アスバラガスを栽培しているビニールハウスの中で微笑む萩本誠晃さん

2021 . 12 . 10 / Fri

LIFE

クボタやスタートアップなど6社が参画する実証実験が開始 AIとロボット技術によるスマート化で
ハウス栽培は新たなステージへ

写真・文:クボタプレス編集部

農業のスマート化を推進しているクボタは2021年7月、ハウス栽培のスマート化に向けた実証実験を開始しました。

この実証実験には、クボタ、関東甲信クボタ、スタートアップ企業など6社が参画。各社が保有するロボット技術やAIを活用したソリューションを組み合わせ、アスパラガス栽培を自動化するとともに、各ソリューションが収集するデータを相互利活用することにより、各栽培工程を通じた栽培の最適化をめざします。

今回のクボタプレスでは、クボタのオープンイノベーションを推進するイノベーションセンターでこの実証実験に取り組む担当者に取材し、ハウス栽培のスマート化によって生み出される新しい価値に迫ります。

クボタが捉えたハウス栽培の現場にあるニーズ

ビニールハウスやガラスハウスの中で、野菜や果樹、花き(観賞用の植物)などを育てるハウス栽培。天候や気温、害虫の影響を受けにくく、一般的な露地栽培に比べると収穫量や品質を安定させやすいというメリットがあります。

アスパラガスのハウス栽培を例に「ハウス栽培で安定した品質・収穫量を実現する上で大変な作業のひとつは収穫です」と話すのは、クボタが展開する農園のひとつ「おれん家(ぢ)農園」を運営する関東甲信クボタの深石浄治さん。「5月から8月まで続く収穫期には、適切な長さに育ったアスパラガスを手作業で毎日収穫しなくてはいけないので、非常に負担が大きくなります。作業を行う人手を確保することも大変です」と、深石さんは実感をもって語ります。

アスバラガスを栽培するビニールハウスの中で、ハウス栽培について語る深石浄治さん

深石浄治(ふかいし じょうじ)さん。1都9県で農家をサポートする関東甲信クボタで常務を務めるほか、おれん家農園の責任者として管理・運用を担われています。

このように、ハウス栽培は農作業の軽労化や栽培の最適化が強く求められています。農業のトータルソリューションカンパニーをめざすクボタはこの課題を解消し、新しい価値を提供するために、スタートアップなどと連携してハウス栽培のスマート化実現に取り組んでいます。

施設野菜作(ハウス栽培)の10aあたりの所得と労働時間

  粗収益
(千円)
農業経営費
(千円)
所得
(千円)
労働時間
(時間)
施設野菜作 1,136 679 456 345
露地野菜作 425 252 173 184
果樹作 545 324 221 218
稲作 134 113 21 41

農林水産省「施設園芸をめぐる情勢」(2021年4月)より。ハウス栽培は露地栽培などと比較して単位面積あたりの粗収益が高いものの、労働時間が非常に長いことがわかります。

スマート化でめざす新たなハウス栽培の形

では、今回の実証実験でめざすスマート化されたハウス栽培とはどのようなものなのでしょうか。この取り組みを担当する、クボタ イノベーションセンター ビジネスインキュベーション部の萩本誠晃さんにお話を伺いました。

ハウス栽培のスマート化実現のための3段階

――ハウス栽培のスマート化に取り組んだ背景を教えてください。

「理由は主に2つあります。1点目は、『ハウス栽培における人手依存度の高さ』です。水稲などに比べ、多様な作物に対してさまざまな作業が必要になる施設園芸分野は機械化・自動化が進んでおらず、栽培の効率を上げる余地が多く残っています。2点目は、『ハウス栽培に挑戦される新規就農者の方が多い』ことです。始めたばかりの方でも大きな負担なく農業を続けるために、より効率的に作物を育てられる管理・効率化システムが求められています」

ビニールハウスの中でハウス栽培のスマート化について語る萩本誠晃さん

萩本誠晃(はぎもと のぶあき)さん。コンサルタントやベンチャーキャピタルのインベストメントマネージャーを経て、2020年3月にクボタへ入社。現在、イノベーションセンター ビジネスインキュベーション部 アグリビジネス企画室 企画第一課で、農業の効率化・省力化・環境負荷低減ソリューションに関する新規事業企画を担当されています。

――今回の実証実験を通じて、どのような管理・効率化システムを確立したいと考えていますか?

「国内の施設園芸面積の約97%は、複合環境制御装置を導入していないごく一般的なパイプハウスで栽培を行っています。このような農家さんであっても、気軽にご自身のハウスのスマート化に取り組み、農作業の軽労化と栽培全体の最適化を狙えるトータルソリューションの確立をめざしています」

――ハウス栽培のスマート化実現のために必要なポイントは何ですか?

