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TECHNOLOGY

ロボットや複合現実など最先端テクノロジーをフル活用持続可能な社会インフラをめざす「上下水道DX」実証の現場へ

2025 . 12 . 19 / Fri

実証実験に携わるクボタ環境エンジニアリングの社員と四足歩行ロボット

写真・文:クボタプレス編集部

高度経済成長期に整備された社会インフラの老朽化や、人口減少に伴う労働力不足は、全国の自治体が共通して抱える深刻な課題です。下水道事業も例外ではなく、使用料収入の縮小による財政難や人材不足、技術の属人化などの問題に直面しています。

この課題の解決に向けて、群馬県太田市ではクボタおよびクボタ環境エンジニアリングにより、四足歩行ロボットや複合現実(MR)ヘッドセット、施設管理総合プラットフォームを活用した先進的な実証実験が進められています。これらのテクノロジーにより、持続可能な社会インフラがどう実現されるのでしょうか。

持続可能な社会インフラの実現に向け「上下水道DX」が重点施策に

2025年6月に改訂案が閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、「デジタル×社会インフラ」の取り組みが重要視されており、その中で「上下水道DX」は労働力不足や自然災害への対策、そして持続可能な上下水道システムの実現により、人々の生活をより良くするための重点施策の一つに位置付けられています。

上下水道事業は、これまで各地方自治体が主体となって進めてきました。それらの社会インフラ施設の多くは、現在も人による対応や紙の帳票を用いた運用が行われており、こうした方法では業務の効率化や熟練作業者のノウハウ継承に課題が生じています。また、上下水道事業は施設管理のほか、管路工事や漏水修理、検針作業などに広く民間企業が参画しており、業務や働き方の変革には官民の連携が不可欠です。

群馬県太田市の利根備前島水質浄化センター

群馬県太田市の利根備前島水質浄化センター。2006年7月より稼働を開始し、太田市の2,782ヘクタールを処理区域とします。現在はクボタ環境エンジニアリングが施設の維持管理を受託しています。

太田市の利根備前島水質浄化センターで実証実験に携わるクボタ環境エンジニアリングの海波和希さんは、取り組みの背景にある課題について、「今日、地方自治体の下水道事業は財政的に厳しい状況にあります。そのため、デジタル技術を活用した効率化により、維持管理のコストを削減することが求められています」と説明します。

それに向けてクボタが推進するアプローチは大きく3つあります。1つ目は、人手に依存した点検作業から脱却して省人化をめざすこと。2つ目は、老朽化した設備を適切に整備することで長寿命化を図ること。3つ目は、データに基づく予防保全により、維持管理や改修、更新にかかる費用を削減していくことです。これらのアプローチを実現するため、IoT技術を活用したロボットなどを用いて、下水処理場の設備の稼働状況を監視・分析し、総合的な維持管理コストの最適化を図ろうというのです。

クボタ環境エンジニアリング DX推進部 企画課の海波和希さん

クボタ環境エンジニアリング DX推進部 企画課の海波和希さん。「社会インフラを支える企業として、それを持続可能なかたちに変革していくことがクボタの使命。効率的なインフラ管理を実現するために日々、取り組みを進めています」と話します。

四足歩行ロボットとMRヘッドセットによる巡視点検がもたらす効果

今回の実証実験では、クボタ環境エンジニアリングが培ってきたインフラ施設の維持管理効率化のノウハウを基に、米ボストンダイナミクスの四足歩行ロボット「Spot」を巡視点検に、マイクロソフトのMRヘッドセット「HoloLens2」を設備点検の合理化にそれぞれ活用しています。

利根備前島水質浄化センターの施設内を、カタカタとリズミカルな音を立てて進む四足歩行ロボット。「従来、人が1日に2回行っていた巡視点検業務を、このロボットが代替しています」と担当の西村洸樹さんは説明します。

「事前に設定したルートを自律的に巡回し、指定したポイントで計器のメーターを写真に撮ったり、設備の温度をサーモカメラで測定したり、異音があれば録音したりすることができます。巡回後は自動で充電ステーションに戻って写真データをクラウドにアップロードすると、それを画像解析AIが処理してメーターの値を数値データに変換します。これら一連の流れがすべて無人で行われます」(西村さん)

