかし今、水道が直面している困難な課題を解決するには大きな技術革新が必要であり、それを牽引するのは民間企業の役割です。そこにクボタがマニフェストを提言する意味があると考えています」

クボタ エグゼクティブオフィサー パイプシステム事業部長の市川孝さん

エグゼクティブオフィサー パイプシステム事業部長の市川孝(いちかわ たかし)さん

共通プラットフォームの上で築く水道の未来

水道の4つの未来に向けた11ヵ条は、安全で高品質な水・住環境を維持し、災害など緊急時のレジリエンスを高め、人口が減っていく中でも持続可能な経営基盤を保ち、未来の水道事業の担い手を確保するために必要となるものです。この中では最新ICTの活用が不可欠であり、特に限られた人と予算を効果的に使ううえで鍵となるのがAIやIoTとデータです。

長年にわたりさまざまな水関連製品を開発・提供してきたクボタは現在、高い専門性を備えたプラットフォーマーとして、最新のICTを活用して水道の設計・施工や維持管理における業務を効率化・高度化するための水環境ICTソリューションシステム「KSIS(KUBOTA Smart Infrastructure System)」を展開しています。

クボタはKSISの各技術・ソリューションの提供を通じて水道事業の円滑な運営をサポートしていきますが、マニフェストの実現に向けた取り組みはクボタだけで行えるものではありません。水道事業には、運営主体である水道事業体に加えて、水道工事会社、浄水施設や配水施設などで水質を良好に保つための活動をしている技術者や研究員、水道に関するさまざまな技術や製品を提供する企業など、多くの協力業者が携わっています。これらの組織がしっかりと手を携えていかなければ、水道の未来を守ることはできません。

「クボタは、個別のソリューションの開発・提供と併せて、水道インフラの維持管理や更新計画、設計・施工など一連の業務に関する全てのデータをクラウド上に蓄積して業務間で連携させることで、業務全体として高度化・効率化・品質向上を図るためのプラットフォームの構築を進めています。このプラットフォームにより、水道事業に携わるステークホルダーと共に11ヵ条の実現をめざしていきたいと考えています」と市川さんは力を込めます。

マニフェストの実現に向けた具体的な取り組み

例えば、11ヵ条の「耐震化支援」や「事前対策の強化」を進めるには、老朽化した水道管を計画的に耐震管に更新していかなければなりません。現在は水道管の老朽度を主に敷設年数で推定しています。しかし、水道管の状態は敷設年だけで一律に決まるものではなく、埋設されている土壌の質、管の種類、道路の利用状況など、さまざまな埋設条件の複合的な関係で決まります。これらに関する豊富なデータがあれば、それをAIに学習させることによって老朽度診断のための予測モデルを作り、水道管の状態をより高い精度で評価し、適切な更新優先順位を踏まえた更新計画の策定を支援することができます。

また、11ヵ条の「大規模断水・漏水ゼロ支援」を実現するには、水道管路の状態監視が必要です。しかし、地中に埋設された水道管の状態は、地上から直接見ることはできません。漏水の有無は、多くの調査員が路上で音聴棒などを当てて判断しています。IoTセンサーを搭載したバルブなどのセンシング機器を使い、水道管路内の水圧や流量のデータを遠隔でモニタリングすることで、人が現場に行かなくても漏水など管路の異常を検知できるようになります。

さらに、水道管の維持管理を通じて収集・蓄積するこれらのデータは、設計・施工の工程でも活用することができます。近年は水道管路の設計と施工を一括で発注するデザインビルド(DB)方式の普及が進んでいますが、AIが設計を支援する仕組みがあれば、各地域の水道工事会社がDB方式で発注された水道管路工事を請け負えるようになります。

水道工事会社が設計から施工まで行うことができれば、現地の状況に応じた設計変更や、それに伴う工事費の変更がスムーズに行えるという利点があります。現場でスマートフォンやIoTデバイスによって作業実績データを収集・入力する仕組みを使い、そのデータを利用して工事書類を自動作成することもできます。これにより、工事担当者の負担を大幅に軽減し、現場作業により多くの時間を使えるようになるのです。これは11ヵ条の「水道管路工事期間30%短縮支援」につながります。

全国の水道事業体で進む最新ICTの活用に向けた取り組み

クボタが開発する最新ICTは、すでに日本各地の水道事業体において活用に向けた取り組みが進んでいます。次に紹介するのは、11ヵ条の「大規模断水・漏水ゼロ支援」につながる取り組みです。