「ハウス栽培のスマート化には3つのアプローチがあると考えています。1つ目は、自律型の作業ロボット等の導入による『作業の自動化・省人化』です。2つ目は、さまざまなセンサーやロボットの稼働履歴等で取得した情報を共有できる形にする『栽培情報のデジタル化』です。3つ目は、ソリューション間での『データの活用』ですね。これらを通じて栽培の効率化と最適化を図ります。例えば、土壌センサーなど環境データを活用して制御していた潅水施肥*1システムに対し、収穫ロボットが取得した収穫量という栽培のアウトカムに関するデータをフィードバックさせることで、より効果的な潅水施肥ができるようになると考えています」

*1 作物に水、肥料を与えること。


――その中でクボタが取り組んでいることは何ですか?

「『栽培情報のデジタル化』『データの活用』には、ソリューション間でデータを共有し、フィードバックするためのデータ交換プラットフォームとなる管理・効率化システムの構築が必要です。その役割をクボタが担っています。参画企業とともに、各ソリューションのデータを適切かつ相互に利活用できる環境づくりを推進しています」

――このスマート化を実現するためには、スタートアップを含む各社の技術やソリューションが大きな役割を果たすのですね。

「はい。クボタだけでできることにも限りがありますので、最先端技術を持つスタートアップ企業や研究機関等の力をお借りし、ソリューションを組み合わせてハウス栽培のスマート化を実現していこうとしています」

実証実験の概要イメージ

ロボットやセンサーから取得したデータが「管理・効率化システム」に集約されます。本システムは集められたデータを基に、最適な作業指示や生産計画などを提示します。

潅水施肥制御システム 

ビニールハウスの中に設置された潅水施肥制御システム

モニタリングカメラ

ビニールハウスの天井に設置され、アスバラガスの生育をモニタリングするカメラ

ほ場*2に集めたソリューションからさまざまなデータを取得し、連携させることで、各ソリューションの制御精度を向上させます。

*2 農作物を育てる田畑や農園。


――実証実験に参画しているパートナー企業はどのように選ばれましたか?

「ハウス栽培の各工程における自動化ソリューションをお持ちの企業に対し個々に参画を打診し、我々の取り組み内容に賛同いただいた企業にご参画いただきました。以前からつながりのあった企業だけでなく、新たな企業にもお声掛けさせていただきました」

参画企業と主な役割

企業名 主な役割 
inaho  収穫作業の自動化・効率化
オプティム 栽培している作物のモニタリング実施およびデータの解析や生育状態推定AIモデルの構築
ルートレック・ネットワークス 潅水施肥作業の自動化・効率化、肥料の使用量低減
レグミン 防除作業の自動化・効率化、農薬の使用量低減
関東甲信クボタ 栽培管理全般
クボタ データの相互利活用環境の構築

――参画企業間ではどのようなコミュニケーションが行われていますか?

「ハウス内に設置したカメラでアスパラガスを撮影する際、何秒に1回撮影するかといった実務的な話もあれば、将来的に実現したい栽培のスマート化のビジョンに関する話など、毎日のように電話やメールなどでコミュニケーションを取っています。熱量が高く、情報が日々アップデートされて、実証実験が着実に前進していることを実感しています」

通常のほ場よりも畝と畝の間が広くなっているKubota Incubation Farm内の様子
Kubota Incubation Farmの畝で育つアスバラガス

実証実験が行われている「Kubota Incubation Farm」は、ロボットが作業できるように通常のほ場よりも畝と畝の間が広くなっています。定植する株数は減りますが、栽培を最適化することで従来のほ場設計と同等以上の収穫量を見込んでいるとのこと。なお、栽培1年目は光合成を促進させ、地下茎に栄養を蓄えるために、あえて密植状態にしています。

――最後に、今後の展望を教えてください。

「より多くの農家さんにハウス栽培のスマート化を実感していただくために、アスパラガスのみではなく、生産量の多いその他の作物にも取り組んでいきたいです。また、現在カバーできていない農作業の自動化やデジタル化についても推進していく必要があると考えています。ハウス栽培のスマート化ソリューションを持つスタートアップ企業や研究機関などとの新たな連携も模索していきたいですね」

Kubota Incubation Farmの前で立つ萩本誠晃さん

「ハウス栽培のスマート化を通じて、日本の農業に貢献していくことが我々の役割です」と萩本さん。その挑戦は始まったばかりです。

編集後記

萩本さんは取材中、とあるハウス農家のスマート化事例を話してくださいました。その農家は潅水に強いこだわりを持ち、以前は毎日自らバルブを調整して潅水をされていたそうです。「『作業が自動化されたことで、毎日自分で潅水することがなくなり、妻と久しぶりに旅行に行けたんだよ』とうれしそうに話された姿を見て、スマート化ってこういうことだなと実感したんです」と萩本さん。スマート化によって、農家の皆さんの農作業や暮らしに少しでも貢献したいという思いが、ひしひしと伝わってくる取材でした。取り組みはまだ始まったばかりですが、ハウス栽培で始まりつつあるスマート化の流れが農業のあり方を変え、ゆくゆくは日本の食を支えるソリューションになっていくことを期待しています。

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