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TECHNOLOGY

国内メーカー初、ついに販売開始農機の歴史に新たな1ページを刻む!アグリロボコンバインを市場投入へ

2018 . 06 . 15 / Fri

農機の歴史に新たな1ページを刻む!アグリロボコンバインを市場投入へ

文・写真=クボタプレス編集部

ICTやIoTを活用した次世代スマート農業の実現に注力するクボタは、自動運転アシスト機能付「アグリロボコンバイン」の2018年12月販売開始を発表しました。圃場*1内の最適経路を自動走行するだけでなく、刈取り高さ調整・作業クラッチの入/切なども自動化。また、モミ貯留タンクが満杯になるのを予測して、設定した排出ポイントまで自動で移動する機能も搭載。好評の「食味・収量センサ」をオプション設定にもつ、日本型精密農業に即したモデルで、農家の大半を占める高齢者や経験の浅い兼業者が現場で直面している課題の解決をサポートし、営農規模拡大、農作物の収量および品質の向上、生産コスト低減といったメリットに導きます。担い手の作業効率と労働負荷を物理的に変革しつつ、データに基づき最適化した経営計画・成果をもたらすことが目的です。
クボタは2016年に業界に先駆け、直進キープ機能を内蔵した田植機オートステアリング対応のトラクタを開発し、実用化に向け精度を極めてきました*2。このたび、アグリロボコンバインの投入により、トラクタ・田植機・コンバインの全3機種で自動運転が可能に。これらの自動運転農機と『Kubota Smart-Agri System (KSAS)』との連携を強化して、いっそう充実した営農支援システムを提供していきます。

  1. *1.ほじょう:農作物を育てる田畑や農園。
  2. *2.第1弾:2016年9月、直進時の自動操舵走行が可能な「直進キープ機能付田植機」を発売。第2弾:同年12月、直進に加えて曲線経路も自動操舵走行が可能な「畑作用大型トラクタ」を発売。第3弾:2017年6月、使用者の監視下において無人運転作業が可能な「アグリロボトラクタ」をモニター販売。第4弾となるのが、「アグリロボコンバイン」。
高度なGPSや多様な安全装置を搭載

ユーザーはコンバインに搭乗して監視しながら、ハンドル操作で微調整や開始/停止を指示。高度なGPSや多様な安全装置を搭載し、あらかじめ設定した最適経路を自動走行します。

収穫にも熟練の経験と技術が必要、コンバインの運転は難しい

コンバインの運転は、熟練の経験と技術が必要で、想像以上に難しいと知っていましたか。
圃場は平らでないため、微調整を要します。一般に「複数のレバーやボタンを操作し、進む方向と刈取部のコントロールを同時に操れるまでには、相当な経験・スキルを積まないと……」と言われ、従来はその点も、営農経験の浅い兼業者や新規参画を検討する若手のハードルを上げる一因となり得ました。

長年農家に寄り添って現場の課題や要望を汲み取り、未来を拓くソリューションを提供しているクボタが目指すのは、不慣れな担い手も安全に生産効率よく、低コストで営める“次世代農業”の本格普及。自動運転農機が製品化されれば、労働負荷の高い作業は機械が行い、人間はIoTを活用しながら付加価値を生み出すパートに専念できます。クボタ収穫機技術部は、世界屈指のセンシング技術をはじめ高度な技術を組み合わせ、約3年かけてアグリロボコンバインを開発。トラクタ、田植機に続くリリースで、ついに自動運転が可能となりました。

農家のニーズを直接汲み、自動運転コンバイン開発をリードした電装技術スペシャリスト、クボタ収穫機技術部の仲島鉄弥チーム長を訪ね、お話を聞きました。

ニーズ調査から製品化までの全工程にかかわる醍醐味

――2017年の「クボタ新春のつどい」にて、実演会場の注目と期待を集めた、GPS(全地球測位システム)搭載の自動運転農機3種が、市場投入のときを迎えました。自動運転開発担当チーム長、そして制御技術の専門家としてどのように携わられたのか、最初に聞かせてください。

