GLOBAL INDEX
December 2015

FEATURE
"French Republic"

01

“持続可能な農業”
に向かう農業大国
フランス

農業大国を象徴するように、広大な大地にたわわに実る小麦

EU最大の農業国の現状と課題

マルシェには、有機野菜のみを扱う店も並ぶ

フランスは、「自由・平等・友愛」を表した青・白・赤のトリコロールの旗が美しいヨーロッパを代表する国だ。国土は日本の約1.5倍、人口はおよそ6,600万人、国内総生産(GDP)は2兆8,064億ドル(日本・4兆8,985億ドル)、アメリカ、中国、日本、ドイツに次ぐ世界第5位の経済規模を誇る。また、一人当たりの国民総所得(GNI)は4万3,073ドルと世界水準の約4倍、日本の3万9,947ドルを上回るレベルだ *1。多くの先進国同様に第三次および第二次産業が経済の中心であり、年間8,370万人が訪れる世界最大の観光国である *2

一方で、農業生産額はEU最大であり、EU全体の19%を占める一大農業大国という顔を持つ *3。農地面積は国土全体の52.5%を占め(日本同12%)、EU最大の農地面積を有する。穀物生産量では、中国、アメリカ、インド、ブラジル、ロシア、インドネシアに次ぐ世界第7位。ほとんどの農産物において世界上位10位以内の生産量を誇る。主要農産物は穀物では小麦、大麦、とうもろこし、根菜ではばれいしょ、てんさい、畜産では牛肉、豚肉、生乳、チーズの生産が際立つ。また、ぶどうの生産も盛んでワインの生産量は世界第1位である *4。ちなみに、一人1日当たりの供給熱量で計算したカロリーベースでの食料自給率は、日本の39%に対して129%に達している *5

「ヨーロッパのパン籠」とも称されるフランスだが、農業が置かれた現状は決して楽観的なものではない。1990年代以降農業者人口は毎年減少し、人口の都市部への集中に伴う都市周辺地域での農地転用、耕作地放棄による農地減少が進んでいる。また、生産効率化のために使用された過剰な窒素肥料による環境汚染も深刻な問題として指摘されている。こうした問題は、フランスのみならず日本を含む先進国の農業が直面している共通の課題ともいえるだろう。今後、それらの課題を解決し、いかに「持続可能な農業」を実現するか。それがフランスをはじめとする先進国各国の農業に問われている。

*1:2013年・国連統計
*2:2014年・世界観光機関UNWTO
*3:農林水産省Webサイト
*4: 2013年・ 「FAOSTAT」FAO統計データベース
*5:農林水産省「食料需給表」

所狭しと並ぶチーズ。濃厚で種類も豊富だ

フランス発、
世界の食料問題への解決策

フランスを含むEU28ヵ国で共通して講じられている農業政策が、Common Agricultural Policy: CAP=共通農業政策である。1962年から導入されているヨーロッパの農業のスタンダードともいえるものだ。このCAPを牽引しているのがフランスであることはいうまでもない。現行のCAP制度は、2つの柱から成り立っている。第1の柱が農家への「所得補助」や「市場施策」である。第2の柱が「農村振興政策」で、環境保全や農村経済の多様化、競争力強化などの取り組みが進められている。こうした政策によって、単一市場で供給・価格を安定させ、農家の所得を維持することを可能としてきた。

農地保全のためにも、畑作と畜産を並行して行うミックス農業が推奨されている

現在、CAPは環境保護やグローバリゼーションに伴う農家支援など近年の課題を考慮に入れながら、持続可能で生産性が高く、競争力のある農業を目指している。このため、食の安全と環境を保全し、持続可能な農業を実現するための有機農業に取り組む農家には追加補助金を交付するなど、推進策が講じられている。

こうした、フランスおよびEUの農業、畑作市場へのクボタの参入はどのような意味を持つのか。今回のプロジェクトの中心的役割を担った一人である大型農機事業推進部長の山田進一は、クボタが目指す世界の食料問題解決の新たな一歩であることを指摘する。

大型農機事業推進部長
山田 進一

「世界人口は2050年に95億人に達するといわれています。人類が生きていくために食料増産は必須のことですが、耕地面積は5~10%程度しか増えないとされており、人類の食料問題の解決は決して容易なことではありません。こうした現状を突破するために求められることの一つが畑作分野を中心とした食料増産であり、一層の生産効率化です。その実現のため、すなわち世界の食料問題解決に向けた新たな挑戦として、フランス、EUの畑作市場への本格参入があるのです」

山田の言うクボタの新たな挑戦。その軌跡を追った。

●フランスの穀物生産

(2013年・FAOSTAT/Resources)
小麦 5位(1位中国)
とうもろこし 9位(1位アメリカ)
大麦 3位(1位ロシア)
ばれいしょ 8位(1位中国)
てんさい 2位(1位ロシア)
ぶどう 5位(1位中国)

●フランスの穀物輸出

(2012年・FAOSTAT/Resources)
小麦 4位(1位アメリカ)
とうもろこし 5位(1位アメリカ)
大麦 2位(1位オーストラリア)
砂糖 5位(1位ブラジル)

●フランスの畜産物生産

(2013年・FAOSTAT/Resources)
牛乳 7位(1位アメリカ)
バター 6位(1位インド)
チーズ 3位(1位アメリカ)