キャベツ畑の中に駐車したトラクタを囲む若い男性農家2名とクボタの女性社員1名

2020 . 12 . 23 / Wed

LIFE

農業人口増加の後押しを目指す!農機のシェアリングは新規就農者の救世主となるか!?

文・写真=クボタプレス編集部

クボタが農機シェアリングサービスの試験運用を開始したというニュースが飛び込んできたのは2020年4月のこと。欧米を中心に広がりを見せる「シェアリングエコノミー」という新しい経済の形は、日本でも自動車や住宅、オフィスなどのさまざまな領域で普及していますが、農業機械メーカーのクボタがなぜ今シェアリングビジネスに足を踏み入れようとしているのでしょうか。今回のクボタプレスでは、本サービスの事業化を目指している担当者やモニターとして参加している農家を取材し、新しい試みの可能性や意義に迫ります。

“農機をシェア利用してもらう”という新たな発想

日本の農業従事者の数は、高齢化や後継者不足に伴って減少傾向にあり、新規就農者を増やしていくことは喫緊の課題とされています。しかし、新規就農者が抱える悩みのひとつに「就農における資金調達」が挙げられ、特に農機購入費用の確保が大きなハードルとなっています。その解決策のひとつとして立案されたのが、新規就農者をメインターゲットとした農機シェアリングサービスであり、これにより農業人口増加の後押しを目指しています。

現在想定されている農機シェアリングサービスの仕組み

現在、クボタが想定している農機シェアリングサービスの仕組みを表した解説図版

本サービスは、クボタが貸し出す農機を協力農家(保管ユーザー)が保管・管理し、複数の農家(一般ユーザー)とシェア利用するというスキームで、現在一部地域での試験運用が行われています。「天候等に合わせて作業したい」「早朝や夜遅くに作業したい」というニーズを受け、1時間単位で24時間いつでも使いたい時だけ農機を利用できる仕組みとしており、利用者の不安を取り除くために、定期メンテナンスや利用中のトラブル対応はクボタの販売会社が担当するなど、農機を購入せずとも安心して利用できるサービスの実現を目指しています。

ほ場の隅に設置された簡易ガレージで保管されている、畝立て機が付いたクボタ製のトラクタ

クボタが貸し出す農機は、保管ユーザーの敷地内に設置されたガレージで保管され、専用アプリで予約が可能。試験運用での利用状況を深掘りしていく中で、利用者が使いやすく、人を介さない時間貸しとなりました。

「農機シェアリングサービスの構想は、イノベーションセンター設立当初の2019年6月から持っていました」と話すのは、本サービスの事業化を進めるイノベーションセンター ビジネスインキュベーション室の芝崎綾香さん。「就農時に必要な資金を少しでも下げられないかという想いから、クボタが貸し出す農機を数名の農家で共同利用してもらうという本サービスを企画し、2020年4月より一部地域で試験運用を始めました」。

クボタのポロシャツと帽子を着用したクボタの女性社員

芝崎綾香(しばさき あやか)さん。消費財メーカーを経て、2019年2月に入社。現在は、イノベーションセンター ビジネスインキュベーション室にて、新規就農の後押しとなる新たなソリューション開発に日々取り組まれています。

本サービスのスキームを検討する上で、イノベーションセンターは約300名の農家を対象としたアンケートを実施しています。「アンケートでは、4割を超える農家が農機のレンタルニーズをお持ちであり、特に新規就農者を中心にその要望が強いことが分かりました。さまざまな作業に利用できるトラクタのニーズが強いですが、新車は高額で手を出せないため、中古機の購入を検討したり、先輩農家などから借りるそうです。しかし、状態の良い中古機の数は少なく、先輩農家から借りる場合も、使用する時期が重なるなど、とても気を遣うそうです。私たちは、この『自分が必要なタイミングで農機を使いたい』という声に着目し、時間単位で利用できる仕組みを考えました。また、使った分だけ料金を支払うという料金体系であれば、新規就農時のハードルとなっている初期投資負担を下げることにもつながりますし、結果として1日に複数の人が1台で作業できるという効果も生まれます」と、芝崎さんは本サービスに対する自信を言葉にされました。

