GLOBAL INDEX
December 2019

FEATURE
"Kubota Construction Machinery in U.S.A."

06

広がりをみせる建機ビジネス
~新たなパートナーとのシナジーを発揮~

お互いの強みを生かし合うパートナーシップ

グレートプレーンズマニュファクチュアリング
最高経営責任者
リンダ・セーラム

近年のクボタの建機事業において、大きな転換点となったのが2016年。グレートプレーンズマニュファクチュアリング(GPM)をクボタグループの一員に迎えたことである。1976年にカンザス州サライナで創業したGPMは、北米で厚い信頼を獲得している老舗のメーカーで、農業用のインプルメント、建設用のアタッチメントの製造に強みを持つ。これらは農機や建機から動力を得て、さまざまな仕事を行う製品のことだ。1台の建機が、掘る・運ぶ・穴を開けるなど何役もこなせるのは、作業目的に合わせて多種多様なアタッチメントを交換しているためである。そのため建機とアタッチメントは切っても切れない関係にあり、互いの仕様がぴったりとマッチしてこそ性能を最大限に発揮できるとも言える。クボタとGPMが手を携えた意義が、まさしくそこにある。

歴史をさかのぼれば、クボタとGPMは1980年代にはすでに重要な取引相手であった。その距離をさらに縮めたのが、2007年に結んだ農業用のインプルメントの分野での販売連携協定である。当時のクボタはアメリカ市場で小型トラクタの販売に注力していた。クボタにとってはGPMと組むことで、トラクタにベストマッチのインプルメントを安定的に確保することが可能になり、ユーザーへの訴求力を高めた。一方でGPMにとっては、クボタが築いたディーラーネットワークでインプルメントを販売できるようになり、大幅な販路拡大に成功。両社はお互いがもつ強みを生かしながら、最適なパートナーシップを育んでいくこととなった。同じ効果はすぐに建機事業にも現れるようになる。2014年にGPMは小型建機用のアタッチメントの製造を開始。これはクボタがCTLやSSLを開発して、アメリカ市場に攻勢をかけようとした時期と重なる。その結果、現在ではクボタブランドでのアタッチメントの供給が実現、ユーザーニーズに応じて、建機本体とアタッチメントをセット販売することで、建機事業の拡大に大きく寄与することとなった。

「かつて5種類程度だったアタッチメントは、現在40種類までラインナップを揃えました。これはクボタと協働で新製品を開発し導入した結果です。質的にも量的にも伸びており、アタッチメントの売上げは急拡大しています。クボタとともに安定した高信頼性の製品を提供していることに加え、開発から製造、販売までワンストップで提供できること、クボタのディーラーネットワークをフルに活用したサービス、アフターフォローなどが高い評価を生んでいると感じています」(GPM最高経営責任者 リンダ・セーラム)

グレートプレーンズマニュファクチュアリング本社
建機用アタッチメントの製造風景。社員たちが一つひとつ丁寧に作りあげていく
建機用アタッチメントの製造風景。社員たちが一つひとつ丁寧に作りあげていく

GPMとクボタとの文化的親和性

グレートプレーンズマニュファクチュアリング
ランドプライド事業部長
ジョン・クインリー

クボタとGPMの連携が軌道に乗り始めたころ、GPM創業者は引退を視野に入れ、事業の譲渡先を探していた。そして検討にあたりまず候補に挙がったのが、ほかならぬクボタであった。GPMとこれまで良好な関係性を築いてきたパートナーであることに加えて、顧客と社員を最大限に大切にするという経営理念の親和性が、大きな決め手となった。この統合は、アメリカで一般的な企業買収とは様相を異にしていることをランドプライド事業部長のジョン・クインリーは指摘する。

「アメリカで企業買収が行われた場合、事業整理や体制の抜本的な再構築など、買収相手に大きな変化を求めることが少なくありません。しかしクボタはGPMの事業をリスペクトし、私たちのやり方をできるだけそのまま生かそうとしています。クボタと私たちの間には、何ら垣根はなく、密なコミュニケーションが行われています。GPMの継続性を担保し、文字通りコラボレーションすることで、お互いを高め合う風土が生まれている。これは企業買収の稀有な例です。今後、より両社の関係を緊密なものにして、クボタグループの建機事業の拡大にともに臨んでいく考えです」(クインリー)。

石を運搬するSSL(左)と資材を運搬するCTL(右)。アタッチメントを変えることで、SSLやCTLはさまざまな力を発揮する

真のシナジー発揮へ

クボタノースアメリカコーポレーション
製品開発コーディネーター
竹村 俊彦

両社がともに歩み始めて3年。統合のシナジーは、モノづくりの現場やガバナンスにおいて徐々に発揮され始めている。中でもセーラムが「とてもエキサイティングなコラボレーション」と評するのが、新製品の共同開発プロジェクトだ。開発の主体はGPMで、それをクボタが支援する体制をとる。サポート役として送り込まれた竹村俊彦は、かつてCTLやSSLの開発を率いた小型建機開発のエキスパートだ。

「着任したときは、初めての試みとなる共同開発をGPMが果たしてどのように受け止めるのか、読めませんでした。しかしGPMのエンジニアにプロジェクトの概要を伝えた際に、その不安は払しょくされました。彼らの目からは、チャレンジすることへの期待感と高いモチベーションが感じられ、私はそのときこれならいけると確信しました」(竹村)

竹村とGPMのエンジニアたちは、先行する他社製品の分析や、市場でのサーベイを重ね、新製品を少しずつ形にしていった。それぞれ異なる製品領域を持つ両社は、得意とする技術も異なる。互いの強みを製品開発に込めるとともに、急速な製品ラインナップ拡充を実現してきたGPMの柔軟な発想も、課題を乗り越えるきっかけとなった。

「今回のプロジェクトは、クボタの建機事業として初めて海外で新製品を一から開発する試みであるという点で、一つの節目と言えます。クボタのモノづくりの基本は、実際に製品を使う人の目線に立つことです。アメリカで愛される製品を作ろうと思えば、アメリカ人の感性や考えを取り入れることで競争力が生まれます。今、アメリカ市場での製品ラインナップの拡充は喫緊の課題です。クボタグループが持つリソースを最大限に生かして、市場から本当に求められる製品を迅速に投入していくための試みが、今回の共同開発にほかなりません」(竹村)

クボタのアメリカ市場における建機事業は、GPMをグループの一員に迎えたことで、新たな局面を迎えた。竹村が取り組むアメリカ発の製品開発は、アメリカにおける建機事業の今後の行方を占う試金石になりそうだ。クボタの建機事業はCTLの市場投入以降、躍進を続けているといっても過言ではない。しかし環境変化の波は激しく、市場の声に耳を傾け続けなければ、すぐに落伍する厳しい世界でもある。建機事業のさらなる飛躍に向けて、クボタはよりアグレッシブに新たな挑戦を継続していく――。

コンピュータ技術を駆使して製品開発を進める若手技術者