「私は1993年に入社以来、クボタでずっとコンバインの電装開発にかかわっています。主に、制御・組み込み系のプログラミングを手掛けてきました。アグリロボコンバインの取り組みに際しては、農家に出向いて自らニーズを伺うところからスタート。実地で課題と対策を吟味して企画立案しました。ユーザーとなる方の“顔が見える”ことは、とても意味があります。農業への想いや悩みを生の声で聞き、共に圃場で設計・機能・操作性などを検討することで、本当に役立つ農機が作れるのです。設計・実装を経て検証を繰り返し、製品化までの全工程に携わりました。開発者にとって、非常にやりがいが大きく、日本型精密農業への確かな貢献と技術の進化が感じられる仕事です」(以下、仲島さん)

――この製品の目的である、農業の人材不足の解消と生産性向上、未熟練者のサポートにつながるパフォーマンスを機能させるために、開発段階で特に注意を払ったことは?

「コンセプトは、誰もが“簡単操作”で“楽”に 、“無駄のない最適収穫”をできる自動運転コンバイン。自動運転できるといっても、操作が難しくては使ってもらえません。また、使ってみて実際に“楽”だと感じてもらえないと無意味ですし、無駄なく収穫できることも必須。それらを実現するために、仕様を考え抜きました」

アグリロボコンバイン 自動運転アシスト機能紹介

制御のポイント(1) 走行制御と最適経路

――運転ルートについては、まず手動運転でフィールドの外周を走り、圃場マップを自動作成。それに基づいて、車載GPSが高精度に自動運転を導くと聞いています。

「コンバインは構造上、左右のクローラの回転数の差で、方向修正や旋回をします。目標通りに走らせるのは、かなり難しいチャレンジ。そこを攻略する走行制御の開発が重要でした。そのうえで、最適経路の決定にも時間をかけて取り組みました。いわゆるカーナビのようなものを思い浮かべてください。最短距離・最短時間で田んぼ1枚を刈り取れる、全くムダのない経路を自動走行させるんです。常にGPSとIMU(慣性計測装置)で位置と方位を計測し、誤差は数センチ以内に制御。クルマの自動運転と異なり、センターラインなどの目標物がありませんから、『作物を踏まず、スペースの余剰も出さず』の両立には、高い制御精度が求められます。
将来的には、クボタの自動運転農機がそれぞれ連携し、圃場マップや各種データを共有させることで、いっそう効率化が進むサービスにしたいと考えています」

本当に役立つ自動運転コンバインを3年かけて開発

現場を訪ねて農業への想いや悩みを聞き、圃場で使いやすさなどを繰り返し検証。“本当に役立つ”自動運転コンバインを3年かけて開発。高度なGPS機能が、いよいよ日本の精密農業を動かします。

――走行経路を何パターンも試して、比較・精査したのですか。

「例えば、コンバインの作業工程の中に、モミの排出があります。もし経路の途中でモミが満杯になったら、排出場所まで戻るムダな動きが生じてしまうでしょう。排出場所の近くに来たときに、次に行くとモミがいっぱいになると予測して、先に排出できないだろうか。排出が終わって経路に自動復帰する際、刈り取り作業が最短になる場所へ自動計算して戻りたい……“徹底的にムダを排除した”経路を導き出そうと苦労しました。
そこで、社内のさまざまな部門と協力して、シミュレーションを重ねました。私たちはコンバインの開発が専門。経路算出は、研究開発本部の計測制御技術センターや機械先端技術研究所にプロがいます。農家の方より受けた使い勝手のニーズと私たちのアイデア、専門家によるアルゴリズムを合わせ、最適経路を極めました。刈り終わった部分を自動で判断し、区域内に作物が残っている所を自動で判断して収穫する機能は、クボタの誇る技術の結晶です」

制御のポイント(2) 有人監視下で自動運転、まだまだ進化

――コンバイン特有の開発の複雑さがあるとお見受けします。

「安全性をいかにして確保するかも、大きな課題でした。今回開発した自動運転コンバインは、農林水産省の策定する『農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドライン』のレベル1に相当しています。これは完全無人状態でなく、ユーザー監視下(使用者搭乗状態)における自動走行です。ユーザー監視下で使用するとはいえ、不安全なことがあってはなりません。関連部門が集まり、リスクアセスメントを繰り返すことで、発生するリスクを可能な限り低減させました。
また、作物を収穫する機械ならではの難しさもあります。収穫物がある以上、どうしても詰まりが発生します。詰まりをいち早く検出するセンサも搭載し、自動運転を素早く一時停止する工夫も、自動運転と併せて施してあります。音声ガイダンスも完備。これで、コンバイン未熟練者も安心して収穫作業に臨めます」

