GLOBAL INDEX
March 2014

FEATURE
"INDONESIA"

01

ASEANの盟主、
その覚醒を支える農業革新
インドネシア

高層ビル群から少し道を入れば昔ながらの民家が立ち並んでいる。急激な都市化とのコントラストが、いかにもジャカルタらしい。

不況に苦しむ先進国もなんのその、東南アジア諸国は過激なまでに成長を止めない。
中でも、一際眩しい光を放つのがインドネシアだ。豊富な賦存資源と労働力を背景に、急上昇する経済成長率。
元来は温厚な国民性の中に、果敢な挑戦精神が不思議に融合し、いま首都・ジャカルタは経済的にも「熱帯エリア」だ。
今回の特集では、同国の成長の主役を担うであろう、都市部の若者の生活に迫った。その実像から導き出されたものは、活力の源となる「コメ」の存在。 この国の躍進を土台から支える「農業」に、実は異変が起きていた?

桁外れの民族数、言語数、溢れる人口……キーワードは「多様性の中の統一」

東南アジア最大の国土面積を誇る国、それがインドネシアだ。約189万km2は日本のおよそ5倍、世界第15位にランクされる。中でも一番の特徴は、世界最大の島国国家であること。主な島としてジャワ島、スマトラ島、カリマンタン島、スラウェシ島、バリ島などは有名なところだが、小島まで含めれば、実に1万数千の島嶼からなる超多民族国家なのだ。ジャワ人、スンダ人など約300の民族が一つの国に暮らし、300を超える言語が存在する ※1といわれる。人口は約2億4,000万人(世界第4位)。そのうちおよそ60%がジャワ島に集中している ※2

この豊富な労働人口が、近年のインドネシアの経済的躍進の原動力となっている。2007年以降、経済成長率は6%台を続伸(2009年のみ世界金融・経済危機の影響で4.6%)しており、一人当たりGDPも2011年には3,000ドルの大台を突破した ※3。同時期の日本の経済成長率は1~2%だ。インドネシアは東南アジア諸国連合(ASEAN)の盟主であり、その本部はジャカルタに所在。発展著しい東南アジアの名実ともにリーダー国なのである。同国は2011年、「経済開発加速・拡大マスタープラン」を発表。2025年までに名目GDPを2010年比で約6倍に増加させることで、世界の10大経済大国となる目標を高らかに掲げたところだ ※4

文法がシンプルなインドネシア語では、料理名もナシゴレン(NASI=ごはん+GORENG=炒める)(左)や、ミーゴレン(MIE=麺+GORENG)(右)などと単語をつないだものが多くわかりやすい。

インドネシアに豊富なものは、労働力だけではない。その天然資源の豊富さも大きな強みだ。石油・天然ガスをはじめ、金属・鉱物資源など、その埋蔵量は世界有数である。資源・エネルギーの9割以上を輸入に頼る日本にとっては、まことにうらやましい話だ。ただ、同国は近年のエネルギー使用量の増加に伴い、2004年以降は石油の輸出国から輸入国に転じている ※5。現在では、地熱など再生可能エネルギー開発が積極的に行われ、多くの日本企業が参入している。

「一つ山を越えれば、言葉が通じない」といわれるほど、多くの民族が混在していたインドネシアを、単一国にまとめあげたのが公用語としてのインドネシア語の存在だ。300を超える民族が共通に使えるよう、独立当時(1945年)のスカルノ大統領は、使用人口は多いが難解なジャワ語ではなく、最も文法のシンプルだったスマトラ島の商用言語を、大胆にも国語として採用したのだ。この決断は、建国理念の一つの具現化であったろう。「多様性の中の統一」。これはいまでもインドネシアの国家標語となっている。

※1 出所:外務省資料より
※2 出所:インドネシア中央統計庁
※3 出所:インドネシア中央統計庁
※4 出所:外務省HP「インドネシア基礎データ」
※5 出所:JETRO資料より

日本人も脱帽するオドロキのコメ文化?

