GLOBAL INDEX
December 2015

FEATURE
"French Republic"

02

大型トラクタ
「M7001シリーズ」
開発の軌跡

2014年9月、ヨーロッパ・ディーラーミーティングでデモンストレーションされたM7001

作付面積比較

畑作市場へのクボタの挑戦

クボタは、1986年に農業用中・大型トラクタの生産拠点をスペインに設立、スペイン市場を皮切りにEU域内への事業展開を目指していた。しかしスペイン農業の不振により、1994年撤退を余儀なくされた。それから歳月は流れたが、世界の食料問題解決に貢献することを経営理念に掲げるクボタにとって、畑作市場への挑戦は避けて通ることのできない最重要課題であった。これまでクボタが日本やアジアを中心に提供してきたトラクタやコンバインは、ユーザーの高い支持を受けてきた。しかしそれは主に稲作を対象としたものである。世界の作付面積において、畑作は稲作の約4倍に達している。つまり、世界に広がる畑作市場への参入なくして、世界の食料問題解決への道は開かない、といっても過言ではない。

機は熟したと見た経営陣は、2010年、悲願であった畑作市場参入の決定を下す。ターゲットは世界有数の畑作エリアであるヨーロッパ。畑作市場参入は同時に、大型トラクタ開発という、クボタにとって未踏の領域への挑戦でもあった。

(左)トラクタ技術部 第2設計室 F37プロジェクトチーム長 山内 輝仁、(右)クボタファームマシナリーヨーロッパS.A.S. (KFM) プロダクトサポート部 技術課長 稲岡 基成

コンセプトは徹底した使い易さ

車両基礎技術部
西 栄治

クボタは1970年代から、50馬力前後の小型トラクタをヨーロッパ市場に供給してきた。現在、この分野ではヨーロッパでトップシェアを確保している。ただ、その使用形態は公園などの整地・舗道清掃などの軽土木や、草刈りなどの軽作業の用途で使われることが多い。畑作用途となると、耕起や播種、整地、薬剤散布、酪農における牧草運搬など、生産に直結する作業が主体であり、クボタにとってほとんど手付かずの市場だった。

畑作市場へ本格的に参入するために、クボタの中でプロジェクトが動き始めたのは2010年冬のことだった。招集されたのは前出の山田に加え、研究開発部門から山内輝仁(現・トラクタ技術部 第2設計室 F37プロジェクトチーム長)、設計部門から入社以来一貫してトラクタの開発に関わってきた稲岡基成(現・クボタファームマシナリーヨーロッパS.A.S.(KFM) プロダクトサポート部 技術課長)、そして制御設計を担う西栄治(現・車両基礎技術部)の4人。年が明けた2011年初頭、4人は市場調査のためにヨーロッパに飛んだ。どのレンジの馬力が求められているか、ユーザーは大型トラクタに今何を求めているか、把握すべき情報は多岐に及んだ。設計担当の稲岡が実感したのは、現地のユーザーがクボタに寄せる厚い信頼だった。

「小型トラクタを使用している農家の方々から、クボタに大型トラクタを作って欲しいという声をたくさんいただきました。その期待に応える製品をぜひ生み出したいと、約1年の時間を費やしてコンセプト作りを進めました。その結果、130~170馬力にターゲットを定め、開発に着手しました」

しかし大型トラクタ市場の中で、クボタは最後発であり、競合する他社はすでにラインナップを揃えている。市場での優位性、明確な差異化を図らなければ、ユーザーから選ばれることはない。しかも、畑作用トラクタは稲作用のそれと根本的に設計思想が異なっていた。トラクタは、インプルメントと呼ばれる作業機を取り付けることで活用できる。稲作用トラクタは水田で使用されるため軽量化が求められたが、大規模畑作では巨大なインプルメントの装着が必要とされ、必然的に重量化が要求される。稲岡らが導いた結論は、重量に加え、稲作市場で培ってきた自分たちの強み、すなわち、きめ細かな操作性を継承することだった。

「要求される基本スペックはどのメーカーのトラクタでもそれほど大きな違いはありません。私たちは長年にわたって、ユーザーの使い易さを考えてトラクタを開発してきた経験、実績があります。徹底した使い易さの追求、それを大型トラクタ開発のコンセプトとしました」(稲岡)

「クバンランド社」の技術も結集

稲岡らは、キャビン(運転室)内のすべての機能を一つひとつ検証した。中でも、入念に作り込まれたのが、レバー一つで操作できるマルチファンクションレバー。作業者にかかる負荷を大きく軽減するため、キャビン内のスイッチやアームレストのレイアウト最適化を図り、操作系を手元に集中することによって長時間の作業でも疲れにくい設計とした。また、フランスをはじめとしたヨーロッパ農業は混合農業ともいわれ、小麦、とうもろこしなどの畑作穀物から、乳製品、食肉などの酪農畜産、さらにはぶどう、オリーブなどの果樹栽培まで多彩であり、ニーズも多様である。これらに対応するため、大型トラクタはユーザーそれぞれの要望に合わせ、キャビンの形状から装着するタイヤまで細部にわたるカスタマイズを可能とした。

クボタは2012年初頭、試作第一号機製作に着手するとともに、国内外に畑作市場への本格参入を宣言する大胆なアクションを起こす。幅広い品揃えと高い技術力で、ヨーロッパを中心に高いブランド力を有するトラクタ装着用インプルメントメーカーであるノルウェーの「クバンランドAS」を買収、クボタグループの傘下に治めたのである。これにより畑作用インプルメントにベストマッチした大型トラクタを開発できる強みが加わった。

畑作用インプルメントの数々。耕起や播種、整地、薬剤散布、酪農における牧草運搬など用途に分けて使用される。これらの多岐にわたる重作業を一手に引き受けるのが、今回開発された大型トラクタM7001だ
畑作用インプルメントの数々。耕起や播種、整地、薬剤散布、酪農における牧草運搬など用途に分けて使用される。これらの多岐にわたる重作業を一手に引き受けるのが、今回開発された大型トラクタM7001だ
畑作用インプルメントの数々。耕起や播種、整地、薬剤散布、酪農における牧草運搬など用途に分けて使用される。これらの多岐にわたる重作業を一手に引き受けるのが、今回開発された大型トラクタM7001だ
畑作用インプルメントの数々。耕起や播種、整地、薬剤散布、酪農における牧草運搬など用途に分けて使用される。これらの多岐にわたる重作業を一手に引き受けるのが、今回開発された大型トラクタM7001だ