圃場のそばに設置するGPS基地局を通じて、正確に圃場を計測します。誤差は数センチ以内に収まるほどの精度。

アグリロボコンバインは、モミを排出するタイミングも含めた最適経路を算出します。

――開発時の圃場テストに協力いただいた農家の方・一足早く試験導入されたユーザーの方の反応は、いかがですか。

「田植えが終わると、水管理とあぜの草刈りが4カ月くらい続きます。その後やって来る収穫シーズンは意外と短く、およそ1カ月で、それはもう忙しいのです。『朝から晩まで働き通し。収穫して、夕方から籾の乾燥後処理をやって、朝早く出荷して――毎日がハードワークの連続なので、監視・搭乗は必要であっても、楽にコンバインを走らせられることが本当に嬉しい。 体の疲れも、心的なプレッシャーも全く違う!』と熟練農家の方が言っていました。未熟練者にはやさしくサポートし、ベテランの作業を省力化する導入メリットを感じていただけて、自動運転コンバインにかかわったメンバー一同、喜んでいます。クボタの総合力があってこその製品化といえるでしょう。次世代スマート農業は、動き出したばかり。私たちにできることは、まだまだたくさんあります。使っていただくなかで見えてくる改善点や新たな要望、社会や市場が求める農業のあり方に即して、次フェーズを展開していきたいと思っています」

仲島さん

一見ランダムのような軌跡は、実は無駄のない走行経路。こういった刈り取り方は、人ではなく、機械ならではのものといえます。

これからの展望

――農業の現場から聞こえてくるリクエスト、クボタの開発チームや仲島さんご自身が取り組みたいと考えている技術や機能など、今後のビジョンを聞かせてください。

「自動運転コンバインの現バージョン対象の収穫物は、稲と麦のみです。もっとバリエーションを増やして、大豆などにも対応しようとしています。作物によって収穫の仕方が異なるため、走行経路を変えなければなりません。稲・麦はマップの区域内を塗りつぶすように走らせていますが、豆の場合は、植えている間隔を考慮しないと。センサで『次はここに作物があるだろうから、このように進んで……』と精密な調整を行うのは大変ですよ。どうやって解決していくか、年内にもテストを開始する予定です。
それから、自動化のレベルアップ(レベル2へ)。ユーザーがフィールドの周囲から監視または別の農機に搭乗して、無人機を自律走行させる段階を目指しています。農家のご協力のもとに現場での検証を重ね、さらに安全性と操作性を追求している最中です。
今年の新春のつどいで『KSASレイヤーマップ』を発表しましたように、クボタの営農支援サービス、KSASは目覚ましく進化しています。自動運転トラクタ・田植機・コンバインも密接に連携していくことで、食味・収量以外に、農業機械の作業経路・施肥データ・生育状況・土壌肥沃度・土質など、ますます多くのデータを多層的にひもづけられる日も間近。“次世代スマート農業といえばクボタ”の呼び声にふさわしく、これからも業界に先駆けた技術・製品を創出して、日本型精密農業に貢献し続けます」

――自動運転コンバインの海外展開は?

「将来的には、グローバル市場も視野に入れています。導入される国/地域の気候、作物の種類、圃場の固さ、機械やパーツの頑強さなど、さまざまな観点で研究のしがいがありますね」

――最後に、クボタで25年になるご自身のキャリアを振り返って、一言。

「クボタで働くことはエンジニアにとって、仕様も自分で決められる・モノ作りを手掛けられる・試行錯誤から学べる――と、専門性を生かしてすべての工程に携わる機会と楽しみがあることを意味すると、私は思っています」

仲島さん

「クボタで働くエンジニアは、まず現場主義。私も先輩から『お客さんのところへ勉強させてもうてこい』とアドバイスされ、農家の方の声を聞きながら、開発に携わってきました。喜ばれたときのやりがいも大きいですね」と語る仲島さん。

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