クボタ環境エンジニアリング DX推進部 企画課 西村洸樹さん

四足歩行ロボットについて説明するクボタ環境エンジニアリング DX推進部 企画課の西村洸樹さん。巡回ルートや計器類の撮影場所などの設定は、全て手元のタブレットで行います。

これまで、利根備前島水質浄化センターでは最大3名体制で日中と夜間の巡視点検を行っていました。ロボットがその役割を代替することで人件費の削減効果が見込まれます。また、人が立ち入るのが危険な場所や狭い場所での点検が可能となり、安全性の向上も期待されます。

米ボストン・ダイナミクスの四足歩行ロボット「Spot」

四足歩行ロボットが施設内を自律的に巡回し、さまざまな設備の計器を撮影します。

実証実験では、もう一つのキーテクノロジーとしてMRヘッドセットのHoloLens2を導入しています。施設管理の作業者がこのヘッドセットを装着すると、現実の視界にデジタル情報(作業手順やマニュアル、図面など)が重ねて表示されます。これにより、経験の浅い作業者でも、熟練者と同様に正確かつ迅速に点検作業を進めることができます。作業の内容はすべてログとして記録されます。

実証実験を担当するペレラ・エランディさんは、MRヘッドセットのメリットを次のように説明します。

「HoloLens2を使えば、どこを点検すべきか、どのような手順で作業すべきかが目の前に表示されます。そのため、初めての人でも迷うことなく作業が行えます。クボタが管理するある施設では、紙の帳票を使った点検業務をHoloLens2に置き換えることで、点検時間を約30%削減することができました」(エランディさん)

クボタ環境エンジニアリング DX推進部 企画課のペレラ・エランディさん

HoloLens2を装着して点検作業を行うクボタ環境エンジニアリング DX推進部 企画課のペレラ・エランディさん。紙の帳票を使うよりも効率的に作業が行えると話します。

MRヘッドセットは、人材不足などから技術継承が困難になっている現場において、作業の標準化と効率化を両立させる画期的なソリューションだと言えます。

タブレットに映したHoloLens2の表示画面

タブレットに映したHoloLens2の表示画面。現実の視界に設備名や作業手順などが重ねて表示されます。

なぜ今、上下水道DXが不可欠なのか?―太田市が抱える課題とDXへの期待

このような最先端技術を用いた実証実験の裏側には、市の下水道施設が抱える深刻な課題があると太田市都市政策部の栗原敏之さんは話します。

「下水道事業の運営は企業会計システムに基づいており、利用者からの使用料で事業コストを賄うという受益者負担の原則に従っています。しかし、他の多くの地方自治体と同様、太田市も下水道収入だけでは事業を維持できない状態にあり、一般会計からの繰入金で運営しています。それでも国が定める基準を大きく超過し、赤字経営が続いています」(栗原さん)

群馬県太田市 都市政策部 下水道課の栗原敏之さん

群馬県太田市 都市政策部 下水道課の栗原敏之さん。地方自治体で社会インフラの老朽化や人口減少が進む中、限られた資源である「ヒト・モノ・カネ」をいかに有効活用していくかが今後ますます重要になると話します。

厳しい財政状況を改善するために使用料の値上げも行いましたが、赤字経営から脱却するには至っていません。今後もインフラを維持するコストは増え続けますが、その負担を利用者に単純に転嫁し続けることには限界があります。

財政問題に加えて、さらに深刻なのが“人”の問題です。今日、社会インフラの維持管理を担う人材の高齢化と若手人材の不足は全国的な課題となっています。紙の帳票などアナログな仕組みと人手に依存した維持管理を行っている現場では、業務の効率化やベテラン人材が持つノウハウの継承が難しくなっており、ITを活用した標準化や効率化、省人化が求められています。

