プランテックスの栽培装置・Culture Machineの中で生い茂るレタス

2021 . 05 . 14 / Fri

LIFE

安定的で効率的な食料供給をめざして「植物工場」という
もうひとつの食料生産のカタチ

写真・文:クボタプレス編集部

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、私たちの生活は大きく変化しました。その中で、飲食店のテイクアウトを利用する頻度が上がった人も多いのではないでしょうか。

テイクアウトのように、調理済みの食品を家で食べることを中食と言います。中食市場はコロナ禍以前から拡大し続けており、それに伴って業務・加工用野菜の需要も一層高まっています。

そのような状況の中、2020年11月、クボタは植物栽培装置や成長管理システムの開発を行っている国内のスタートアップ企業・プランテックスへの出資を発表しました。今回のクボタプレスでは、プランテックスとクボタがパートナーシップを通じてめざす未来の食料生産の可能性にスポットを当てていきます。

拡大する中食市場と、求められる野菜の安定供給

スーパーの惣菜やコンビニの弁当などに代表される中食。「2020年版惣菜白書」によると、中食(惣菜)の市場規模は2009年から右肩上がりで推移しており、2018年までの10年間で127.3%にまで拡大しています。

内食、中食(惣菜)、外食の市場規模推移(2009年比)

内食、中食(惣菜)、外食の市場規模推移(2009年比)

参考:2020年版惣菜白書(一般社団法人日本惣菜協会)

食の外部化を受け、業務・加工用野菜の需要も高まっています。農林水産省によると、野菜全体のうち加工・業務用需要割合は2015年に57%に到達。コロナ禍によるライフスタイルの変化を背景に、今後も業務・加工用野菜の需要はますます高まっていくと見られます。

毎日決まった数の惣菜や弁当を消費者に提供するためには、それらの材料となる業務・加工用野菜が、安定した品質、量、価格で生産されることが必要です。それを可能としうる食料生産技術の1つとして注目されているのが人工光型植物工場です。食料生産の効率化と安定した食料供給をめざすクボタは、露地栽培とは異なるもう一つの食料生産方法として人工光型植物工場に着目し、国内で同事業を展開するプランテックスに出資しました。

プランテックス独自の技術が詰まった植物工場

人工光型植物工場では、屋内で光や養液を人工的に与えながら、主に土を使わない水耕栽培によって作物を栽培します。このため、天候などの影響を受けることがない点が大きな特長です。また、省スペースで運用できるため、都市部などでも作物を生産することができます。

一般的な人工光型植物工場では、作物が育つ栽培棚が開放された栽培装置を室内に多数設置し、室内全体の環境を制御して育てます。一方、プランテックスの植物工場では栽培棚ごとに密閉した栽培装置・Culture Machineを設置し、栽培棚ごとに環境を制御して作物を育てます。

このような「密閉型」構造とすることにより、装置内の栽培環境を精細にコントロールできるため、レタスなどの作物では従来の人工光型植物工場と比べて栽培面積当たりの生産性が3~5倍にアップすると言います。

プランテックスの植物工場の中に設置されている栽培装置・Culture Machine。

プランテックスが保有する栽培装置・Culture Machine。作物の量産に最適なサイズで、植物工場に導入されることを想定して開発されています。

プランテックスの栽培装置・Culture Machineの内部

装置内には、生産する作物に最適な栽培環境を実現するためにLED照明やエアコン、除湿機などが内蔵されています。

このCulture Machineには、プランテックスが自社開発した植物成長管理システム・SAIBAIXが採用されています。SAIBAIXは温度や湿度、二酸化炭素濃度だけでなく、光合成速度や吸水速度なども加味して作物の成長を制御するシステムで、Culture Machineとともに運用することで、作物の生育に最適な栽培環境を高い精度で再現することができます。

栽培装置内の環境をつくるパラメータの組み合わせを、プランテックスでは栽培レシピと呼んでいます。研究によってより付加価値の高い作物を生産できるレシピが開発された際には、そのレシピに基づく栽培環境がCulture Machine内ですぐ再現できる仕組みになっているのです。

プランテックス施設内の見学室で見ることができる、制御しているパラメータを表示したパネル

Culture Machine内の環境は、作物の成長に必要な20種類のパラメータがSAIBAIXによって制御されています。

プランテックスとクボタがパートナーシップでめざすもの

独自の技術を開発して植物工場を発展させているプランテックスと、食の安定供給をめざすクボタ。今回のパートナーシップを通じて、両社は何をめざしているのでしょうか。プランテックス代表取締役社長・山田耕資さんと、クボタ イノベーションセンター ビジネスインキュベーション部の本多充さんにお話を伺いました。

植物工場は食料問題を解決しうるキーテクノロジー

――まず、プランテックスが植物工場事業を始めたきっかけを教えてください。

山田さん(以下、敬称略):2013年に初めて植物工場を目の当たりにしたのがきっかけです。新しい食料生産の形に衝撃を受けたと同時に、技術的な改善を加えればさらにパフォーマンスを引き出せると考え、エンジニアを集めて開発に着手しました。創業メンバー全員が2年間無給の時期もありましたが、それを乗り越えてソフトウェアとそのパフォーマンスを十分発揮できるハードウェアを開発することができました。

プランテックス社の会議室で、植物工場事業について語るプランテックス代表取締役社長・山田耕資さん

山田耕資(やまだ こうすけ)さん。2014年に株式会社プランテックスを創業し、代表取締役社長に就任。卓越した実績と技術を持つエンジニアとともに、植物工場事業の発展に尽力されています。

――無給の時期など多くの困難に直面しながら、それでも開発を続けてこられたのはなぜですか?

