GLOBAL INDEX
December 2019

FEATURE
"Kubota Construction Machinery in U.S.A."

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クボタに建機あり。
時代の要請から生まれた製品群
~小型建設機械で世界を牽引~

日本のインフラ整備への挑戦

クボタの建設機械(以下、建機)事業への参入は、1953 年の「久保田建機株式会社」設立に遡る。パワーショベルを中心に設計と販売を開始し、建機事業への進出を果たした。当時、日本は戦後の復興が進む中、電源開発が本格化し、水力発電用大型ダム建設で欧米からの輸入大型建機が活躍を見せると、建機国産化の機運が高まった。電源開発のみならず、高速道路や交通・通信網の整備、港湾施設の増強など、産業基盤の整備というビッグプロジェクトが続出。こうした時代の要請の中で、クボタは建機事業をスタートさせた。

都市部の大型建設現場では、運搬荷役で行動範囲に制約のないモビールクレーンが主流となり、需要が急増。それを受けてクボタは、「4トン吊りモビールクレーンKM40型」を開発し市場に供給、さらに「8トン吊りKM80 型」を完成させモビールクレーンのシリーズ化を進めた。その結果、港湾荷役用分野で国内シェア第1 位を獲得。確かな存在感を発揮した。建機業界の発展を大きく後押しした要因の一つに、1960年代に欧州から導入が始まった油圧技術の進歩が挙げられる。小型・軽量システムながら大きな力を発揮し、操作性にも優れた油圧式は広い用途に適し、建機の性能・品質を向上させていった。機を逃さずそこに着目したクボタは、1966年、西独バイハウゼン社と技術提携し、クボタ初の油圧式ショベル「アトラス」を主力機種として育成することを決定、生産を開始した。しかし、日本列島改造ブームの追い風もあって、油圧式ショベル業界の競争は激化。クボタは、安定した受注を確保し健闘するものの、競合との闘いの中、苦戦を強いられた。

クボタの建機事業を語る上で、モビールクレーンや油圧式ショベルなどの大型建機時代は、いわば「前史」といえるものだ。大型建機で苦戦する中、クボタは1973 年、建機事業の大胆な再構築に乗り出す。それが「小型重点志向」だった。現在の小型建機につながる歴史はここから始まった。

圧倒的支持を得たミニバックホー

建設機械事業部長 常務執行役員
湯川 勝彦

クボタが小型建機に転じたのは、時代や市場のニーズに敏感に対応した結果でもあった。高度経済成長の中、社会のニーズは生活環境整備主体の都市型工事へ移行し、都市化に伴う小規模工事が増加。掘削、運搬などの人力での現場作業に限界が生じ、ブルドーザーの小型版であるハンドドーザーなど、小型建機への需要が高まりを見せていた。そうした市場動向を受け、クボタは、現在のミニバックホー(Mini-Backhoe、以下MB)のベースとなる「全旋回式小型油圧ショベルKH1」を開発し市場に投入、小規模な都市型工事に適した特性が高く評価された。

品質、操作性や耐久性などの性能に対する高い信頼性を強みに、MB は快進撃を続ける。MB はさまざまな環境・条件下の小規模現場で使用されるため、走行・ターン、上部旋回など、小回りがきくことが大きな特長だ。クボタは、フィールドを選ばない後方小旋回機、狭い現場で機敏に動く超小旋回機、多彩な作業をサポートする標準機と、ニーズに応じた製品ラインナップを市場に供給、その勢いはグローバル市場へ波及していった。

1978年に欧州・北米にMB の輸出を開始。1988 年には、ドイツ・ツバイブリュッケン市にMB の生産拠点、クボタバウマシーネンGmbH(KBM)を設立し、欧州への本格的な供給を開始した。しかし、1990年代半ば、MBは先発であるクボタを追随する他社メーカーの猛追を受け、売上げ不振の状況に陥った。その苦境をいかに乗り越えたか。当時、製品開発部門でこの難題に取り組んだのが、現在、建設機械事業部長である湯川勝彦である。

「クボタのモノづくりの真骨頂でもある、ユーザー視点に立った操作性や耐久性の高さで品質には高い信頼性があり、市場から確かな評価を受けていました。しかし、なぜ売れないのか。それは、他社と比較してクボタのMBは高価格であるからでした。そうした状況の中で、私たちは建機事業の再建プロジェクトを1997年にスタートさせたのです。取り組んだのは徹底したコストダウンでした。具体的には、標準機、後方機、超小機といった製品ごと、あるいは日本、欧州、北米といった市場ごとに行っていたオーダーメイドのような設計開発を抜本的に見直し、各製品を構成する部品・部材等の共有化を図ることにより、高い品質や性能を担保しつつ大幅なコストダウンを実現しました。この取り組みによって危機を乗り越えたことで、今日の建機事業の礎を築くことができたと思います」(湯川)

こうして品質に加えてコスト競争力でも強みを発揮したクボタのMB は、欧州市場で爆発的に伸長。2002 年には世界販売台数(6トン未満MB市場)で首位を達成した。その後現在に至るまでその地位を他社に譲っていない。

アメリカで急成長を遂げるコンパクトトラックローダ(CTL)。接地面が広いベルト型の「クローラー式」で、軟弱地での走破性が高く、安定性や掘削力が高い
クボタの建機事業を牽引するミニバックホー(MB)。2002年以来、世界の販売台数(6トン未満MB市場)で首位を突っ走る

小型建機マーケットの地域特性

ここでクボタが取り扱う建機のラインナップについて解説しておきたい。クボタが取り扱う建機はMB を含め、ホイールローダ(Wheel Loader、以下WL)、コンパクトトラックローダ(Compact Track Loader、以下CTL)、スキッドステアローダ(Skid Steer Loader、以下SSL)の4 種が挙げられる。

MBは、油圧ショベルと総称される建設機械のうち、6トン未満のものを指す。掘削、運搬などに用いられ、特に小回りが利くことから日本でも道路工事などで頻繁に使用される。WLは、前方にパワーショベルやバケットなどを備えた特殊自動車。クボタは小型機種に強みを持ち、ヨーロッパ市場で存在感を発揮している。CTL、SSLは北米市場でポピュラーな機種だ。両者はよく似た外観を持つが、CTL は接地面が広いベルト型の「クローラー式」であるのに対し、SSLは「ホイール式」。CTL は軟弱地での走破性が高く、安定性や掘削力が高い特長がある。一方、SSLは移動性に富み、小回りがきくところから狭所作業に強みを発揮する。どちらも資材や土砂の運搬・積込、市街地での道路工事、造園など活躍の場は幅広い。かつて北米市場で圧倒的に支持されてきたのはSSLである。アメリカ生まれアメリカ育ちの製品であり、多くのユーザーに愛用されてきた。しかしその後、軟弱地や傾斜地、雨天での作業ではホイール式であるSSLよりCTL の方が安定性や使い勝手が良いことから、CTLは次第に多くのユーザーに受け入れられていった。

このように小型建機は、地域の歴史や環境によって、好まれる機種が大きく異なる。グローバルにビジネスを展開する上では、地域特性にあった製品を投入することが肝要である。

「ホイール式」のスキッドステアローダ(SSL)。アメリカで生まれ、アメリカで育ち、多くの人々に愛されてきた。移動性に富み、小回りがきく
前方にパワーショベルやバケットなどを備えた特殊自動車、ホイールローダ(WL)。クボタは小型機種に強みを持つ