地理的条件から水資源に恵まれていない福岡県福岡市は、世界で最も低い漏水率の維持をめざして計画的な漏水調査や管路更新を行っていますが、道路を掘削する調査データの蓄積に多くの労力と時間を要することが課題でした。そこで、同市水道局は民間企業との共同研究として「AIを活用した水道管路劣化予測」を実施。その結果、クボタが東京大学と共同開発した「AI老朽度評価方法」により、多くの基礎データに基づいて道路を掘削せずに管路の老朽度予測を高い精度で行えることを確認しました。

「AI老朽度評価方法は、クボタが長年蓄積してきた全国約6,000件の水道管の腐食調査データや埋設環境データを基に、東京大学との共同研究を通じて開発したものです。従来の老朽度予測と比べて大幅な精度向上を実現しており、その結果に基づいて老朽度の上位20%を更新した場合、従来手法と比べて漏水件数を半減させることができます」

老朽度評価の流れとアウトプット

AI老朽度評価方法では、管路ごとの老朽度を件数ベースで算出し、年間の予測漏水事故件数を予測できるほか、現在および将来の漏水危険度マップの作成、管路ごとの更新優先順位付けなどが行えます。全国版の老朽度評価モデルだけでなく、各水道事業体が保有するデータを活用して、より予測精度が高い事業体独自モデルを作成することもできます。

また、1900年に日本で7番目の近代水道として給水を開始した兵庫県神戸市は、総延長が4,880kmにも及ぶ水道管路を維持管理しています。人口減少により水道料金収入が減少傾向にある中で老朽化した水道管を更新していくのは大きな負担であり、これをいかに効率的に行うかを課題としています。

そこで、クボタは水道管路の更新計画の策定業務において、複雑に入り組んだ水道管路網の工事区間を、AIを用いて工事費や管路延長などの条件に基づき任意の規模に自動分割(グルーピング)する技術「適正工事発注グルーピング」を神戸市水道局との共同研究により開発しました。

「この技術の活用により、人手不足に悩む水道事業体の技術職員による工事区間の設定作業の負担が大幅に軽減されます。当社が検証したところ、これまで20kmの管路延長のグルーピングを職員1名が約2週間かけて実施していたのに対して、約600kmの管路延長のグルーピングを1時間程度で行うことができました」

神戸市の事例は、11ヵ条の「DX支援により低負荷・高付加価値業務の実現」をめざすものです。

適性工事発注グルーピングの例

グルーピングの例。更新対象の管路を工事区間の単位で色分けして表示することができます。老朽度だけでなく、耐震性や重要度などを加味した総合評価による工事区間単位の更新優先順位付けも可能です。

さらに、11ヵ条の「水道管路工事期間30%短縮支援」につながる事例として、群馬県東部地域で水道事業を行う群馬東部水道企業団は、クボタの水道管路トータルソリューションを活用したDB方式を採用して設計・施工の品質確保と合理的な設計、事業のスピードアップをめざしているほか、青森県八戸市を中心とする圏域の水道事業を担う八戸圏域水道企業団では、スマートフォンとデータ連携により水道管路工事の施工管理を効率化するシステムの活用を進めるなど、日本各地でより良い水道の未来をめざしたクボタとの取り組みが進んでいます。

「今後はこれらの各水道事業体との取り組みを進めながら、個々のソリューションを共通プラットフォーム上でつなげてトータルなソリューションとして提供できるようにしていきたいと考えています」

市川さん

水道の4つの未来に向けた11ヵ条について話す市川さん。これらの実践においてはAIやIoTなど最新ICTの活用が不可欠であり、クボタは長年にわたり蓄積したノウハウとデータを生かし、さまざまな機関と協力しながら技術やソリューションの開発を進めていると言います。

日本での取り組みを世界の水道の課題解決につなげる

クボタは日本で初めて水道用鉄管の開発と国産化・量産化に成功して以来、約130年にわたり人々に安全な水道水を提供するための取り組みに心血を注ぎ、技術やノウハウ、データの蓄積と分析に努めてきました。

「水道に携わるさまざまな事業体や企業が連携するために共通基盤となるプラットフォームを民間企業の立場で提供できるのは、クボタのほかにないと自負しています」

水道事業体と協力業者、クボタが共通のプラットフォーム上で水道事業の新たなスタンダードを築く

水道事業にかかわる水道事業体と協力業者が共通のプラットフォームの上で最新ICTを活用しながら連携することを通じて、水道事業の新たなスタンダードを作ることをめざします。

また、この取り組みを通じて水道事業の新たなスタンダードを作ることは、世界の水道界にとっても大きな意義を持つと市川さんは続けます。

「水道に関する取り組みや技術で、日本は世界をリードする存在です。日本が直面している危機は、やがて水道を利用する全ての国に訪れます。私たちが日本で力を合わせてこの危機を乗り越えることが、将来、世界を水道の危機から救うことにつながるのです」

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