GLOBAL INDEX
December 2018

FEATURE
"People's Republic of Bangladesh"

02

安全な水を安定供給せよ
~チッタゴン・カルナフリ上水道整備事業~

送水管として敷設されるダクタイル鉄管(バングラデシュ・チッタゴン市内)

急速な経済成長を遂げる
南アジアの新興国・バングラデシュ

南アジアに位置するバングラデシュ人民共和国(以下、バングラデシュ)。ベンガル湾に注ぐ大河ガンジス川を有し、その豊富な水資源が生み出す豊穣な実りから、かつて「黄金のベンガル」とも称された。その後、紛争や独立などの社会的混乱によるインフラの未整備、行政の非効率性などから経済が停滞。一時、アジア最貧国とも言われる状況に陥ったが、2000年以降急速な経済成長を遂げ、2017年度は7.24%の経済成長率を達成した。他のアジア各国同様、新興経済国の一国として台頭しつつある。その原動力となっているのがアパレル産業だ。バングラデシュからの輸出品の80%以上をアパレル産業が占め、今や中国に続く世界第2位の衣料品輸出国となっている。人口は世界8番目の約1億6,000万人。この巨大な人口は労働市場として、また消費市場としても魅力を兼ね備えており、近年、バングラデシュに注がれる世界の目は熱い。このバングラデシュが抱える水を巡る課題を一言でいえば、安全な水の安定供給である。亜熱帯地域に位置するバングラデシュは、雨期の降水により水量は十分に確保されている。しかし、市民の主な水源である地下水は水質に懸念材料(ヒ素含有等)がある。また、清浄な水を届ける水道の普及率は低く、市民の多くは、安全な水の供給を不断に享受することが困難な状況にある。こうした中、バングラデシュ政府は日本政府との間で、2013年3月に円借款に調印(ODA=政府開発援助)。バングラデシュの主要都市であるダッカ、チッタゴン、クルナ、ラッシャヒにおける上水道普及率を、2005年の65%から2025年に90%へ、2050年には95%とする目標が設定された。

総延長100㎞の上水管を敷設
バングラデシュ初の大規模インフラ工事

バングラデシュ・チッタゴン――。バングラデシュ南東部に位置し、首都ダッカに続く第二の都市である。国内最大の港を有し、数千年にわたって交易地として繁栄してきた。現在も港はバングラデシュ輸出入の主要経路であり、経済・貿易の重要なポジションにある。このチッタゴンでクボタグループのクボタ工建が進めているプロジェクトが、「カルナフリ上水道整備事業」だ。クボタ工建はこれまで、カンボジアやラオス、アフガニスタン、イラク、ジャマイカ、イエメンなど、世界各国で上下水道を中心としたインフラ整備で多くの実績を残してきている。今回のプロジェクトは、ベンガル湾に注ぎ込むカルナフリ川から取水し、浄水場を経て総延長約100km(Ⅰ期・Ⅱ期工事総計)にも及ぶ導・送水管、配水管を敷設するという、同国初の大規模な水関連インフラ建設計画である(※注3)。この上水道整備によって、チッタゴンの給水率は現状の47%から85%までに改善(Ⅰ期・Ⅱ期工事完工後)することを目指す。プロジェクトの始動は2008年。クボタ工建が、「バングラデシュのチッタゴンにおいて、JICA(国際協力機構)主導による上水道整備のODA案件が動き出す」という情報をキャッチしたことに始まる。

※注3…チッタゴンの上水道管は、ほとんどが英国統治時代に敷設されたものであり、老朽化による漏水、また地下水を水源とすることから水質汚濁等の問題、さらに給水制限が常態化しており常時給水とは程遠い現状だった

喧騒の中のチッタゴン
果たして工事は可能か

(株)クボタ工建
執行役員
カルナフリ上水プロジェクト
プロジェクトマネージャー
白井 朗

当時、東京支社で設計・積算を担当していた白井朗(現・カルナフリ上水プロジェクト プロジェクトマネージャー)が、案件の事業採算性を見極めるために、チッタゴンに派遣された。かつて、イエメンの下水道プロジェクトに関わった経験がある白井だが、その後技術研究所等の勤務が長く、仕事で海外の空気を吸うのは久しぶりのことだった。しかし……

「初めて見るチッタゴン市内は、カオスそのものでした。溢れかえる人の波、終わりのないような交通渋滞。果たして、ここで上水道の工事をすることが可能なのか。どうすれば工事が可能になるのか。当初は頭を抱えるしかありませんでした」(白井)

白井が見た光景は今でも変わらない。「アジア的活気」ともいえるが、「喧騒の中にある混沌」とでも形容した方が的を射ている。白井は熟考を重ねた結果、帰国後「積極的に臨むべき。自社の土木施工技術とクボタの鋳鉄管があれば可能」という報告を提出する。それに対し、社内では「やめるべき」という反対意見が少なくなかった。なぜならリスクが高すぎたからだ。カルナフリのプロジェクトはクボタ工建にとって過去最大規模の案件であり、単体の工事だけで当時の国内受注額に匹敵するほどだった。さらに国情が不安定というカントリーリスクもある。不測の事態によって万が一プロジェクトが頓挫すれば、会社自体の存続にも関わってくる。しかし最終的には、白井の意見が採択された。

「先が見通せないプレッシャーはあったものの、私の考えはシンプルで、上水道を作れば水を供給できる、今よりもいい生活環境を提供できる。だから我々が作る、我々にしか作れないという想いがありました。もちろん、事業の採算性を見極めた上での判断です」(白井) こうしてプロジェクトは始動した。最初の関門は国際入札における落札だった。

1本ずつ丁寧に敷設されていく。接続技術もクボタは独自のノウハウを持つ

厳正・公正な国際入札への応札
高い技術力を訴求

(株)NJSコンサルタンツ
顧問
落合 孝男氏

プロジェクトはODA案件であることからJICAが基本計画を策定し、それをエンジニアと呼ばれるコンサルタント企業がサポートする。エンジニアの仕事は、案件形成や課題発掘、準備調査、基本・詳細設計など多岐にわたるが、実際に工事を請け負う施工会社を選定し、工事進捗を管理するのもエンジニアの重要な役割だ。今回の、カルナフリ上水道整備事業では、世界の上水道インフラのコンサルティングサービスを提供してきた日本のNJSコンサルタンツが担当。留意すべきは、円借款のODA案件といえども、工事を請け負うのは日本企業とは限らないことである。厳正・公正な国際入札によって施工会社は決定される。したがって、NJSコンサルタンツは、応札に参加する各国の施工会社の技術力等を見極め、適正に評価していくことになる。

「プロジェクトを進めるにあたっての最大のポイントは、高い技術力を有し、かつコストパフォーマンスに優れた施工会社を選ぶことです。今回のプロジェクトでは、クボタ工建サイドから大口径管の配管施工が非常に難しく、高い技術レベルが必要になることを強く指摘されました。すなわちそれを実現できるのが、クボタ工建であると。我々も応札する他国の施工会社と比較しても、クボタ工建の技術は一歩抜きんでていると感じていました。結果、クボタ工建が落札したわけですが、その後の施工においても全幅の信頼をおける工事進捗だったと高く評価しています」(NJSコンサルタンツ 顧問・落合孝男氏)

チッタゴン市内を走る高架道路。この下を送水管が走っている
クボタのブランドはバングラデシュでも絶大な信頼を得ている