GLOBAL INDEX
December 2015

FEATURE
"French Republic"

05

パリの景観・環境を
守るという使命

パリ・凱旋門からシャンゼリゼ通りを俯瞰する。パリ市内の建造物の高さ規制が分かる

市域はティエールの城壁跡に造られた環状高速道路の内側の市街地(面積は86.99k㎡。参考:東京都・山手線の内側は63k㎡、ニューヨーク市・マンハッタンは59k㎡)、および、その外側西部のブローニュの森と外側東部のヴァンセンヌの森を併せた形となっており、面積は105.40k㎡。

パリ市内。一歩入ると、小ぢんまりと整備された街並みが続く
界隈には、いたるところにカフェがあり、人々がくつろぐ

ヨーロッパトップシェアを誇る小型建機

執行役員
クボタヨーロッパS.A.S.(KE)
社長
石井 信之

クボタはトラクタやコンバインの農業機械(農機)メーカーとしての顔を持つ一方、小型ショベルのミニバックホーなど建設機械(建機)メーカーの顔を持つ。ヨーロッパでは、ドイツの製造販売拠点クボタバウマシーネンGmbH(KBM)、フランスのクボタヨーロッパS.A.S.(KE)、イギリスのクボタ(U.K.)Ltd.(KUK)の3つの販売会社を有しており、ディーラー網を通じて、8トン以下のミニショベルやホイルローダーを市場に供給してきた。

「都市土木においてクボタが提供するミニバックホーは、高い評価を獲得しています。狭いスペースでも作業がしやすく、小型ながらもパワフルな掘削力と広い作業範囲を持っている建機。KBMは設立されて27年が経過しており、その間お客さまの信頼を培ってきました。小型トラクタ同様、ヨーロッパでトップシェアを堅持しており、今後一層の拡販を進めていく考えです」(KE社長・石井信之)

クボタヨーロッパS.A.S.(KE)本社(パリの北西、アルジャントゥイユに位置する)

クボタの建機が活躍する都市土木。ヨーロッパの都市には、フランス・パリをはじめ美しい景観が数多く存在する。都市土木は街の景観を維持、保全する役割も担っているのである。フランスはヨーロッパの中でも景観保全に力を入れてきた国の一つ。国家的な規模によるフランスの景観保全の取り組みを概観したい。

景観保全の基本となる2つの法規制

フランスの景観保全に関する制度の整備は、1913年に歴史的建造物の保全が制度化されたことに始まるが、その中でも画期的だったのは、文化大臣も務めたアンドレ・マルローが1962年に策定した、マルロー法(フランスの歴史的、美的文化遺産の保全に関する立法を補完し、かつ不動産修復を促進するための法律)である。マルロー法が示した保全地区という考え方は、世界で最初の歴史的環境を保全する法律といわれている。全国で旧市街地が取り壊されて歴史的市街地の中に高層ビルが建つなど、近代化への動向が激しい時代の中、マルロー法の眼目は、歴史的建造物の周囲にある伝統的な建物を修復することにより、歴史的建造物にふさわしい街並みを再生することにあった。しかし、いわば不動産事業の色彩が強く幾度となく改正が行われ、1993年の「風景法」の設立を基に保全再生計画により歴史的市街地を守る「POS(土地占用計画)」に変更され、現在に至っている。

また、歴史的眺望を保護する目的で1977年に制定されたフュゾー規制にも触れておく。フュゾーとは紡錘体(中央が膨らんだ糸巻状の円柱形)のことで、人間の視野を表す。これに基づきモニュメントへの眺望を3つに分類し、それぞれの眺望を遮らないように、手前や背後の高さを規制するものだ。現在、パリ市内47ヵ所の景観に適用されているだけでなく、他の地域の建物の高さ規制の基準設定にも用いられている。

フュゾー規制の原点は、モニュメントの前方と背後の景観保全にある。たとえば観光名所の一つであるヴェルサイユ宮殿は広大な敷地を有しているが、そのどこを歩いても異質な高層ビルは見当たらない。この徹底した景観保全は、国家規模で取り組んできたフランスならではの成果といえる。都市の歴史的市街地における保全地区再生事業から始まったパリの面的景観整備の課題は次第に広域化し、都市全体を対象とするようになった。

芸術の都パリ。モンマルトルでは、ロートレックなど多くの芸術家が住んでいた
景観保全された地区の小路は、石畳が続く
シャンゼリゼ通りから凱旋門を望む。パリの目抜き通りのため、交通量は激しい

環境保全に貢献する建機

景観保全と並行して重要なテーマに環境保全がある。都市部における環境問題はさまざまな要素を含むが、排ガスにおける環境汚染は先進国共通の課題ともいえる。フランスを含むEUは、かねてより排ガスに対して厳しい規制を課してきている。

クボタの建機や農機は現在、日本、ヨーロッパを初めとする各国の規制をクリアしているが、近年の動きとして自動車では、2014年9月に打ち出されたEURO6において、特にディーゼルエンジンから排出される粒子状物質(PM)や窒素酸化物(NOx)の規制値が厳しくなった。2015年から、EUで新たに販売される自動車はすべて、このEURO6の規制値をクリアしなければならなくなっており、近い将来、建機・農機にもさらなる厳しい規制が導入されることが予想される。

「都市土木における建機の排ガスは、ヨーロッパでは大きな課題の一つとされています。EURO規制をクリアすることは当然ですが、今後はクリーンエネルギーへの燃料転換や電動化も視野に入れていく必要があると考えています」(石井)

景観と環境を保全していくこと。それがクボタの建機が担う使命にほかならない。