世界屈指の成長都市その原動力となるもの
ジャカルタは、世界屈指の成長都市といわれるが、実際に訪れてみると、想像以上の熱気と活気に満ち溢れた、しかも大都会だった。主要な大通りのタムリン通り・スディルマン通りには、外資系企業の超高層ビルや、世界最先端の流行を取り入れた高級デパート・ホテルが林立し、さらにスターバックス、マクドナルド、セブンイレブンなどお馴染みの店が至る所に立ち並び、まるで日本の都市部にいるような感覚だ。鉄道駅に立ち寄れば、自動改札が完備され、構内にはATMや携帯充電スポットまである。映画館に行けば、オンラインチケット制なのだ。日本と違う点として、交通渋滞だけは指摘しなければならない。空港から市街まで35kmの距離を、車なら2時間は必要とする。そこでバイクの登場だ。そこら中にバイクが氾濫する様は、もはやジャカルタの風物詩である。よくよく見ると、自動車もバイクも、そのほとんどが日本製なのだが。
激しい交通量に加えて、ジャカルタの熱気と活気を感じさせるのは、何よりも「人の多さ」かもしれない。その人口、約950万人。さらに全国から毎年、仕事とチャンスを求めて、ものすごい数の人口が流入しているのである。急激な都市化に、インフラ整備が追いつかない。渋滞問題、住宅問題、労働問題……変貌を遂げるジャカルタには、未解決の課題も多い。
環境問題もその一例である。高度経済成長期ゆえに、工場の新設ラッシュがやみそうもない。その産業廃棄物や排水が街を汚し、特に河川への影響は甚大である。さらに、飲み水の問題もある。ジャカルタの水道水は水質が悪く、現地の人でも飲めないのだ。そこで、ミネラルウォーターを飲むか、地下水を汲み上げているのだが、地盤沈下が大問題になっている。
それでも、ジャカルタの成長は止まらない。激増する人口。地方からだけでなく、海外移住者をものみ込んで、グローバル市場の一角を形成しつつある。この成長の原動力となっているのは、日夜続々と集まってくる、明日を夢見る若者たちに他ならない。
都市に集まる若者たちと多様化する食生活
活力源は「コメ」の存在
都市部に集まる若い労働力は、どこからやってくるのだろうか。インドネシアが高度経済成長を迎える前の2000年代前半、同国の労働人口の約40~50%は農業従事者
※1だった。つまり、国民の2人に1人は農家というほど、農業は基幹産業だったのだ。工業化が進む現在、農村部から都市部へ人口が流入し、その多くは製造業や通信業、サービス業に就いている
※2。
若者たちのライフスタイルが多様化するにつれ、「食生活」も変化してきた。全人口の約90%がコメを主食とする同国において、若者たちの間ではインスタント麺やパン、シリアルなどもとられるようになった。食生活の変化は、農産物の変化をもたらす。パン食は小麦生産を、肉食は肥料用の大豆・トウモロコシ生産を促す。2012年に制定された新食料法では、主要5品目に「コメ、トウモロコシ、牛肉、砂糖、大豆」を位置づけ、増産と自給率向上を推進する方針
※3である。
しかし、である。若者たちの食生活を取材する中で見えてきたことは、いまだ活力源としての「コメ」の存在だった。彼らにとって、パンやシリアルは、まだ食事ではない。おやつなのである。「3度の食事は、やっぱりコメです。コメを食べないと食事をとった気がしないので」と現地で出会った大学生も語ってくれた。新食料法においても、やはり最重要品目はコメである。米国農務省推計による同国のコメの国内消費量(精米ベース)を見ても、2001/02年度の3,638万トンから2011/12年度の3,955万トンまで、一向に減少していないのだ。ファストフード店で「ライス」が販売されているのも、この国の強いアイデンティティの発露のようにも思える。
インドネシアではごはんをフォークとスプーンで食べるのが一般的なマナー。
世界屈指の成長都市を支えているのが若者たちとすれば、その活力源となる「コメ」の存在は、もう一つの原動力といえるだろう。かつて基幹産業だったこの国の農業。若者離れに悩む農村部。そんなステレオタイプな見方でこの国の農業を語れるだろうか? それを調べるため、農村部へと取材を続けよう。
※1 出所:インドネシア中央統計庁
※2 出所:インドネシア中央統計庁
※3 出所:農林水産省資料
Column
自動販売機でインドネシアに飲料革命を起こす
P.T. Metec Semarang
ジャカルタ市街でも、まず見かけることが少ない自動販売機。徐々にではあるが、大学や、空港、駅などに置かれ始めたらしいが……。このプロジェクトを推進する、クボタの海外拠点・P.T. Metec Semarang※の山西敏光さんに話を聞いた。 「インドネシアの飲料といえば、紅茶やコーヒー、炭酸飲料、フルーツジュースが主流です。街中の至る所に露店が存在するこの国では、これまで自販機はまったく普及しておりませんでした。当社は、主に日本国内向けの自販機製造拠点ですが、新しいチャレンジとして、インドネシアでの普及作戦を開始したのです。試験的にある大学のキャンパスに置いたら、売り切れが続出しまして」と顔をほころばす。
ユーザーに聞くと、「自販機は便利だが、値段が高い」、「おつりが出るようにして」など要望が挙げられたが、まだ自販機の使い方も知らない人が大半という市場。水問題に課題を抱える同国だけに、受け入れられれば爆発的にヒットする可能性のあるビジネスといえる。
※ P.T. Metec Semarang:インドネシアにあるクボタの関係会社。自動販売機および同部品の委託製造を行っている。