GLOBAL INDEX
December 2015

FEATURE
"French Republic"

03

果敢な挑戦が結実。
「M7001シリーズ」
市場投入

クボタファームマシナリーヨーロッパS.A.S(. KFM)―ダンケルク行政区・ノール県ビエルヌ市

グローバルな開発布陣

パリから北へ300km、ベルギーと国境を接するダンケルク行政区のノール県ビエルヌ市。ここにクボタの大型トラクタの製造拠点がある。当初、他国も検討されたが、フランスがヨーロッパ農業の中心であることに加え、港を有し、北米などへの輸出にも利便性があることからこの地が選ばれた。

大型トラクタの開発にあたっては、現地ニーズをすぐに反映できるよう、グローバルな開発体制が敷かれた。開発現場では、ビジネス文化や開発風土の違いがあり、着地点を見出すために粘り強い対応が求められた。たとえば、「試作」に対する考え方。クボタの製品開発は、実際にモノを作り込み試作を行うことが継承されてきた。しかし、ヨーロッパは3次元設計の中で作り込むことが主流。稲岡らには、特に、使い易さの判断は実際にモノを作らなければ3次元では把握しきれない、細かい課題や問題は見えてこないという確信があった。「現物を現場で作って実際に触って」という開発手法はクボタの伝統であり、それが高い品質を生み、ユーザーの信頼を獲得してきたのである。現地スタッフにその重要性も理解させ、納得を得るために、議論を交わしながら試作機の製作を進めた。

品質は外観に現れるといわれるぐらい、今やトラクタにもデザイン性が求められる。試作1号機は、ボンネットなどの外観デザインも重視し、四ツ目のヘッドライトを設置した。また、コストダウンによる低価格や、小回りが利く使い勝手の良いトラクタの実現も追求した。

M7001デビュー。その全貌が今明らかに(2015年9月KFM開所式)
開発陣が英知を結集したM7001のキャビンとオールインワンターミナル
四ツ目のヘッドライトが光る、精悍なM7001の顔立ち

精密農業を実践するトラクタ

今回開発した大型トラクタの特徴の一つに「電子制御」がある。近年の農業は適切な肥料・薬剤散布によって環境負荷を低減するためにITを活用した「精密農業」が求められているが、こうした農業の精密化に伴いトラクタの電子制御も複雑化している。一方、大型トラクタの「徹底した使い易さの追求」をコンセプトに掲げたクボタにとって、操作容易性の実現は大きなテーマだった。そこで、トラクタやインプルメントの情報を一つの液晶画面に集約するとともに、操作回数を極限まで軽減したオールインワンターミナルを開発することで、シンプルで分かり易い操作性を実現した。また、エンジン、トランスミッション、油圧機器、インプルメントなどはCANネットワークを介した統合制御を行うことにより、オペレータの負担を軽減できる最適な作業性も可能とした。さらに、GPS/ISOBUSを利用したインプルメント制御への対応やオートステアリング制御を搭載することで精密農業に対応できるトラクタとした。この精密農業へのアプローチは、ヨーロッパおよび先進国が目指す、持続可能な農業実現に向けた重要な試金石となるものでもある。

M7001の出荷を検討しているダンケルク港
避暑地でもあるダンケルクは、風光明媚なフランドル地方にある

ついにトラクタの量産がスタート

フランス・ビエルヌ市にクボタファームマシナリーヨーロッパS.A.S. (KFM)が設立されることが発表されたのは、2013年12月。工場建設と並行して開発は急ピッチで進められた。課題の一つとなったのが現地での部品調達である。日本ではサプライヤーとの長年の取引から、容易に仕様に関するイメージの共有化が図れたが、初めて付き合うこととなったヨーロッパのサプライヤーでは勝手が違った。一つひとつ仕様を詰めていく根気強い取り組みを進め、テスト生産開始にこぎつけた。本格生産開始が近づくにつれ、「お客さまに喜ばれるトラクタを届けたい」という使命感がスタッフ間の思いを一つにし、さまざまな壁やハードルを越える原動力となった。

「MACHINE OF THE YEAR 2015」の表彰状

完成した「M7001シリーズ」は、2015年2月、ヨーロッパの3大農業機械展示会の一つである「SIMA」に出品され、「MACHINE OF THE YEAR 2015」を受賞した。クバンランド社製のインプルメントとのベストマッチによる統合制御を実現したことと、デザイン性が高く評価された。同年8月からフランス南部を起点に、フィールドデモンストレーションをディーラーとともに開始、多くのユーザーから期待と称賛の声が寄せられた。

2015年9月、KFMの開所式が盛大に執り行われた。駐フランス日本国特命全権大使、ノール県副知事などの来賓を迎え、クボタ側からは社長の木股昌俊、KFM社長の山本万平、KFM従業員などの関係者が出席、ヨーロッパの報道関係者も多数取材に訪れた。木股は「2015年はクボタが新たなステージに飛躍する挑戦の年。畑作市場を成長の核と捉え、お客さまの“のぞみ”を超える商品・サービスを、“予測”を超えるスピードで提供していきたい」と挨拶し、グローバルメジャーブランドに進化することを高らかに宣言した。「M7001シリーズ」はついに量産のフェーズに入ったのである。

クボタヨーロッパS.A.S.(KE)社長・石井 信之(左)とトラクタ営業部長・Herve GERARD-BIARD(右)
ノール県副知事とがっちり握手をする社長・木股 昌俊(中央)