GLOBAL INDEX
March 2014

FEATURE
"INDONESIA"

03

Life in Farming Village
[インドネシア
農村部の生活]

タマングン県プリンスラの棚田の風景。ジャワ島は、インドネシア最大の米の産地だ。

インドネシアのコメの生産量は世界第3位。それでも自給が追いつかず、コメの輸入に踏み切るほどの、世界屈指のコメ消費大国だ。 同国では現在、豊富な労働人口のうち、実に約35%が農林水産業に従事している ※1。 また、コメやキャッサバ、トウモロコシをはじめとする主要食用作物生産量のうち、コメは約60%を占める ※2最重要品目である。 しかし近年、工業化による産業構造の変化により、同国の農業人口が減少しているのは前述の通りだ。その一方で、農家の年間所得が、ここ数年で倍増しているともいう。

この国の躍進を土台から支える「農業」に、いま何が起きているのか? その実態を探りに、中部ジャワの古都・ソロ近郊の稲作農家を訪ねた。

※1 出所:インドネシア中央統計庁
※2 出所:インドネシア中央統計庁データより集計

コメ消費大国 インドネシアの農業事情

インドネシアは大小さまざまな島から構成されていることも要因とされる多様な土地条件から、農作物も多彩なものとなっている。
コメ、キャッサバ、トウモロコシなどが主要作物であるインドネシアの農業事情を見てみよう。

● 農林水産業のGDP割合(2011年)

経済が堅調な成長を見せているインドネシアの中でも、農林水産業は製造業(24%)についでGDPの割合を占める重要な産業といえる。

● 主要食用作物生産量(2011年)

主要食用作物ではインドネシアにおいてコメの生産が圧倒的に多く、ジャワ、スマトラの2島で全体の約8割を生産している。

● 農林水産業従事者の推移と労働人口における割合(2004-2013年)

世界第4位を誇る人口大国のインドネシアの中で、都市部への人口流出により農林水産業従事者の数・割合は減少傾向にあるが、それでも労働人口の1/3を占めている。

インドネシアの“クボタ”が豊かな暮らしを生む

ジャワ島中央部に位置し、ジャワ島最大の川「ソロ川」のほとりにある古都・ソロから車で1時間、カランガンヤール県で稲作農業を営むスカンディーさん(42歳)の一家を訪ねた。同県は、灌漑が進んでいるため、コメの生産に絶好の土地といわれる。また、瓦が名産の街としても知られる。

スカンディーさんがこの地で、農業を始めたのは12年前という。それまでは仕事がなかった。結婚を機に、代々この地で農業を営む両親から土地を譲ってもらい、始めたのが農業という。スカンディーさん、30歳のときだ。

インドネシアの農業は、水牛で農地を耕し、手植え・手刈りによって行う場合もあり、大変な重労働と考えられていた。スカンディーさんが当時を振り返る。

「農業を始めた頃は、2ヘクタールの土地を耕すのに、水牛2頭を使い、耕うんするだけで1カ月はかかりました。そのため、通年で2期作が限界でした。コメを作り続けることで、土地が痩せるのを防ぐための肥料の入手や、害虫による収穫減など、困難は多かったです」。

一家だんらんの食卓の風景。都会では失いかけた、心の豊かさと家族の絆がある。

そんなスカンディーさんの生活を一変させたのが、5年前に購入した耕うん機だという。「“クボタ”(現地の人は耕うん機のことを通称で“クボタ”と呼ぶ)を購入してからというもの、耕うん作業が2~3日で行えるようになりました。それによって、2期作だったものが、現在では3期作になっています。この手間の省けようは大変なものですよ!」 聞くところ、これにより収穫量は18トン増えたという。

メインビジネスの農業のほか、副業として肥料販売や瓦づくりも営んでいるスカンディーさん。耕うん機を導入したこともあり、収入は実に日本の一般的な会社員にも決してひけをとることはないという。暮らしぶりは変わりましたかと尋ねると、自動車も購入できたし、子どもにバイクも買ってあげたし、妻には宝石を買ってあげたと笑顔で答えてくれた。1年前に2台目の“クボタ”も購入し、また農地も増やし、これからさらに拡大していくという。若者の農業離れもなんのその、スカンディーさんはずっと農業を続けていきたいと胸を張る。

農業ブーム再燃で多様化する農業形態

農家の人手不足を補っているのが耕うん機だ。重労働を代替しながら、同時に生産性向上も実現している。そのため、同国でいま爆発的なヒット商品となっているのだ。

耕うん機普及の背景には、さまざまな要因が考えられる。まず、インドネシアの経済成長による、一人当たりGDPの向上だ。一般的に3,500ドルを超えると、耐久消費材の普及が進むといわれる。同国は2012年に3,500ドルを超えた ※1ところだ。さらに、新食料法による一連の農業保護施策が、農家の所得向上につながっている。籾の買い取り価格が上がり、肥料価格が安定化した。これにより農家の平均所得は倍増した ※2ともいわれている。その結果、耕うん機の需要が急激に高まった。同じ耕地面積で収穫量が大幅に増えるのだから、投資効果は高い。

耕うん機の普及は、同国の農業ブーム再燃の口火となった。以前は、耕うん作業・田植えなどの重労働を嫌っていた人々も、いまでは我先にと農地を購入し、レンタルして地代を得るなど、インドネシア農業は多様化している。このように農業のビジネス的側面が強まれば、実質の担い手である“耕す者”の確保は急務となるだろう。その意味で、この国の農業を支えているのは、オペレーターの存在かもしれない。オペレーターとは、地主に雇われて、主な農作業を代行して糧を得る、土地を持たない人々のことである。農業人口の都市部への流出とは、このオペレーターの人手不足を指すのだ。彼らの仕事が少しでも楽に、快適になれば、その分だけこの国の農業問題の解決に近づくだろう。そのために、耕うん機は大きな役割を果たすはずだ。

かつて、インドネシア国民の2人に1人が農家という時代があった。それがいま、3人に1人になりつつある ※3。それでも、農林水産業は、製造業に次ぐGDPを依然としてキープしたままだ。この国にとって、農業が重要産業であることに変わりはない。

熱帯的な都心部の情熱に負けず劣らず、この国の農業も熱いのだ。

※1 出所:インドネシア中央統計庁
※2 出所:農林水産省HP
※3 出所:インドネシア中央統計庁

Voice

耕うん機のオペレーター
パランさん(56)

 スカンディーさんの田んぼを耕すようになって、もう6年以上経つかな。仕事はもう慣れたし、そんなに大変じゃないよ。それは……一昔前は大変だったさ。でも耕うん機のお陰でね、あっという間に耕すことができる。クボタ(のエンジン)は特に馬力が凄いね。将来は自分の田んぼを持てたらいいなとは思う。かなり費用がかかるから、難しいけどね。その時は“クボタ”を買いたいよ。みんなそうしてるし、当然さ!