農家が感じる農機シェアリングサービスへの期待

では、実際の利用者である農家は本サービスにどのような期待を持っているのでしょうか。現在、岡山県瀬戸内市で農業をしながら、2020年9月からモニターとして参加されている二人の農家にお話を伺いました。

クボタプレス編集部の取材を受ける、農機シェアリングサービスのモニターとして参加している農家の川本圭悟さん

川本圭悟(かわもと けいご)さん。就農3年目。全国展開している惣菜店に勤務していたころから野菜作りに興味を持ち、大阪の農業資材販売会社を経て、2017年より妻の実家がある岡山県瀬戸内市牛窓町で就農。1haのほ場*1では、冬瓜、そうめん南瓜、キャベツ、白菜を育てられています。

クボタプレス編集部の取材を受ける、農機シェアリングサービスのモニターとして参加している農家見習いの和田祐也さん

和田祐也(わだ ゆうや)さん。岡山県内にある水処理事業の技術開発から設計・施工・メンテナンスまでを行う会社に勤務されていましたが、義祖父の畑を継ぐため昨年農業研修生に。2021年4月に独立し、冬瓜、キャベツ、白菜で就農予定。

*1 農作物を栽培するための場所のこと。


――まずはお二人の仕事の様子を聞かせください。

川本さん(以下、敬称略):就農して3年目になりますが、防除*2のタイミングや畝の立て方、種を植える深さなど、すべての作業で技術や経験の未熟さを感じています。たとえば、水撒きの際に風向きを読み誤ると、風に水が流されて均等に撒けません。私は県外からここ(岡山県瀬戸内市牛窓町)に移り住んで農業を始めましたが、困った時は研修先でお世話になったお師匠さんやベテラン農家さんにアドバイスを求めるようにしています。こうした農家同士のコミュニティに助けられながら、仕事をしています。

*2 農作物に悪影響を与える病害虫や雑草を防いだり、除くこと


和田さん(以下、敬称略):研修は順調ですが、いざ独立したときに同じようにできるかという不安はありますね。たとえば白菜は見栄えを整えるため、出荷前に専用の刃物で余計な外葉を切り落とすのですが、切り過ぎてしまうとランクを落として出荷しなくてはいけません。時々必要な外葉まで切り取ってしまうんです(笑)。また、私が1つ切る間に、先輩は4つ5つ進めていて、「まだまだだな」と実力の差を感じています。

――就農時に苦労されたことは何ですか?

川本:私の場合、離農される方からタイミングよく資材や農機を譲り受けましたが、それでも資金面ではとても苦労しました。研修中は国から給付金*3をもらえますが、その間は苗すら育てることができないので、独立して数か月は収入がありません。ですから、農機の購入検討はどうしても後回しになり、その分の手作業が増えるわけです。肥料散布にしても、例えば10aのほ場に対して、肥料100㎏や石灰100㎏、その他合わせて250kg程散布する必要があります。時間もかかるし、夏場はそれこそ大仕事です。やはり農機がなければ、時間的にも体力的にも効率的な作業はできません。就農前は農機がない状態で始めることを覚悟していましたが、実際に始めてみると大変なことばかり。自力での農作業に追われる日々の中で、改めて農機の存在の大きさを痛感しましたね。

*3 農業次世代人材投資資金


20㎏の肥料が入ったタンクを背負い、ほ場に肥料を散布する川本圭悟さん

手作業で肥料散布を行う川本さん。キャベツであれば8月に植え付けるものが多いため、猛暑の中で20㎏の肥料が入るタンクを背負って作業されるそう。

――今回はクボタの畝立て機が付いたトラクタをシェア利用されていますが、本サービスを利用して何か変化はありましたか?