インドネシア料理に香辛料は欠かせない。市場では唐辛子だけでも複数種売られている。

インドネシアは世界有数の農業国でもある。農林水産業がGDPの約15% ※6、労働人口の約4割 ※7を占めている。農産物は、パーム油、ゴム、コメ、ココア、キャッサバ、コーヒー豆などが主なところ。その生産量は、例えばパーム油では世界第1位、天然ゴムはタイに次ぐ世界第2位 ※8であり、原料供給面から世界の産業の発展に大きく寄与している国である。

コメの生産量は、2011年が約6,600万トン ※9。中国、インドに次ぐ世界第3位である。同年の日本の生産量は約850万トン(世界第11位)であるから、インドネシアにとって、コメがいかに重要な農産物かわかるだろう。レストランで注意深く観察すると、ほぼ10割の客がライスを注文している。それも毎食だ。インドネシアの基本的な食事は、コメとおかず(魚、鶏肉を焼くか揚げたもの)、野菜、麺、卵、テンペ(日本では「インドネシアの納豆」とも呼ばれる大豆の発酵食品)といえるが、驚くのはファストフード店に行ったときのこと。マクドナルドやケンタッキーフライドチキンなど、日本人にもお馴染みの店が人気を博しているが、何とここでもライスが販売されているのだ。インドネシア人にとって、ハンバーガーとライスを一緒に注文したり、朝マックでお粥を食べることは、不自然ではないという。それほど米食信仰が根付いているのだ。同じコメを主食とする日本人も、脱帽せざるを得ない。

さらに、である。同国が2012年に公布した新食料法によれば、コメを増産するという。2011年、備蓄用ではあるが200万トンのコメを輸入した。そこで、国を挙げてコメの自給率向上に本腰を入れる ※10ことになるのだが、この政策が農業に与えるインパクトは大きかった。特集記事p.06~09では、農家の暮らしぶりの変化を追っている。

※6 出所:農林水産省HP「インドネシアの農林水産業概況」
※7 出所:インドネシア中央統計庁
※8 出所:FAO統計
※9 出所:農林水産省資料
※10 出所:農林水産省資料

Living in Indonesia

インドネシア暮らしの基礎知識

「若者」「コメ」が生み出すインドネシアの熱気。そんなインドネシアで生活/旅するために知っておきたい基礎知識をここでは、現地の物価とあわせて紹介します。
※ 「ルピア」ではなく「円」で表記:100ルピア=1円で換算

気候

インドネシアは赤道直下の熱帯性気候のため、乾期と雨期がある。5~10月が乾期で、11~4月が雨期とされる。雨期は一時的にスコールのような大雨が降り、湿度が高く、乾期に比べると過ごしにくい。ジャカルタの平均気温は、年間一定して30℃前後である。

断食

世界最大のイスラム教徒を抱えるインドネシアでは、毎年1回、1ヵ月間の断食(ラマダン)がある。この間、日の出ている時間には食事はおろか水を飲むことも許されない。断食が明けると、レバランが盛大に催され、インドネシア人は1週間~10日前後、会社も学校も休みとなる。

ファストフード

インドネシアではハンバーガー屋にフライドチキンとライスのセットが販売されている。
ハンバーガー:150~220円
ポテト(レギュラー):60円
ドリンク:90~100円
フライドチキン:200~240円
ライス(レギュラー):35円

食材

ジャカルタのショッピングセンターでは、日本人にお馴染みの食材や、日本食品も数多く取り揃えている。
お米:一般的なブランドで100円(1kg)、ブランド米で200円(1kg)
お水:家庭用では19リットル入りボトルが最も普及。150円程度
カップラーメン:30~100円
野菜:トマト、人参、キャベツ、ナス、大根、その他果物など、日本にあるものは大抵揃う。値段は50~300円程度。オーガニック製品はさらに高価になる。
ビール:中瓶(660ml)が260円程度