山田:世界では鮮度の高い食料を食べたいニーズや、水資源に配慮した持続可能な新しい食料生産へのニーズが高まっています。植物工場はこうした世界の食料問題の解決のために重要なキーテクノロジーであり、これは世に出すべきだという想いがありました。また、創業メンバーの存在も後押しになりました。苦労も多かったのですが、あれだけ優秀な人たちが誰一人諦めたいと言い出さなかったことで、植物工場には大きな可能性があるのだと高いモチベーションで取り組み続けることができたと思っています。

本多さん(以下、敬称略):技術をとことん追求し、食料問題の解決に貢献しようとするプランテックスさんの姿勢が、まさにクボタの考えと一致していました。世界的に将来の食料不足が懸念されていますが、耕作地を広げ続けることには限界があると思います。狭い場所でも効率的かつ安定して新鮮な食料を生産できる植物工場は、新しい食料生産の形の一つです。価格面で優れ、さまざまな作物がつくれる露地栽培と、高付加価値化や安定生産が得意な植物工場が共存しているという状況が、新しい農業の形だと考えています。

プランテックス社の会議室で、植物工場について語るクボタ イノベーションセンターの本多充さん

本多充(ほんだ みつる)さん。2016年に入社し、現在はイノベーションセンター ビジネスインキュベーション部 アグリビジネス企画室の企画第一課長として、オープンイノベーションを活用した新規事業企画を担当されています。

出資を受けたプランテックスの次なるステップ

――植物工場事業を展開する企業の中で、なぜクボタはプランテックスに出資したのでしょうか?

本多:プランテックスさんが、Culture Machineのプロトタイプを導入した自社拠点を東京にオープンした2019年にご縁があって以来、毎週のようにお会いしていました。出資させていただいた一番の理由は、エンジニアリングを非常に高度なレベルで行われていることです。同じ条件を設定すれば同じ品質の作物が安定的に栽培される、再現性の高いハードウェアとソフトウェアを実現しています。植物工場を新たな食料生産方法として発展させていくために、クボタが培ってきたモノづくりの面でお手伝いできることがあるのではないかと考えました。

山田:植物工場事業はソフトだけでは成り立たず、精密なハードもあって初めて力を発揮します。クボタさんは植物工場に重要な水や空気に関する技術を得意とされているので、その点でのシナジーには非常に期待しています。

――両社は今回のパートナーシップを通じて、植物工場を今後どのように発展させていこうとしていますか?

山田:当社は現在、栽培装置の実証と量産機の製作までたどり着くことができました。今後はご出資いただいた資金を基に、複数のCulture Machineを設置したマザー工場の建設を予定しています。マザー工場では、植物工場の収益性と持続的な安定性を確認していくことはもちろん、新しい技術を投入し、開発・実装を進めていく場にしていきたいと考えています。例えば、植物工場の生産過程の全自動化に向けた技術開発ですね。また、多様な品種の育成にもチャレンジしていきたいです。

プランテックスが建設予定の、複数のCulture Machineを設置したマザー工場のイメージ

プランテックスが建設予定であるマザー工場のイメージ。

本多:クボタとしては、長年培ってきた空調技術や水処理技術を活用することで、マザー工場の省エネ化、省力化につながる可能性もあるのではないかと考えています。マザー工場建設以降のステップでは、どの分野でサポートさせていただくのがベストなのかを探りながら、プランテックスさんと一緒に植物工場を発展させていくという未来を描いています。

植物工場の発展は、食の安定と多様性をもたらす

――植物工場の発展は、私たち消費者にとってどのようなメリットがありますか?

山田:農薬不使用であること、衛生的であることなどの価値は既に提供されており、消費者にも認知され始めています。将来的には、植物工場でしか生産できない品種が生まれるのではないでしょうか。栄養素が調整された作物を体調や健康状態によってチョイスできたり、災害に弱く栽培されなくなった作物が復活するなど、食の機能性や多様性に貢献できると考えています。

本多:天候の影響や気候の変化によって野菜の価格は大きく変動しますが、野菜が値上がりしたからといって、中食産業の方々はその分を値上げするわけにはいきません。作物を決まった価格で安定供給することは、一つの付加価値になります。安定供給へのニーズを満たすことで、一般消費者の方への貢献にもつながるのではないでしょうか。

栽培装置・Culture Machineから収穫され、トレイに並べられたレタス

Culture Machineから収穫された包装前のレタス。

――今後、植物工場を発展させ、食料生産の課題解決に貢献するために必要だと考えていることを教えてください。

山田:世界で植物工場が必要とされている中で、日本はそれに応える高い技術を現時点では持っています。そこで重要なのはスピード感ですね。世界中で植物工場の取り組みが活性化する中で日本の高い技術を世界に発信するためには、ベンチャー単体ではスピード感が足りないので、世界的な企業であるクボタさんと一体となって世界展開を進めていきたいです。

本多:プランテックスさんのシステムは現段階が完成形ではなく、これからさらに進化していくと期待しています。ハードウェアやソフトウェアの進歩、新しいレシピの開発に向けて、両社で協力していきたいですね。

編集後記

AIやIoTを駆使した従来の農業の発展型としてスマート農業が注目されていますが、植物工場は露地栽培とは異なる新たな食料生産の形として進化を遂げようとしています。その先には、露地栽培と植物工場が共存し、さまざまなニーズに応える作物が安定的に供給される、そんな未来が待っているのではないでしょうか。テクノロジーの力で安定した食料供給を目指し、一歩ずつ着実に前進しているプランテックスとクボタのオープンイノベーションの取り組みが、食料の安定供給につながる可能性を強く感じた取材となりました。

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