これらの課題に対し、太田市が活路を見出しているのが民間企業と連携したDXの推進です。

「民間企業が持つ技術とノウハウを活用してDXを進めれば、より少ないコストでインフラの維持管理が行えるようになっていくと思います。省人化や安全性向上のほか、就労環境の改善により人材確保の面でも効果を期待できます」(栗原さん)

利根備前島水質浄化センターの浄化設備

利根備前島水質浄化センターの浄化設備。私たちの快適な生活は、下水処理場をはじめとするさまざまな社会インフラを構成する膨大な設備が日々、適切に維持管理されることによって成り立っています。

さらに、今後は民間企業の専門知識を最大限に生かした“提案型”の発注方式への移行も視野に入れながら、より効率的で質の高い施設管理の実現を目指しています。「クボタは水道事業に関して世界をリードする企業です。さまざまな施設の構築や維持管理で得た知見を生かしてご提案をいただき、より良いパートナーシップを築いていけるとよいですね」と栗原さんはクボタへの期待を語ります。

集約したデータからインフラ維持管理の最適解を探る

四足歩行ロボットやMRヘッドセットで収集した膨大なデータは、バラバラに管理していては意味がありません。そこで中心的な役割を果たすのが、クボタの施設管理総合プラットフォーム「KSIS(KUBOTA Smart Infrastructure System) BLUE FRONT」です。

「ロボットやMRヘッドセットなどで集めたデータを集約し、施設のあらゆる稼働状況や設備の状態を一元管理して可視化するのがKSIS BLUE FRONTの役割です。設備の日々の稼働状況がわかりやすく見える化されるため、異常の兆候などを早期に発見できます」(海波さん)

KSIS BLUE FRONTによる施設管理の全体イメージ

KSIS BLUE FRONTによる施設管理の全体イメージ。ロボットやドローンなどで収集した設備データを基に施設全体の状況を見える化し、さらにAIによって高度な分析を行うことで、維持管理のプロセスや設備・施設の更新プロセスを最適化し、コスト効果を最大化します。

KSIS BLUE FRONTの真価は、データの見える化だけではありません。蓄積したデータを分析することで、設備の劣化具合を予測し、最適な修繕・更新計画を立てることが可能になります。従来は「10年経ったから交換する」といった時間計画による対応だったものが「データに基づき、あと5年は使える」と判断できれば、30~50年に及ぶ長期的な施設運用の中でライフサイクルコストの大幅な削減につながります。AIを活用した高度な分析により、最適な運転管理やエネルギー効率の改善も期待できます。KSIS BLUE FRONTは、現場のデータを経営価値へと転換する司令塔の役割を担っているのです。

KSIS BLUE FRONTによる設備の長寿命化シミュレーション

※拡大画像を見る
KSIS BLUE FRONTによる設備の長寿命化シミュレーション。設備から収集したデータを基に、どのようなサイクルで修繕・更新を行えばコスト最適化が図れるかをビジュアルに試算することができます。

また、KSIS BLUE FRONTや四足歩行ロボット、MRヘッドセットなどによるDXの有効範囲は、下水道施設だけにとどまりません。上水道施設はもちろん、ゴミ処理場や発電所などの公共インフラなどにも広く応用することができるでしょう。それに向けて、インフラの在り方を社会に広く提案していくことも考えられます。

「例えば、今後はロボットによる維持管理が当たり前になっていくとしたら、ロボットで維持管理しやすいかたちにインフラを作り変えると効果的です。そのためには、ロボットを活用することの利点について、自治体や業界をはじめ広く社会の理解を得ていくことも大切です」(西村さん)

利根備前島水質浄化センターで進む実証実験は、インフラ老朽化や人口減少などに伴うさまざまな課題の解決に向け、上下水道DXが進むべき方向性を示すものだと言えます。持続可能な社会インフラの実現を目指し、クボタは今後も「命を支えるプラットフォーマー」としての挑戦を続けます。

利根備前島水質浄化センターの実証実験に携わるKKEおよびクボタの社員

利根備前島水質浄化センターの管理センターにて、実証実験に携わるクボタ環境エンジニアリングおよびクボタの社員。設備の稼働状況などは常に中央のモニタリング画面に映し出されます。

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