川本:個人間での農機の貸し借りはよくありますが、他人のものを使うのはやはり気を遣います。その点で、シェアリングサービスは気持ちが楽でしたね。加えて、普段使っている手押しの畝立て機では畝の高さを均一にすることができません。移植機で苗を植えていく際に植える高さを調整する必要がありますが、畝立て機が付いたトラクタだとその手間がかからず、精度もスピードも効率も格段に上がりました。初期投資をすることなく農機を活用できるのは、とてもありがたいサービスだと思います。

畝立て機の付いたクボタ製のトラクタに乗り、笑顔で作業を行う川本圭悟さん

シェア農機を使った畝立て作業の様子。「畝立て機ならきれいな畝の成型が正確に、かつスピーディに行えてとても作業効率がいい!」と興奮を隠しきれない川本さん。

――就農時の資金面で苦労が伺える農業ですが、続けていくモチベーションや喜びはどこにあるのでしょうか?

川本:脱サラして始めた以上は前を向き続けたいし、収穫したときの喜びは何にも代えがたいもの。丹精込めて作った野菜がトラックに積み込まれる様子を見ながら、まるで親になったような気持ちで「行ってこいよ」と、いつも送り出しています(笑)

和田:同年代の農業従事者が増えていくことは、やはりうれしいですね。根底には、「私たちの世代で日本の農業を盛り上げていきたい」という想いがあるので、このシェアリングサービスが全国に普及していけば、資金の都合がつかず就農を諦める人も減り、農業の面白さをみんなで共有できるようになるのではないかと期待しています。

満面の笑みで取材に応じる川本圭悟さんと和田祐也さん

早く一人前の農家になって、自分たちが暮らす土地に恩返しがしたいと語る川本さんと和田さん。

農機シェアリングサービスが見据える未来の農業の姿

本サービスは2021年の事業化を目指して試験運用が続けられていますが、すでに課題も見えているそう。「24時間いつでも農機を利用いただくため、ほ場と保管場所の間の農機の移動は利用者自身に行っていただく仕組みとしていますが、新規就農者の多くは農機運搬可能なトラックをお持ちでないため、『自走』での移動が主となります。このため最大の課題は、自走できる範囲となる拠点から半径3㎞程度のエリアにどれだけ多くの利用者を集められるかです」と芝崎さん。そこでイノベーションセンターが次の打ち手として検討しているのが、自治体との連携です。

「どの自治体も新規就農者支援に積極的ですが、同じく新規就農時のハードルをいかに下げるかという課題を抱えています。新規就農者が必要とする耕作農地や住居の手配を自治体が行い、クボタが農機シェアリングサービスを提供する、といった役割分担をすることで、スムーズに農業が始められるような仕組みが作れないだろうかと模索しています。さらに言えば、インターネットの技術で農業のノウハウや販路などのさまざまなデータを集約した“インキュベーションパーク”のようなトータルソリューションの実現も視野に入れています」と、将来の展望を語ってくださいました。

畝立て機の付いたクボタ製のトラクタできれいに成形されたキャベツ畑

畝立て機の付いたトラクタできれいに成形されたキャベツ畑。経験や勘に頼ることなく、誰もが簡単に農作業が行えるよう、クボタはさまざまなソリューションで支援していくことを目指しています。

編集後記

広大なほ場で米を作る農家もいれば、兼業で農業をされている方もいます。最近では、農業にもIT技術が取り入れられ、就農の形態が農家のスタイルや生き方に合わせてどんどん多様化しています。今回取材をした農機シェアリングサービスもこうした背景から着想を得て進められており、特に新規就農者にとって重要な選択肢となり得る可能性を感じました。

日本でもシェアリングエコノミーが普及し、人々が物の所有にこだわらなくなってきた社会的な流れは、農業機械にもきっと来るはずです。クボタプレス編集部は、クボタの新たな挑戦が、新規就農者の救世主になることを願ってやみません。

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