GLOBAL INDEX
December 2018

FEATURE
"Sultanate of Oman"

06

液中膜が水を再生する
~中東地域最大のMBR下水処理場~

(左)下水処理場運営責任者 ルエル氏
(右)クボタメンブレンヨーロッパLTD. (KME) 取締役 坂山 英彦

エンドユーザーへの直接アプローチ
徹底したサポート・スタンス

(株)クボタ
膜システム部 技術グループ
柴田 敏行

本来、クボタにとって直接の顧客となるのはエンジニアリング会社。エンジニアリング会社はハヤ・ウォーターのようなプロジェクトの運営主体から工事全体を丸ごと受注し、施設の設計から必要な部材の調達、そして仕様通りに建設することを生業とする。したがって、クボタの営業の対象はエンジニアリング会社であり、クボタの液中膜の優位性を訴求し、プロジェクトへその採用を働きかけていくというものだ。有望市場であるここ中東でも、Ⅰ期工事においては、同様の営業スタイルで受注にこぎつけた。しかし、今回のⅡ期工事ではアプローチを変え、新たな営業スタイルでプロジェクトに臨んだ。それは、すでに稼働している下水処理施設の諸課題に正面から向き合い、エンドユーザーを徹底してサポートするというスタイルだった。

「従来、アフターサポートを行う際は、現地パートナー企業であるエンジニアリング会社を介して、エンドユーザーにアプローチするというものでした。しかし今回は、エンドユーザーであるハヤ・ウォーターに直接アプローチする方法で臨みました。ハヤ・ウォーターはクボタにとって将来的な展開が見込める重要な顧客です。さらにMBRに関しては、エンジニアリング企業よりも我々の方がノウハウを持っているという自負がありました。Ⅰ期工事後、さらなる受注を確実なものにするために、万全な状態での稼働実現に向け、社内の関係部門を挙げて全力でサポートしました。それがハヤ・ウォーターから確かな信頼を得ることにつながっていったと思います」(坂山)

営業担当である坂山とともに、技術担当としてアフターサポートを直接担当したのが、膜システム部技術グループの柴田敏行だ。稼働の2年後、2012年頃から断続的にマスカット入りし、技術面からサポートを継続してきた。

「膜の適切な使い方、運転方法の指導、最適なメンテナンス方法など、クボタの膜をまずは十分に理解してもらうことに力を注ぎました。液中膜というのはその性格上、使い方や運転方法が、安定稼働や耐久性に大きく影響します。さらに現場で発生する様々な問題に対してもこまやかに対応するなど、文字通りハヤ・ウォーターに寄り添ってサポートを続け、良好な関係構築に取り組みました。たとえば、処理量が大きく低下したときのこと。その原因は膜由来でない外部要因でしたが、綿密な調査報告と共に適切な膜洗浄方法を提案。そうした地道な活動が信頼感を醸成していったのだと感じています」(柴田)

エンドユーザーに直接アプローチして徹底してサポートする、その決断と実践がⅡ期工事受注に向けた導線となり、競合と差別化を図る大きなポイントになった。

クボタの膜がフル稼働する膜分離槽

既存施設を最大限に利用建設
コストと工期を圧縮

やがて具体的なⅡ期工事の提案時期が訪れた。坂山らの提案は、既設8水槽を活用し処理能力の高い液中膜(サイズアップした液中膜)に置換するというもの。これによって、新たな施設増設も最小限に抑えられ(水槽4基のみ新設)、工事スピードも短縮化できることから大幅なコストダウンを図ることも可能になる。

2015年秋、Ⅱ期工事を無事受注した。その後始まった工事は、決して安易なものではなかった。液中膜の置換というのは、下水処理を継続しつつ行われるものであり、施設の運転は止められない。緻密な段取りと手順を組み立て、液中膜製造部門や工事部門を含めた社内関係者を巻き込み、工事は着実に進められていった。クボタの液中膜を採用した理由を前出のマハムード氏は次のように語る。

「競合する膜メーカーと比較して、クボタの液中膜は強靭であり高い耐久性があります。さらに洗浄の容易さなどの取り扱いにも他社製品以上のメリットがありました。これら製品自体の優位性に加え、コストを最小限に抑えた膜置換計画も高く評価しています。受注後の工事も、稼働している下水処理への影響を極小化するなど、細部にわたって私たちのニーズに応えてくれました。このように、クボタのサポートは受注の前後を問わず素晴らしいものがありました。課題があればすぐに飛んで来てくれる、スペシャリストを送り込んでくれる。私にしてみれば、クボタのスタッフはハヤ・ウォーターの一員のようなもの。心から感謝しています」

マハムード氏の実感はハヤ・ウォーターの社員も共有している。下水処理場の運営責任者であるルエル氏(Head of STP & PUMP STATIONS・Ruel B.Tumimbang)も同様のことを口にした。

「クボタのテクニカルサポート、テクニカルソリューション、その対応に非常に満足しています。今後、プラントが稼働する限り、緊密な関係を継続してほしいと思っています。MBRという優れたテクノロジーをオマーン全体に拡大していく、そのサポート役としても期待しています」

微生物による生物処理と膜による固液分離処理を組み合わせた中東最大のMBR下水処理場
微生物による生物処理と膜による固液分離処理を組み合わせた中東最大のMBR下水処理場

クボタの知見、ノウハウを総動員
世界の水問題解決に向けて

2016年初頭から始まったⅡ期工事は2018年5月に完工し稼働を開始。下水処理量は既存の一日5.7万㎥から12.5万㎥へ大幅に拡大、これによってアルアンサブ下水処理場は、中東地域のMBRとしては、最大規模の処理能力を有することになった。一方で課題もある。処理水の活用法だ。現在、処理水の60%が植栽への散水に利用され、残りは海に放流されている。単に下水を処理するのではなく、処理水が有効利用されることで、初めて水資源の再生による水問題解決の道が開けてくる。限りある水資源の有効活用、その今後の展望をマハムード氏に聞いた。

「40%を海に捨てていること。それは本当にもったいないことです。今後、農業用水をはじめ、スポーツ施設への散水、ビルの冷却補充水、道路工事用水など、多方面に活用していく考えです。下水の再利用には、国民の心理的障壁も少なくなく、他にもクリアすべき課題はありますが、近い将来、処理水100%の再利用実現に向けてアクションを起こしていく考えです」

坂山はこれまでのプロジェクトを振り返って、「自分にとって特別なプロジェクトだった」という。

「クボタの膜ビジネスにおいて、持っている知見、ノウハウを総動員することで受注につながったプロジェクトであり、クボタが持つリソースを引き出すために、社内を動かし巻き込んで作り上げたという大きな手応えのあったプロジェクトでした。今後は膜販売ビジネスから一歩出て、プラントも含めたより大きな視野で展開することを考えていきたいと思っています」(坂山)

柴田は現在も現地訪問による定期的なサポート業務を続けている。

「日本の場合、環境保全の観点から下水をきれいな水にして海や川に放流していますが、海外では再利用のニーズが高い。再利用を可能とすることが、水ストレスを解決していくことにつながると思います。その実現のために、クボタの液中膜は極めて有効であり、そのことを世界の水ストレスがある地域の人たちに理解してほしいと思っています」(柴田)

今回のプロジェクトに導入したMBRは、水不足解消のためのキーテクノロジーであることは間違いない。今後MBRが世界中で広まることが期待される中、クボタは液中膜の提供をはじめとした技術、ノウハウをフルに駆使して、世界の水問題に取り組んでいく考えだ。

再生された水は、公園などの植物のための散水に利用される